第22話

 杖から現れた赤い光はワイドリーに当たった。

「ぐっ……!」

 当たると快感を味わうヨルカの魔法、ワイドリーは味わったことのない感覚に、その場に四つん這いになると、変化が始まった。

 白い髪が長くなり、腕や足が細く、体が一回りほど小さくなり、服がぶかぶかになった。

 その代わり尻や胸が大きくなり、胸に至っては鎧の胸当てでもわかるくらい大きく膨らんだ。

「はぁ、はぁ……」

 ワイドリーが起き上がると、そこには白い長髪と頬の傷が特徴の巨乳美人になっていた。

「「「おぉ~」」」

 ヨルカと双子は予想以上の美人っぷりに感心した。

「……おい黒チビ、てめぇふざけんなよ!」

 快感が消えたワイドリーはすぐに起き上がり、ヨルカの元に近づき、胸ぐらをつかんだ。

 声もすっかり高くなり、女らしくなっていた。

「仕方がないだろ。今は他にあてはない」

「ぶち殺すぞ」

「ほぉ、殺すか? 殺したらお前の姿は永遠にそのままだぞ。ちなみに断っても逃げても元に戻さない。お前はコルトの相手役するしかないんだよ。ふふふふふ……」

「このチビ……!」

 ヨルカはよっぽど子供扱いしたのが気に入らなかったのか、ワイドリーに悪魔のような不適な笑みを浮かべ、ワイドリーはギリギリと歯を食いしばった。

「さぁオーレス、オージス、脱がせ」

「は~い、脱がせ~脱がせ~」

「服はこれにしよ~」

「おい待て! 触るな! 絡み付くな!」

 双子はワイドリーにまとわりつき、鎧など身につけている物を強引に脱がした。

 ワイドリーの腕力なら振りほどくのは簡単だが、女性化して力が半減したのか、二人がかりのため振りほどけなかった。



 ***



 数十分後、ヨルカはコルト達の所に戻ってきた。

 ワイドリーは身につけているのを全て脱がされ、コルトの分のメイド服と奴隷の首輪を身につけて、双子に引っ張られてやって来た。

 引っ張られたワイドリーの目は死んでいた。

 ちなみに首輪は奴隷の首輪を似せて作った偽物。

 奴隷愛護団体の面々はワイドリーの美貌に驚き、コルトは一瞬で察し、嫌な顔をした。

「遅くなった。これがコルディアの相手ワイ……コだ。コルディアと同じ我が奴隷だ」

「ワイコって……」

 ワイドリーは適当な名付けに小声でツッコミを入れた。

「同じ奴隷であるため、二人は惹かれあった。主人としてはコルディアの恋路の成就させたいから売るわけにはいかない」

「た、たしかに頬の傷を抜けると美人ですね……」

「コルディア様はやっぱりこの美貌に惚れたのでしょうか?」

「え!? あ~……」

 奴隷王子愛護団体達のいきなりの質問にコルトは困った。

 そして沈黙の後、コルトは語り始めた。

「それだけではありません。僕が惹かれたのは彼女の強さです」

「強さ?」

「彼女は親に捨てられても、育ててくれた養父が死んでも、奴隷に落ちても、どんな逆境にめげない心の強さを彼女は持っている。だから私は……」

 コルトはワイドリーの本当の過去を加えた嘘を言いながら、ワイドリーと肩を寄せ合った。

「そのような所を含めて、僕は彼女を…………愛しています。おぉ……」

「おぉ……」

 コルトはワイドリー相手に告白じみたセリフを言ったのが嫌だったのか、された方のワイドリーと揃って小声を漏らし、鳥肌を立てた。

「そうですか……わかりました。とりあえずは諦めます」

「とりあえずなんですね……」

「我々『奴隷王子愛護団体』は二人が完全な幸せを迎えるまで諦めません! 破局して居づらい状態になったら我々が買い取りますので!」

「はぁ……」

 奴隷王子愛護団体全員が敬礼をしながら大粒の涙を流し、コルトは失笑した。

「終わったか……」

 役目を終えたワイドリーはこの姿を見られたくないため、早足で逃げるようにここから遠ざかった。

「痛っ!」

 下を向いて歩いて前を見てなかったため、ワイドリーは誰かにぶつかった。

「すまん……げ!?」

「失礼大丈夫です、か……」

 ワイドリーは声に出して驚いた。

 ぶつかったのはグフターの弟、クニフ部隊長だった。

 ワイドリーはこの姿を仲がよくない知り合いに見られて気まずい顔をした。

 クニフは黙ったままワイドリーを見つめる。

 正体がバレたのかどうなのかわからず、内心ハラハラしている。

 そして少しの沈黙の後、クニフが突然ワイドリーの手をつかんだ。

「お嬢さん、お名前は何といいますか?」

「……は?」

 バレたかと思って身構えたが、ただ名前を聞かれただけだった。

「ワ……ワイコ」

「ワイコさん、唐突で驚くかもしれなのだが…………私とお付き合いしてもらえないだろうか!?」

「……はぁ!?」

「「「えぇー……」」」

 クニフの突然すぎる告白にワイドリーは大声で驚き、後ろのヨルカと双子も驚いた。

「私はこの二十七年間、これまで何度もお見合いやパーティーなどで、理想の女性の出会いを求めていましたが、私の理想は現れず、ずっと断って来ました。そして今、まさに私の心に電撃が走った。それがワイコさんあなたです。一目惚れなんです」

