第25話

 夜遅く、子供達がベッドで寝ている横で、ヨルカ達とエズの五人は起きていた。

「それでヨルカ様、これからどうしましょうか?」

 ブランがヨルカに指示を求めた。

「とりあえず調査だな。エズよ、とりあえず他に入ってはいけない部屋とマリアンの動向について教えてくれ」

「う、うん」

「コルトとブランはエズの知らない部屋などの調査だな」

「「はい」」

「ヨルカしゃま、わたくしはどうちましゅか?」

「お前は…………子供の相手でもして注意をそらせ」

「えー、いもうとあちゅかいしゃれるのはいやなんでしゅよ」

 明らかに小さくし過ぎて、役に立たないヴァレットにヨルカは適当にあしらった。

 姉に憧れるヴァレットは妹扱いされるのは嫌らしい。

「そんなこと言われても、今更変えようもないだろ。ではエズ、詳しいことを聞かせてくれ」

 ヨルカはヴァレットの文句を放っておいて、夜遅くまで、エズに情報を聞き出すのだった。



 ***



 翌朝。

「では、いい子にしててくださいね。解体部屋には近づいてはいけませんよ」

「「「「「はーい!」」」」」

 マリアンが空の荷車を持って、出かける準備を始めた。

 これからマリアンは金を稼ぐために仕事及び買い出しのために近くの町に向かう。

「「「「「いってらっしゃい!」」」」」

 マリアンは笑顔で子供達に手を振りながら、荷車を押して町に向かった。

「よし、俺達は掃除をしようか」

「うん!」

「私達は畑仕事に行きましょ」

「はーい!」

 子供達は元気な声を出すと、孤児院歩き始めた。


 エズの話によればマリアンは三日に一回の頻度で町に行って仕事や買い出し、里親探しなどをしていたり、動物の死体を持って帰って解体部屋で解体などの仕事をしている。

 子供達はその間に孤児院の掃除、洗濯、小さな子の世話などをしたり、村人の畑仕事の手伝いをして野菜などをもらい、孤児院は保たれているらしい。


 ヨルカ達はとりあえず孤児院の周りを見渡した。

 解体部屋は孤児院の裏にあり、外に続いている扉もあるが、鍵がかかっていた。

 外に問題なかったため、今度は中、一番怪しい解体部屋へと向かった。

 だが、解体部屋に行くためには廊下を通らないといけないが、子供達が掃除を始めめてしまったため、廊下掃除も何人かしている。

 マリアンがいないのに掃除をする利口な子なら、マリアンに忠実、つまり解体部屋に行っても止められる。

 ヨルカ達も掃除のふりをしながらどうするか考えいる。

「あ」

 何かを思いつき、ヨルカは杖を取り出した。

「ヴァレット、活躍することが出来たぞ」

「あい?」

 ヨルカはコルトに抱っこされているヴァレットに杖を向けた。

「変異系魔法第三術式、『獣化テージ・オブ・ビスト』」

「うぅっ……!」

 子供達にバレないように至近距離で杖を構え、魔法陣から現れた赤い光がヴァレットに当たると、変化が始まった。

 身体中に紫の体毛を生やし、耳が大きく三角の形になると、頭の上まで上がった。

 顔は徐々に鼻が突き出し、手足の骨格が変わり、指が短くなると、手のひらから肉球が現れた。

「わぅ! う、う~……」

 快感が続き、とうとうヴァレットは力めない股間から尿を漏らしてしまい、抱かれたコルトの服にも染み込んだ。

 そして尻辺りからニュルっと尻尾が生えるとーー。

 そしてヴァレットは完全な子犬になった。

「よしヴァレット、とにかく走り回れ」

「ワン!(はい!)」

 子犬になったヴァレットはコルトから降りると、子供達の前に顔を出した。

「ワンワン!」

「あ、子犬だ!」

「どこから忍び込んだんだ?」

「かわいい」

「待って~」

 子供達にヴァレットに注目すると、ヴァレットは逃げ出した。そして子供達も後を追って外へと飛び出して行った。

「ふっ、所詮は子供。動物には目がないようだな」

「そうですね……大分よごれてしまいましたが、ヴァレットのおかげでいけますね」

 コルトはヴァレットの尿で服が汚れて、不機嫌な顔をした。

「すまんコルト……ブランよ、お前は子供達がここに来ないか見張りを頼む」

「わかりました」

 ブランはここに残り、ヨルカはコルトエズと共に解体部屋へと向かった。


