おまけ・性転換騒動

第21話

 盗賊団退治は終わり、キルグス王から謝礼をもらい、用を済ませたヨルカ達は屋敷に帰る……かと思っていた。

「それでですねヨルカさん! 僕、剣の稽古をして、騎士団長に誉められました!」

「それはそれは、将来エンベル王子をも超えるやもしれませんね」

 ヨルカ達はまだ王都の城内にいる。

 盗賊団を倒した後、このまま帰ろうとしたら、ブリスト王子が頬を膨らまして、ヨルカの前に立ちはだかった。

 ヨルカは盗賊団の件を頼まれた際、ブリスト王子と話をする約束をしたが、ワイドリーの騒動ですっかり忘れていた。

 だからヨルカは忘れた分、一日中ブリスト王子の相手をした。

 城内の散歩や書庫で本を読んであげたり、添い寝をしたり、ブリスト王子の満足するまで相手している。

 そして今、部屋でブリスト王子と他愛もない話をし、満足気にしているが、ヨルカは付き合っている疲労と、王子の純真無垢な眼差しが苦手で少し参っている。

「ようヨルカちゃん!」

 いきなり部屋にグフターが入ってきた。

「あぁ、グフター騎士団長」

「ブリスト様、そろそろヨルカちゃんは仕事に戻らなくてはならないんですよ」

「……そうなんだ」

 笑顔から一変、ブリスト王子は悲しそうな顔をした。

「じゃあヨルカさん、待っててください!」

 ブリスト王子はイスから立ち上がり、急いで部屋を出た。

 ドアが閉まったと同時に、ヨルカはテーブルに突っ伏した。

「あぁ……疲れた。あの純真無垢な眼差しはどうも苦手だ」

「ヨルカちゃんは心は若干汚れてるからな」

「失礼だな……そういえばレフ王国の王子も同じブリストという名だったな」

「ああ、依頼で会ったことあったんだっけ。あれは王妃様がエンベル様みたいにまともそうに見えて頭が悪い筋肉バカでなく、カイダル王子のように知恵だけの卑屈野郎でもなく、レフ王国の方のブリスト王子のように人望もあって顔がいい子供になって欲しいということでそう名付けられたらしい」

「安直な上にひどいな王妃様。そしてあなたもさらっと悪口を言ったな」

「そりゃいないからいくらでも言えるぜ! あ、でも内緒にしてね」

「いいけど……その代わり教えて欲しい」

「何?」

「ワイドリーについてだ」

「…………」

 グフターはいつもの飄々とした顔から、予想だにしなかった話題に驚いた顔をした。

「あいつから聞いた。山に捨てられて、あなたの知り合いと獣達に育てられて、その死後に引き取ったって」

「へぇ、あいつが自分から……」

 グフターは意外そうな顔をした。

「……あいつを育てたルドルフさんっていうのが、俺の新人時代からの仲のいい先輩でな、平民出身でも貴族相手でも悪いことを許さない俺の憧れの人だった……」

 グフターは思い出に浸りながら、ブリスト王子が座っていたイスに座った。

「けど、部下の中に貴族もいたから、平民に命令されるのが気に入らなかったんだろう。肉体的にも精神的にも追い詰めて、仕事どころか住む所をなくすほどになって、俺も味方でいたかったんだけど、俺一人じゃどうにも出来なかった」

 グフターの顔が段々と後悔を引きずっているかのように、苦悶の表情を浮かべた。

「そして何も言わずにどっかに行ってしまった。まさか二十年後に山に暮らして死体として再会するなんてな……」

 グフターは再び笑うが、その笑顔に切なさが醸し出していた。

「それで残ってたワイドリーを城にある騎士団の宿舎で育てたんだが、噛むわ、唸るわ、蹴るわで獣そのものだった」

「容易に想像出来るな」

「それにルドルフさん以外の人間を知らないあいつは、金や権力や力で屈服させるクズ野郎やそれが恐くて家族をも見捨てる薄情。人が多い王都であいつはそれを目の当たりにしたせいで、人全て、育てた俺すらも信じられなくなったし、ずっと一人で剣や書庫をあさって魔法の練習ばっかりして……今年から騎士になって、すっかり不良騎士なっちまったが、正義感……いや、恨むと言った方がいいかな? あいつの悪人を許さない心と力は俺もクニフも買っている」

