第19話

 ヨルカ達は改めてキルグス王に挨拶をし、盗賊団の手がかりを探すべく、王都の町中を歩いている。

「着いた」

 ヨルカ達が到着したのは、横に幅広い大きな建物。

 看板には大きく「ギルド・ハルトルム支部」と書かれている。

 ギルドとは冒険者と呼ばれる者に仕事を斡旋してくれる場所。

 薬草採取から未知の地域の調査まで、GからAまであるランクによって、様々な仕事を紹介してくれる。

 冒険者は各地を転々とする人間や、盗賊退治などをしている人もいるため、その手の変わった情報や経験談などが聞けることもある。

 ヨルカ達はまず、盗賊団の情報収集のためにギルドに来たのだ。

「ギルドですか……」

 コルトは顔をしかめた。

「コルト、気持ちはわかるが国王の頼みだ。頑張ってくれ」

「はい……」

「コルトはギルドに何かあるの~?」

「あるの~?」

「えっと、それは……」

 オーレスとオージスの質問に、コルトは困った表情をしている。

「おい、どうでもいいから行くぞ」

「どうでもいいって……わかりました」

 ワイドリーが適当にあしらった。

 コルトは深呼吸をして覚悟を決め、ヨルカ達がギルド内に入ると、そこには多くの人間が集まっていた。

 全身鎧の者、機動性を重視した軽装の者、杖を持った魔法使いらしき者と様々な冒険者達がいる。

 冒険者は制服を着たギルドの職員がいる受付に行ったり、仕事内容が書かれた掲示板を見たり、併設されてる酒場でテーブルを囲んで駄弁ったりしていた。

「あ、コルディア様!」

「コルディア様がいらしたわ!」

 数少ない女性冒険者や受付嬢、ギルド内の女性達が嬉しそうに男性姿のコルトに集まった。

「やぁ皆さん、相変わらずお美しい。あなた方の笑顔で僕は癒されました」

「「「「「キャー!」」」」」

 コルトのキザな誉め言葉に、女性達は歓喜した。

 気のせいか、コルトの周りにはキラキラした物が瞬いているように見える。

 それを見た男性陣が舌打ちをしたり、唾を吐いたりと、明らかにイライラしている様子。

「「コルトモテモテ~」」

「……何だあれ」

 双子はモテるコルトに感心し、ワイドリーは呆れた顔でコルトを見ていた。

「コルトは王都にいる時は男の姿でいなくてはならない。だから男の口調とかを屋敷にある本の物語で学んだんだ。コルディアは物語の登場人物と自分の名前を混ぜたやつだ」

「それであれ?」

「その話に出て来たのがキザっぽい王子だったみたいで、女性達から奴隷なのに王子のような風貌から『奴隷王子』と呼ばれている」

「へぇ」

 ワイドリーはコルトを見ていた。

「髪型変えたのですね」

「わかりますか!」

「前のもよかったですが、またあなたの違う魅力に気づかされました」

「「「「「キャー!」」」」」

 女性達に一人ずつ甘い言葉を囁きを言う度に、コルトの笑顔が段々と引きつって来ている。

「コルトは真面目な性格だから、キザなセリフも学んで、必死に男になりきっているが、まだ慣れてないみたいだな」

「無様だな」

 ワイドリーはそんなコルトを見て鼻で笑った。

「とりあえず手分けして情報を集めよう」

 コルトが女性達にちやほやされているのをよそに、ヨルカ達はギルドで情報収集を始めた。

 ヨルカが真っ先に向かったのは、端の方で一人、物静かに酒を飲んでいる頭以外を年季の入った鎧をつけた中年の冒険者。

「ヨルカか」

「ベッテのおじさん、久しぶり」

 彼はこのギルドの一番の古株で、数少ない最高Aランクのベッテ。

 キーダ王国全土で依頼をこなす傍ら、長年の経験や人望などを生かして情報屋もやっている。先代変人の魔法使いが信用する数少ない人物で、ヨルカも小さい頃からの知り合い。

「ああ、んで、今回は何の用だ?」

「相変わらず話が早い。最近王都に現れている盗賊団について教えて欲しい」

「ジックス盗賊団か……あいつらは実力なら大したものだが、ある弱点がある」

「どういうことだ?」

「あいつらの要はかしらのジックスにある。そいつは姑息なことなど変な所で頭が回る。力だけが取り柄の頭が悪いバカ共を上手いこと使って名を上げて来た。最近では偵察要因として情報収集に優れた奴を入れて、色々策を練っているらしい」