 解体部屋の部屋の前に向かうと、異臭が目立ち、エズは鼻をつまんだ。

 コルトは二本の針金を使って、鍵を開けようとしている。

「開きました。ヨルカ様」

 鍵が開くと同時に、異臭が強くなった。

 中は灯りが上に一つだけ、床も壁も石の部屋に、人一人乗るほどの長く大きなテーブルが真ん中に立っている。

 テーブルや壁には乾いた黒い血の跡に、漂う血と腐った肉の混ざりあった生臭いにおい。

「う、うぇ……」

 ヨルカとコルトは平気だが、エズは鼻をつまんでも、吐き気を催した。

「うーん……思ったより期待はずれだったな。やはり気のせいかなのか?」

 ヨルカが辺りを目を凝らして見渡しても何もないことにがっかりした。

「戻るか」

「待ってくださいヨルカ様」

 戻ろうとした矢先、しゃがんで床を凝視しているコルトが何かに気づいた。

「これを」

 コルトが見せたのは、指についた薄い青をした粉だった。

 においを嗅ぐと、部屋の生臭さにも負けない強い花のようなにおいがした。

「この粉は……睡眠薬?」

「はい、睡眠作用のある花の花片を乾かして粉にした睡眠薬です。不眠症に使うか……または誘拐、暗殺の際にも使いますね」

「暗殺!?」

 エズは驚いた。

「なぜその睡眠薬ここにあるのか……マリアンが不眠症だったら、寝室に置いておけばよかったのに、仕事に使うだけの部屋にあるのはおかしい」

「これは誰かを眠らせるためだと思います。抵抗する人間に使って眠らせて殺すためとか……」

 コルトの言葉にエズは恐怖で震えた。

「ん?」

 コルトがテーブルの足元を見ると、再びしゃがんで下を覗きこんだ。

「今度は何だ?」

「足跡です」

「足跡?」

 ヨルカもしゃがむと、見つけたのはテーブルの真下にある無数の血がついた足跡。

「たしかにおかしい……何かを落としてしゃがんで取った場合、このテーブルの高さだと

 膝をつけないと頭が当たってしまうし、足を使って取ろうとしても、足がこする跡がないとおかしい。だが、それにはそれがない」

 ヨルカの言うとおり、テーブルの下は歩くように上から踏むような足跡ばかり。

「つまりテーブルの下に用がある。下に何かあるということか?」

「だと思います。どかしてみましょう」

 ヨルカ達は立ち上がり、真ん中のテーブルを横に移動しようとした。

「行くぞ」

「「「せー……の!」」」

 三人全員でテーブルを押し、横にずらした。

 テーブル下にある足跡近くを探ると、手のひらが入るくらいの不自然な穴が二つと、大きな切り込みがあった。

 コルトが床の欠けた小石を穴に入れて、耳をすますと、コンコンと石が落ちる音が響いた。

「この深さは地下室ですね」

「地下室……とうとう怪しくなってきたな」

「どうやらこの穴に手を突っ込んで、石を持ち上げると、入口が開くみたいですね。さすがにこの姿だと、持ち上げるのは難しいですが……」

 今の幼児姿のコルトの力では、石の重さで開かないらしい。

「では。一緒に持ち上げーー」

「ヨルカ様!」

 いきなりブランが慌てた様子で入ってきた。

「そろそろ子供達が戻って来ます!」

「そうか……仕方がない。急いで戻すぞ」

 ヨルカ達は急いで部屋を元に戻し、結局地下室を見れないまま、調査が終わった。



 ***



 ヨルカ達は子供達に隠れて、子犬にしたヴァレットを『原点回帰オリジ・レグス』で元の大人状態に戻し、再び『年齢退行アッジ・レッグ』で小さくし、掃除に戻った。


「ただいま帰りました」

「「「「「おかえりなさい……」」」」」

 夕方。

 マリアンが荷車に荷物を積んで帰って来た。

 子供達の挨拶に少し元気がなかった。

 マリアンの後ろには馬車があった。

 降りて来たのは金持ちらしい細かな刺繍がされた服を着た老人だった。

「ほほぉ、元気の良い子供達ではないですか」

「そうなんです。私がいなくても掃除などしてくれるお利口な子達ばかりなんです」

「それはそれは。これなら誰を養子にしても大丈夫ですな」

 この貴族はマリアンが呼んだ里親候補である。

 子供達はこのマリアンや一緒に過ごした仲間達、それぞれ別れたくない思いがあり、里親の元に行きたくないため元気がなかった。

