第18話

「何でしょう、頼みというのは?」

 キルグス王がイスに座ると、机に両肘をついて話始めた。

「実は最近ジックス盗賊団という盗賊団が王都に現れてな。この王都近くのどこかに住み着き、若い女性をさらって行くんだ」

「女性をさらって何をするのですか? やはり奴隷商人に売るためとか?」

「簡単に言えば……性欲の鬱憤を晴らすためだ」

「……え?」

「奴等は男だけの集団で、女性をさらっては凌辱し、数日後には王都近くに捨てられていた。それが数件続いている」

 キルグス王が頭を抱えながらそう言った。

「女性の初めてを奪われるとなっては、その女性もショックでしょうね」

「それだけではない……」

「と、言いますと?」

「奴等は媚薬を使っているんだ。しかも未登録のな」

「未登録……」

 店でなどで売っている商品は『商業ギルド』という所で危険がないか確認などをし、それがちゃんとしていれば登録。そして店に並ぶという形になっている。

 未登録の物は副作用や毒など危険な可能性があるということ。

「それを飲ませられた女性達は副作用なのか、精神が正常に無くなり、その……何と言えばいいのか……」

 キルグス王は言いづらそうにしている。

「ようするに、○ンポ狂いになるんだよ」

「○ン……」

 キルグス王が言いたかったことをグフターが代弁してくれた。

 だが、それにより女性がいるこの場の雰囲気が気まずくなった。

「いや……正確には一度快楽を味わうと、それに依存するようになる。だから被害にあった者は家族だろうと見境がなくなる。盗賊団は王都のとある薬師くすしから大量に買い、それを使って楽しんでいる」

「それはたしかに困りましたね……」

「幸いその薬師は捕まり、解毒剤は作成中だ。しかし盗賊団の居場所についてはわからないらしい」

「それで我々を……手がかりもないのですか?」

「奴等は町民や旅人などに成り済まして、簡単に町に溶け込む。それに君もわかるように今の騎士達では力不足だ」

 強いモンスターや大きな戦争などがなくなり、平和になっている現在。

 そのせいで戦闘経験がなく、体力や精神面でも未熟な者が多いのが今の騎士の現状。

 グフターに鍛えてもらっているが、いずれにせよまだ力不足には未だ変わりない。

「国王様の命とあらば、尽力を尽くします」

 ヨルカは跪き、王の頼みを了承した。

「頼む……ところでヨルカ・アムクルス。せっかく派遣させた護衛を連れて来ないのは感心しない」

「え?」

 護衛とは見張り役のこと。

 ヨルカが後ろを振り返ると、ワイドリーがどこにもいなかった。

「コルト……ワイドリーはいつからいなかった?」

「すみません。興味がなかったので、気付きませんでした」

「ワイドリーならどっか行ったよ~」

「城に入る前にどっか行ったよ~」

 双子の発言でワイドリーは城の外にいることがわかった。

「二人とも、出来ればそれは行く前に言ってくれ」

「ん?」

 キルグス王が窓から外を覗いた。

 耳をすましてみると、外が何やら騒がしい。

「……そのワイドリー・ホールナーが騎士達と喧嘩しているんだが……」

「「「は!?」」」

 ヨルカ、コルト、グフターが驚いた。

「ちょっと失礼します!」

「行くぞコルト」

「はい!」

 ヨルカ達とグフターはキルグス王が頭を下げ、急いで部屋を出た。



 ***



 外に出て、三人は庭の練習場に着いた。

「ぐふっ!」

 そこにはワイドリーが他の騎士達七人を殴るという光景が広がっていた。

「おいこらー! 何してるんだ!」

「騎士団長!」

 騎士の一人がグフターに駆け寄った。

「聞いてください騎士団長! ワイドリーがいきなり殴って来たんですよ!」

「本当なのか?」

「………………」

 ワイドリーは何も言わず、そっぽを向いた。

「やはりこの野獣を騎士に入れるのが間違いなんですよ。我々はちゃんと訓練をしているのに、ただムカつくだけで暴力を振るう鬼畜の振る舞い。とても許せることではーー」

「野獣?」

 ヨルカはなぜワイドリーが野獣と呼ばれるのか少し気になった。

「はいはいセガル。今ワイドリーに聞いてるから」

 グフターは騎士のセガルを適当にあしらい、ワイドリーに近づいた。

「どうなんだ? ワイドリー」

「……どうせ信じてくんねぇだろ」

 ワイドリーがグフターに睨み付けながらそう言った。

「あんたもどうせ信じねぇだろ。たとえ正しくても、数の力とか信用とかで俺を責めんだろ」

「そんなことないぞ。お前は人間的に問題はあるが、嘘はつかないことは信じてるぞ」

「あんたが信じてることを俺は信じてねぇんだよ。最初は甘いこと言って、最後は裏切る。俺はそんな人間をずっと見てきた」

 グフターを見るワイドリーの目は、まるで周りが敵しかいないように、警戒と殺意を含んでいて、冷めきっていた。

「はぁ……」

 困ったグフターはため息をつき、頭を掻きながら、何を言うか悩んでいるとーー。

「彼はセガル達を止めただけだよ。兄さん」

 庭の奥から顔立ちがグフターに似た七三分けの男が歩いてきた。

「クニフ、どういうことだ?」

 男はグフターの弟でクニフ、騎士団の一部隊の部隊長をしていて、気さくな兄とは違い、真面目で厳しいことで騎士達から恐れられている。

「兄さん、セガルの背中に隠した物を見て欲しい」

「背中? どれどれ……」

「いや! 騎士団長!」

 セガルは抵抗するも、グフターは力ずくで背中を向けさせた。

「これは……杖?」

「あ、それ、私の予備」

 セガルが持っていたのは、ヨルカの杖の予備だった。

「……あ、見たことある顔だと思ったら、あいつは前の見張り役……だっけか?」

「いえ……たしか前の前かと?」

「覚えとけよ! 前だ!」

 見張り役が短い頻度で変わるため、ヨルカ達はうろ覚えである。

「このセガル率いる騎士団見習い達が国王様が大事にしている花壇の花を刈ろうとしていた」

「はぁ!? それ王妃様が大切にしたやつじゃん!」

「おそらく持っていた杖を置けば、ヨルカ・アムクルスのせいにする作戦らしい。そしてそれをやろうとしていた所をワイドリー・ホールナーが止めた。それを私は自室の窓からずっと見ていた」