「……そうか。私もあいつの能力は買っているが、少しは心を開いて欲しいものだ」

「ハハハ、俺でも無理だから難しいぞ」

 ヨルカとグフターはお互い笑顔になった。

「ヨルカさん!」

 ワイドリーの話が終わると同時に、ブリスト王子が勢いよくドアを開けた。

 その手には紙に包まれた花束を持っていた。

「どうしました? ブリスト王子」

 顔を赤らめながらもじもじしているブリスト王子にヨルカは近づいた。

「あの……今度はいつ会えるかわからないから……その……成人になったら僕と結婚してください!」

「……え?」

 ブリスト王子は花束をヨルカの前に差し出し、いきなりの告白にヨルカは固まった。



 ***



「それでどうしたのですか?」

 用件を済ませたヨルカ達は王都の街中を歩いている。

 歩きながらヨルカはブリスト王子の告白のことを話すと、男性姿のコルトは尋ねた。

 ちなみにヨルカがブリスト王子の相手をしている間、コルト達は別の部屋で待機していた。

「一応『成人になるまで王子に好きな人がいなかったら考えます』と言っておいた。相手はまだ六歳の子供だからな」

「ヨルカ様モテモテ~」

「玉の輿~、後の王女~」

 双子はまるで煽るかのような言葉で、ヨルカをおだてた。

「勘弁してくれ。ただでさえ王都のような人が多い所が苦手だというのに、王族になってしまったら礼儀作法やら何やら色々させられそうだ」

「そうですよね。王族になれば我々奴隷は用済みの可能性が……もしそんなことがあったら、私はブリスト王子を殺してしまいそうです」

 コルトが恐ろしいことを言い出し、その瞳に光沢がなかった。

「反逆罪になるからやめろ」

「嫌ですよヨルカ様、冗談です」

 本人は笑顔でそう言っているが、目が笑っていなかった。

「ちっ、何ガキ同士のことに本気になってんだよ。アホか」

 一番前を歩いているワイドリーは振り向かずにコルトの発言を馬鹿にした。

 コルト、そしてヨルカが段々と不機嫌な顔をし、眉をピクピクと動いた。

「あの、変人の魔法使い様!」

 後ろから突然ヨルカ達を止めたのは、弓矢を背中に背負った軽装の女性冒険者だった。

 その後ろには他の女性冒険者やギルドの女職員などが四人ほど立っていた。

「えっと……誰だ?」

「あ、皆さん。どうかなさいましたか?」

「……ああ」

 女性達を見てコルトは挨拶をすると、ヨルカはここにいる女性達がギルドで男性版コルトことコルディアの甘い言葉にキャーキャー言っていたことを思い出した。

「それで、何の御用で?」

「私達、変人の魔法使い様にお願いがあって参りました」

「お願い?」

 女性冒険者は息を整えて、覚悟を決めるとーー。

「コルディア様を我々に売ってくださいませんか!」

「……は?」

 女性冒険者は頭を下げながら、大きな声で言った。

 いきなりの発言にブリスト王子の件に続き、ヨルカは再び固まった。

「変人の魔法使い様は奴隷に過酷な仕事をさせていると聞いています。ただでさえ王都に来た時しか会えないコルディア様が何らかの理由で死んでしまっては我々『奴隷王子愛好団体(非公認)』は生きていけません!」