 クニフは両手でワイドリーの手をギュッとつかんだ。

「あなたの日の光に当たった白く長い髪は曇り空に差し込む一筋の光のように美しく、その強さを持った鋭い目、頬の傷を抜いてもあなたは魅力的で美しい」

「おぉぉぉぉぉぉぉ~……」

 同性な上に仲の悪いクニフの情熱的な求愛にワイドリーは体を小刻みに震わせ、さっきより鳥肌が立った。

「あなたは奴隷のようですね? よく見るとその衣装は変人の魔法使いの! そして後ろには変人の魔法使い!」

「いつになくテンションが変になっているなクニフ殿は……」

 ヨルカがよく見るクニフは、いつも真面目で沈着冷静な印象。しかし、恋に目覚めた今の彼にはその冷静さが欠けて、逆におかしくなっている。

「あのような元犯罪者のいる、しかも騎士と言うには危険極まりない男もいます。あそこはあなたのいる所ではない! 私が買い戻してあなたを自由にしてあげます! そしたら私と結婚を前提としたお付き合いを!」

「う、うぷ……」

 クニフはワイドリーの肩を力強く握った。

 ワイドリーは鳥肌を通り越して、吐き気を催した。

 いつものワイドリーなら即座に暴力を振るうが、女性になって筋力が衰えている上に、仮にも騎士団の部隊長であるため、力に差がありすぎる。

「「ワイドリー、モテモテ~」」

「これはまた、すごいことになっているな……」

「ふふ、無様で笑えますね」

 ヨルカ達はただただワイドリーとクニフのやり取りを見ている。

 コルトはその様子を見て、笑顔である。

「笑えないと思うぞ、コルト」

「え? …………は!」

 コルトは後ろから悪寒を感じた。

「「「「「ふっふっふっふ……」」」」」

 奴隷王子愛護団体のコルトに向けている目がまるで獲物を捉える野獣のようであり、不気味な笑い声も聞こえる。

 もしワイドリーがクニフとくっつけば、コルトは奴隷王子愛護団体の餌食になる可能性が上がる。

 コルトはワイドリーとクニフがくっつくとはありえないと、落ち着きを取り戻そうとする……しかしーー。

「コルト、先代はこう言ったことがある。『恋愛は人間を狂わせる。好きな相手のために自分の身を犠牲にしたり、家族や友を傷つけるものもいる……そして中には一方的な愛で、監禁も厭わないのもいる哀れな者だ』とな……」

「う……」

 ヨルカの言葉にコルトはクニフがワイドリーを強引に連れていく光景が頭の中によぎり、今のあの状況を見てクニフは満更でもない顔をしていた。

 コルトは意を決して歩きだし、二人の元に近づいた。

「痛っ」

「失礼」

 コルトはワイドリーをつかんだクニフの手にチョップをして、ワイドリーの背をつかんで二人を引き剥がした。

 ワイドリーを自分の真横に近づかせるとーー。

「ん……!」

「な……!」

 コルトはワイドリーの唇にキスをした。

 長い時間唇同士を交わし、コルトから口元を離すと、ワイドリーの口から唾液が垂れ、そのまま固まってしまった。

「申し訳ありませんが、彼女は僕のです」

 固まったワイドリーの肩を寄せながら、コルトはそう言った。

「たとえ奴隷同士でも、人のために戦う騎士様は人の恋路を邪魔しませんよね?」

「そ、そんな……」

 クニフは膝から崩れ落ちた。

 そして同時に、奴隷王子愛護団体の五人も崩れ落ち、計六人が四つん這いになった。

「……なんだこの状況」

 王都の真ん中で堂々とキスした姿を見せ、周りに六人の四つん這いの人がいる。

 その周辺に人が集まり、ヨルカはこの状況に呆れていた。



 ***



「んで、これっすか?」

「ああ」

 ようやく屋敷に戻れたヨルカ達。

 そしてヨルカが留守番をした奴隷達に遅くなった理由を説明した後、レドーナが指摘したのは、長テーブルに突っ伏して明らかに落ち込んでいるコルトとワイドリー。

「あ~初めて……初めての口づけがあんな男と……」

「男同士で……いや、女……でも男……わけわかんねぇ……」

 初めてのキスをした相手がワイドリーであるコルト。

 相手がコルトなのは気にしていないが、異性だけど同性同士のキスだという意味がわからないことになっているワイドリー。

 二人はそれぞれショックを受けていた。

「理由はどうであれ、これはコルトが悪いんじゃないんすか?」

「まぁ、真面目に役になりきったがゆえに起こった騒動だったのはたしかですわね」

「「コルト、頭いいけどたまにバカ」」

「ぐぅ~~~……」

 今回の騒動は真面目に男性になりきり、女性を虜にさせ、それが原因でワイドリーとキスする羽目になってしまったコルトの自業自得。

 それをレドーナ、ヴァレット、双子に指摘され、自覚のあるコルトは突っ伏したままうめき声を上げている。

 ヨルカはやれやれと思いながら、頭を下げたままのコルトとワイドリーを見ているしかなかった。



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