 後ろにいたヨルカ達は子供達に隠れながら話し始めた。

「今度は養子か……エズよ、前に里親はグルだと言っていたな。こういう里親候補は結構な頻度で来るのか?」

「えっと……月に何回か違う人が来て、先生の説得で何人か引き取られてるみたい」

「ほぅ、来るのはああいう貴族ばかりか?」

「うん」

 ヨルカは疑問に思った。

 このような田舎の孤児院の先生があんな貴族と繋がりがあること。

 見た目の美しさで惹かれたにしても、こんなに多くの頻度で来るのはおかしい。

「あら? ここにあった絵はどうしました?」

 マリアンは廊下に飾ってあった、祖母の絵がないことに気づいた。

「あの、すみませんでした!」

 ブランは前に出て、その場で土下座した。

 子供達の元気がないのはもう一つ理由があった。

「実は子犬が孤児院に入ってしまい、その拍子に倒して絵を破いてしまいました! 大切な家族の物なのに……申し訳ありませんでした!」

 ブランの誠心誠意の謝罪をしているが、子供達も怒られる覚悟で顔を下げた。

 土下座したブランに、マリアンはその場にしゃがみ、手を差しのべた。

「いいんです。形ある物はいつか壊れるのですから、気になさらないでください。よく正直に言ってくれました」

「先生……すみませんでした」

 マリアンの言葉に、ブランはマリアンの手を握りながら再び頭を下げ、子供達は安堵の表情を浮かべた。

「ちなみに絵の方はどうしたのです?」

「か、顔を部分を破壊してしまって、その……庭に埋めました」

「そうですか……ではそのままにしましょう。今は里親候補も来ていますし」

 マリアンは立ち上がり、再び里親の話題になった。


 数時間で貴族の男は戻り、マリアンは夕食の準備を始めた。

 皆が食器を並べたり、食事の準備をしている中、ブランはヨルカとコルトを呼んで、孤児院の外の庭に連れ出した。

「どうしたんだブラン?」

「実は……」

 ブランが孤児院の裏に隠れて姿を消すと、再び現れて何かを持って出てきた。

「これはあの絵ではないか」

 持ってきたのは先程壊したと言っていたマリアンの祖母の絵だった。

 だが、顔を壊れたと言っていたのに、絵は無傷だった。

「壊れてはないではないか」

「いえ、僕も追いかけたふりをして倒したのは本当です。それで戻そうとした時に顔の部分が剥がれてしまって……」

「顔?」

 言ったように顔の部分が見てみると、目の下の部分が剥がれていた。

「なるほど、元々年季の入った絵だからな……ん?」

 ヨルカは剥がれた部分を指で削り始めた。

「ヨルカ様、一体何を!」

「……見てみろ」

 ヨルカに言われたように、コルトとブランは絵を覗いた。

「「これは……」」

 二人は驚いた。

 剥がれた目の下の部分からマリアンと同じ位置に特徴的な二つのホクロが露となった。

「つ、つまりマリアンさんのホクロはおばあさん譲りということですか……」

「違います」

 混乱したブランの答えにコルトは冷静に訂正した。

「ホクロは遺伝しませんし、あったとしても偶然です。隠していたことを考えて、この絵はマリアンさん本人だと思います」

「え? ちょっと待ってください! たしかこれは七十年前と言ってました。つまりマリアンさんはあの姿で少なくとも九十歳を越えているってことになりますよ」

「……たしかにあの姿を見ると、とても考えられませんねヨルカ様……ヨルカ様?」

 ヨルカは黙ったまま、あごに手を当てて考え事をしていた。

「……もしかしたら、わかったかもしれない」

「本当ですか?」

「ああ、私の予想が正しければ全て合点がいく。この絵はマリアン本人だし、エズの言うとおり、相当危険だ」

「え? え?」

「ヨルカ様、今後どうしますか?」

 ブランは訳のわからないままコルトは淡々と話を進めた。

「我々は絶対の証拠がない限り手を出せない……だったらマリアンの策略に乗ろうじゃないか」

「わかりました」

「はぁ……」

 ヨルカの考えにコルトはすぐに賛同し、ブランはヨルカの考えがわからないまま、ただヨルカの不気味な笑みを見ているしかなかった。


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