「そんな団体を作ってたのか……」

 いきなりのことに着いていけず、ヨルカとコルトは黙りつつも戸惑いを隠せなかった。

「失礼ですが、コルディア様はおいくらだったでしょうか?」

「え? あぁ……たしか金貨二十枚だったか?」


 この世界の金銭は全て硬貨で成り立っている。

 一番低いのが小銅貨、そこから銅貨、銀貨、金貨と順番に価値が十倍ずつ増えていく。

 奴隷の価値は奴隷商によって様々だが、成人の場合は約金貨二十~三十枚辺り。

 安定収入であるギルド職員一人の平均月収が約金貨三枚。生活費諸々を引くとそう簡単に買うことは出来ない。

 女性冒険者は懐から何かが詰まっている布の袋を取りだし、ジャラジャラと音を立てながらヨルカに見せつけた。

「ここに我々が集めた金貨五十枚分の硬貨があります。二倍以上の金額です。これでお売りしてもらいますか?」

 女性冒険者達改め奴隷王子愛好団体全員がぐいぐいとヨルカの前ににじり寄ってくる。

「ちょちょ、ちょっと待ってください!」

 コルトが慌てて間に入った。

「わた……僕はそういうことを望んでいません!」

「大丈夫です。コルディア様に辛い思いはさせません! むしろ幸せにします!」

「いえ、そういうことではなくてですね!」

 恋する乙女の暴走が故か、コルトの話を聞かずに話を進めていく。

「ですが、所有権は我々にある。その時に……でゅふ」

「「でゅふ?」」

 女性冒険者が歪んだ笑顔をし、変な笑い声を上げた。

 そして後ろを振り向き、他の女性達と話し始めた。

「み、皆さん……やっぱりコルディア様に、何をしてもいいんですよね? どうしましょう」

 女性冒険者が興奮気味に聞くと、奴隷王子愛好団体は当人をよそに、輪になってヒソヒソと聞こえないように話し始めた。

 本人を前にしているせいなのか、今までの妄想が爆発したのか、会話が弾んでいる。

「……監禁…………」

「監禁!?」

「…………鞭……」

「鞭!?」

 時々聞こえる単語にコルトは恐怖で顔を青くし、身震いした。

「ヨルカ様! どうかお助けください!」

 ヨルカの両肩をつかみ、助けを求めるコルト。

「そのつもりだが……あの執拗さは論破は難しい」

 どうにかしようと悩むヨルカ。

 しかし得意の本の知識もこのようなケースがないため、全く思い付かない。

「先に行く。終わったら呼べ」

 ワイドリーはまるで他人事のように、どこかに行こうとしている。

「ちょっと! 少しは気にしてください!」

「知るか。お前が口説きまくったから悪いんだろ。好きにしたんだったら責任取れ」

「う……」

 正論を言われてコルトは何も言えなかった。

「それにお前がいなくなっても、ガキの面倒くらい見れる」

「……おい」

 ワイドリーの言葉にヨルカは顔を険しくし、低めの声を上げた。

「貴様、今何て言った?」

「あ? お前みたいなチビで大人びてるだけの子供の面倒くらい見れるって言ったんだよ。はぁ……正直こんな子供に雇われてると思うと、やる気がなくなるがな」

 プチっ。

 ワイドリーは悪口を含んだ感じで喋ると、ヨルカの何かが切れた。

「ふ、ふふ、ふふふふふ……」

「「ヨルカ様恐~い」」

 そして負のオーラを立ち込めながら、不気味に笑った。

 ヨルカの唯一許せないこと……それは十六歳の成人なのに子供扱いされること。

 罵声や身長のことなど平気だが、なぜか年のことだけは沸点が低い。

 ヨルカが十六歳であることを知らないのは屋敷の住人ではワイドリーだけ。

 子供扱いされたヨルカは怒りがピークに達し、怒りを通り越して笑う。

 ヨルカは負のオーラを放ったまま前進し、女性達に声をかけた。

「よろしいかな?」

 女性達は振り向いた。

「盛り上がっている所すまないが、コルディアには心から決めている女性がいる」

「「「「「えぇ!?」」」」」

 奴隷王子愛好団体五人が大声で驚き、そしてコルトが声を発しないながらも驚いた顔をしている。

「コルディアは亡き父親の影響なのか、奴隷になる前から女性を悲しませないがために口説くようになってしまった。それは大切な女性がいても平等にだ。そうだろコルディア」

「は、はい。誤解を招くような真似をして申し訳ありません」

「そんな……そんな……」

 話を合わせたコルトが謝罪をすると、女性冒険者が膝から崩れ落ち、他の女性達も下を向いてがっかりした。

「わ、私は信じられません……でしたらその方を連れて来てください!」

 女性冒険者がすぐに起き上がり、すごい形相でヨルカに顔を近づけた。

「わかった。ちょうど相手は王都にいるから連れてこよう。コルディアはそこで待っててくれ」

「え……ヨルカ様!?」

「ワイドリー、双子、来てくれ」

「「は~い」」

 ヨルカ達はコルトを置いて、どこかへ行ってしまった。


 ヨルカ達は人気のない薄暗い所に入り、ヨルカは人がいないのを確認した。

「ヨルカ様~、一体どうすんの~?」

「適当に女の子捕まえるの~?」

 双子は首をかしげながらヨルカに質問した。

「いや、彼女らは王都の人間、もし会ったことがある人だと言い訳は無理だ」

「「じゃあどうすんの~?」」

「いるだろ。会ったことのない女性が……」

 ヨルカはいきなり振り向いたと同時に杖をある方向に向かって突き出し、そして魔法陣を出した。

「お、おい……待て!」

 杖を向けた方向、そこにはワイドリーがいた。

「変異系魔法第七術式、『性転換セクタ・コルバ』」

 ヨルカの考え、それはワイドリーを女性に変えることだった。


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