「そうなのかセガル?」

「…………ああそうだよ!」

 少しの沈黙の後、セガルがついに白状した。

「いいか! 僕は西方の領収書ツーリアス家の次男であり貴族なんだ! それなのにこんな平民のために泥臭く働いていいはずがない! せっかくヨルカ・アムクルスがいて、団長がいない所を見計らったのに……」

「それでヨルカちゃんに罪を着せようと?」

「いいだろ別に! 変人の魔法使いは昔王都を攻めた罪人、罪を着せて死刑にされても文句は言わないだろう? 味方をしているあんたにも何かしら罰を与えることも出来る。父上だって城で不祥事があれば騎士を辞めさせてもらえる。そうすればあんたらに威張れる日々が戻るんだ! ハハハハハハ!」

 セガルの馬鹿げた言葉に苛立ちを覚えたヨルカ達。

「ふん!」

「ぐぶっ!」

 そんな中、真っ先に手を出したのはワイドリーだった。

 ワイドリーがセガルの顔面に蹴りを入れ、吹き飛んだ。

「な、何をするんだ!? 城に居座る野獣の分際で!」

「そうだそうだ! お前みたいな奴は城にいること自体が間違いなんだ!」

「貴様のような野獣は我々貴族に跪けばいいんだよ!」

 他の貴族出身らしき騎士達もセガルに続いてワイドリーに罵声を浴びせた。

 ワイドリーはそんな物に屈することはなく、セガル達を睨みつける。

「親の権力と金しか無いクソに何を言われても悔しくねぇんだよ」

「な……!」

「訓練も本気でやらない、俺みたいな野獣に勝てない、卑怯な真似をすることしか能のない。貴族ってのは平民どころか獣以下なんだな」

「ぐぎぎぎぎ……野獣の分際でぇぇぇ!」

 セガルが歯を食い縛り、怒りを露にしている。

「さてと……」

 どこから取り出したのか、グフターは長い縄を持っていた。

「な、一体何を……うお!?」

 グフターは素早い動きで回り込み、セガル達を縛り上げた。

「ふっふっふ、犯人がわかった以上、処罰が必要だよな~」

 グフターは不気味に微笑んだ。

「この、離せ!」

「クニフ、俺、肉体的にこいつらの叩き直すから、その後精神的に叩き直してくれ」

「ああ、では説教内容を色々考えておかないとな」

「そんじゃ行くぞお前ら。今夜は寝かせないぜ。なんてな! ハハハハハハハハ!」

「くそ離せ! 僕らは貴族なんだぞ! とっととこの縄をほどいて、その場で跪いて、靴をなめろ! 聞いているのか!」

 グフターは笑いながらセガル達七人を引きずってどこかへ行ってしまった。

 ヨルカ達は何も言わず、ただ見てるしかなかった。

「ワイドリー・ホールナー」

 クニフがワイドリーの前まで近づいた。

「君は暴力で解決しようとする乱暴者で、人を心から信用しないひねくれ者。はっきり言って騎士として、いや、人間として色々足りていない」

「あ? 俺をけなしに来たのか?」

 クニフの唐突な悪口にワイドリーは睨みつける。

「……だが、その悪を許さないその心と強さは認めている」

「は?」

「他の見習い達はさっきのように自分のためだけに悪事を働き、それを見ているにも関わらず黙るか逃げるような無様な者が多い。そんな中、お前は悪に立ち向かい、金や権力に屈しない心の強さ。今の騎士に必要な物をお前は持っている」

 クニフは悪口を言ったと思えば、いきなり誉めだして、ワイドリーは微妙な表情を浮かべた。

「だからと言って、先程の行動は騎士としてどうかと思う。暴力だけでは何も生まれない。それは覚えておけ」

 クニフはそう言ってこの場から去っていった。

「お前、もしかして私のためにやってくれたのか?」

「ちっ」

 ヨルカが近づき、話しかけると、ワイドリーが舌打ちした。

「仕事のためにあんたの名誉を守ったまでだ。勘違いすんじゃねぇよ黒チビ」

 ワイドリーは、そう言ってそっぽを向いた。

 ヨルカは素直ではないと少し朗らかな表情をした。

「ヨルカ様が感謝の言葉を言おうとしているのに、何ですかその態度は?」

 ワイドリーの態度に男になっているコルトが不満な顔で近づいた。

「あぁ? どうでもいいだろ。女のくせに男になってる変態野郎が」

「好きで男になってません。あなたクニフ部隊長に誉められて、少し表情が緩んでましたよ。あなたも人の心があるんですね」

 にやけた表情を浮かべたコルトにワイドリーは青筋を立てて、殺気を放った。

「黙れよ変態、殺すぞこら」

 額がつきそうなくらいに近づき、睨み合う二人。

 これ以上続くと本当に喧嘩になってしまうため、ヨルカはワイドリーに今回のキルグス王の話をした。

「コルト、ワイドリー、そこまでだ。今は国王に頼まれた依頼をこなそう」

「依頼?」

 ワイドリーに説明をし、ヨルカ達は盗賊退治のために動き始めるのだった。

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