「じゃあジックスをなんとかすれば、盗賊団はなんとか出来るのか?」

「ああ、それとジックスは女に弱いらしい。お前の奴隷を使えば楽だろう。だが、俺もあいつらのアジトまではわからない。あいつらは色んな所に移り住んでるらしいからな」

「そうか……ありがとう」

 ヨルカはテーブルに情報料のお金を置き、ベッテの元から去った。



 ***



 ヨルカ達はギルドを出て、それぞれ情報を出しあった。

「ーーというわけだ。お前らはどうだ?」

「私達は盗賊団に協力した薬師の店に何度か出入りする人を見たって~」

「でも顔隠しててわかんないって~」

 オーレスとオージスも居場所まで至らなかった。

「申し訳ありません。私は女性達の相手に精一杯で……」

 コルトに至っては何も聞けていなかった。

「うん、わかってた。ところでワイドリーはまだ聞き込みか?」

 周りやギルド内を見ても、ワイドリーの姿はなかった。

「ん?」

 何か道から騒がしい声が聞こえて、人がどんどん後ずさっていく。

 その先にはマントに覆われた人間らしき物をズルズルと引きずって来たワイドリーがヨルカに向かって歩いてきた。

「ワイドリー、この人間らしい物体は何だ?」

「盗賊団の一味だ」

「なっ……! 一体どうやって!」

 コルトは驚きの声を上げた。

「双子が話を聞いた薬師の店に行って見た。そしたら店の前に一人、この男がうろついてたから、逃げた所を捕まえて、殴って吐かせた」

 ワイドリーがマントの男を投げると、殴られてボロボロの顔を露にした。

「協力した薬師のことは盗賊団はまだ知られていないらしい。場所はここからそう遠くない東の山だ」

「そうか……その荷物は何だ?」

 ヨルカはワイドリーが持っている風呂敷包みに注目した。

「役に立つやつだ。こいつを衛兵に突きだしたら、すぐに行くぞ」

「あ、ああ……」

 ワイドリーは男のマントをひっぺがすと、勝手に歩き出し、ヨルカ達は着いていった。



 ***



 盗賊団の一味を衛兵に預け、ヨルカは双子を馬にし、王都を出て東に向かった。

 少し走ると、山が見えて来た。

 馬車を草むらに隠し、双子を元に戻すと、ヨルカ達は山を見上げた。

 山と言うにはゆるやかで低め、高めの丘のような所だ。

「ここなのか?」

「ああ、この山の上にある大きな洞窟に住んでるらしい。行くぞ」

 ヨルカ達は勝手に歩くワイドリーに着いていった。


 今は夕方、夕日が木で遮られた薄暗い山の中を歩いている。

「はぁ……はぁ……」

 歩いて数分、ヨルカは坂道で疲れて、息を荒げている。

「お前、体力無さすぎだろ」

「はぁ……ほとんど……屋敷に……引きこもっている……私の体力の無さを……なめるな……」

「いばるな」

 ヨルカの体力の無さにワイドリーは呆れた。

「ヨルカ様、背中にお乗りください」

「あ、ありがとう……」

 ヨルカはコルトにおんぶをした。

「ちょっとあなた! そんなにどんどん先に行かないでください!」

 先導するワイドリーは周りのペースを考えず、ヨルカ達から遠く離れて、先に行っている。

「「ねぇねぇ、お腹空いた~」」

 双子がコルトの足にしがみつき、食事を求めた。

「そういえばお昼食べてないですね……先に食事にしましょうか。あ、あなたはやっぱり勝手に行って構いません」

「ちっ……」

 ワイドリーも空腹なのか、戻ってきた。

「では私は火を起こしますので、オーレスとオージスは食料をお願いします」

「は~い、お魚~キノコ~」

「でも暗くてよく見えな~い」

 山の中は薄暗く、足元辺りしか見えない状態。

 双子がコルトの周りをうろつくしか出来なかった。

「ちっ」

 ワイドリーがまた舌打ちすると、急に横に曲がった。

「どこに行くんですか?」

「川、魚取る」

「「私達も行く~」」

「金はその辺でキノコ採ってろ」

「え?」

 双子はワイドリーに着いていった。

「あいつ、何で川の場所なんて知ってるんだ?」

「さぁ……」

 ヨルカとコルトは疑問を感じながら、ワイドリー達を見送った。



 ***



 コルトは火を起こし、その辺のキノコを獲って、ヨルカと共にワイドリー達を待っていた。

「「ただいま~」」

「おかえ、おぉ……」

 ヨルカとコルトは驚いた。

 ワイドリーと双子が大量の魚を持ってきたからだ。

「どうしたんだ? その魚」

「ワイドリーが全部取ったの!」

「すごい! 熊みたいに手でガッて取ったの!」

 大量の魚をワイドリーが取った事実に、ヨルカは内心驚いている。

 ワイドリーはコルトが収穫し、地面にまとめてあるキノコを眺めた。

「おい」

「……何ですか?」

「これ、毒混じってんぞ」

「え!」

 コルトはキノコ見て、かさが茶色く綺麗に丸いキノコを手に取った。

「そんなはずありません。このチャマルタケは毒はないはずです」

「それはチャマルタケモドキだ。かさが綺麗すぎる。チャマルタケのかさは外側がギザギザしてんだよ。一個だけなら腹痛で済むが、大量に食うと死ぬ。近くに生えてる木でわかるだろうが、ご主人様殺す気かアホ」

「え、あ……すみません」

 今まで自分からしゃべらないワイドリーがキノコについて熱弁し、コルトは謝るしかなかった。


 コルトが採ったキノコをワイドリーが選別し、毒なしのを分けた。

 外は暗くなり始め、コルトは持ってきたナイフで木で串を作って、塩で味付けした魚とキノコを串焼きにした。

 ヨルカ達、特に双子は取った魚とキノコを貪るように食べている。

「ワイドリーのおかげでずいぶん豪勢だな」

「そうですね……」

 コルトはワイドリーの手柄にふてくされている。

「しかし、ワイドリーはすごいな。川の場所や魚の取り方、キノコの見分けとか、どうなってるんだ?」

「……山育ちだからな」

 いつもは「仕事以外で話しかけるな」と言うワイドリーが仕事以外の質問に答えてくれた。

「どこかの山村さんそんの出身なんですか?」

「山村じゃねぇよ。山そのものだ。……俺は赤ん坊の頃、山に捨てられたらしい」

「「……え」」

 ワイドリーのいきなりの告白に、ヨルカとコルトは言葉を失った。



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