第15話

 ヨルカ達はこの日、クリットの家の鍛冶屋に泊まることになり、レドーナとヴァレットが作ったシチューとパンで夕飯を食べている。

「はい、メック君、あ~ん」

「あ、あー……」

 ヴァレットがシチューの具をスプーンですくい、メックに食べさせた。

 メックは嫌々ながらも口を開けて食べてくれて、ヴァレットは満足している。

「うふふ~、いいですわね~このお姉さんになった気分」

「ヴァレット、嫌がってることを知れ」

 ちなみにクリットは鍛冶屋の仕事が残っているため、工房の方で作業をしている。

「お父さん、忙しそうですわね」

「……今この町には鍛冶屋は父ちゃんしかいないから」

「ここでずっとお父さんと二人きりで?」

「うん……母ちゃんの顔は知らない。俺が赤ん坊の頃に父ちゃんとここに来たみたい」

「お父さんも別の町から来たのですか?」

「そうみたい……父ちゃんは母ちゃんのこととかはしゃべるけど、あとは色々ごまかして、しゃべってくれないから」

「ふむ……」

 ヨルカは立ち上がり、工房に続く扉を開けた。

 中は蒸し暑く、カーン、カーンと熱い鉄をハンマーで叩く音が聞こえ、クリットは汗だくになって作業をしていた。

「…………」

 ヨルカは何も言わずに扉を閉めた。

「それじゃあ、俺寝るから」

 自分の分の皿の食べ物を食べ終えると、メックは寝室に向かった。

「あ、でしたら私が添い寝をーー」

「やめろ」

 レドーナが行こうとしたヴァレットの首もとをつかんで止めた。

 メックが寝室がある部屋に入ったのを確認すると、ブランが口を開いた。

「それでヨルカ様、どうしましょうか?」

 ブランはヨルカに話しかけるが、ヨルカは腕を組んで黙っている。

「正直手がかりが少なすぎます。石像が入った蔵は密室。怪しい人はいますが、決定的な証拠はありませんし、なぜ人の石像が壊されるのかもわかりません……ヨルカ様、どうしましょうか?」

 ヨルカは目を閉じ、腕を組んだまま動かないで少しすると、目と口がほぼ同時に開き一言。

「わかるわけないだろ」

「「ですよね~」」

「えぇ……」

 ヨルカの早い諦めに、レドーナとヴァレットは納得し、ブランは唖然とした。

「私は魔法専門だ。推理など出来ない」

「そんな……明日は品評会に参加する作品の選定、その二日後には祭り当日なんですよ。早く犯人を捕まえないと……」

 焦るブランをよそに、ヨルカ達は落ち着いている。

「まぁ落ち着けブランよ。今回は情報が少ない。いつものように囮を使って、犯人をおびきだす」

「囮って……一体何を?」

「我々も品評会に出ればいいんだ。石像を作ってな」

「……え?」

 ブランにはヨルカの意図ががわからなかった。



 ***



 三日後。石祭り当日。

 山奥だというのに次々と人々が町に入っていく。

 石工の町らしく、石のお守りや持ち運び出来る小さな石像を売る露店など並び、ロートンの町は朝から賑わっていた。

 そして町の奥にある広々とした空き地、そこで祭りのメインイベント、石像の品評会を開催している。


 二日前にキーダ王国全土から町長や石工の名工、美術系統で目の肥えた人達により選定した数十体の石像。

 品評会には多くの客が見に来ている

 今回はゴーシュとサルコも選ばれて、参加している。

 ゴーシュの本物のように細かい所まで彫られている狼や、サルコの泣きわめく人々の上に天使が舞い降りるというインパクトのある像など色々ある。

 その中で一際目立つ石像が一体。

「おお! これは……」

「きれい……」

「まるで本物だな」

「やべ、ちょっと興奮してきた」

 見物客が見ていたのは、裸の女性同士が横になり、体を絡ませ合った石像。

 それはまるで二人が本当に愛し合っているかのような官能的な表情と、魅惑的な発育された体が客を魅了し、一部の男性の性欲を奮いたたせた。

 作品の下には木の札で『禁断の愛』と書かれて、近くには顔を白髪で覆われた作者らしき老人がいて、客の質問や感想に応えてくれている。

 そして、そう遠くない空き地の木陰でヨルカが見ている。



 ***



 三日前の夜遅く、ロートンの町のほとんどの明かりが消え、ヨルカ達はロートンの町を出て、森の中にいる。

「ヨルカ様……本当にやるんすか?」

「ああ、何のためにいい体をしてるお前らを連れて来たと思っている」

「アタシらこのために連れて来たんすか!?」

「いいではありませんの。外で裸になるのは解放的ですわよ」

「お前と一緒にすんな!」

 今、レドーナとヴァレットは森の中で全裸になっている。

 レドーナは恥ずかしそうに手で隠しながら、ヴァレットは隠しもせず、あらゆる所が丸見えの状態。

 二人揃って張りのある大きな胸に、肉付きのいい体。そんな二人の裸を前にブランは後ろを向き、手で目隠ししている。

「二人とも」

「はーい♪ それではレドーナ、グフフフフ、今まで殴られた分たっぷりと……」

 ヴァレットは笑顔で手をワキワキさせながらレドーナに向かっている。

「う、来んなよ……」

「レドーナ、『命令だ。逃げるな』」

「ぐっ! おぉぉぉぉぉぉ……」

 後ずさりで逃げるレドーナに、ヨルカが命令を出した途端、地面に寝そべりながら悶えて始めた。

 これは命令に背くと激痛を与える『奴隷の首輪』の効果。主であるヨルカが『逃げるな』と言った時に、レドーナが逃げたため、体に激痛が走った。

「レドーナ、命令だ。やれ」

「う……うっす……」

 レドーナは早々に諦めた。

「ではでは♪」

 横になったレドーナの上にのし掛かるヴァレット。

 足を絡ませ合いながら、体を密着させると、二つの豊満な胸が潰れている。

「んぅ……変な気分……」

「あらあらレドーナ、乳首がこすれて感じました? ほれほれ~」

「ん、ぃや……」

 調子に乗ったヴァレットは胸を横に動かして、乳首同士を当てている。

 レドーナが小さく声を漏らすと、ヴァレットはそんなレドーナを見てニヤニヤしている。

「この、お前……!」

「んあぁ!」

 レドーナは仕返しに足を伸ばし、膝でヴァレットの股間を擦る。

「はぁ、はぁ……ここは敏感になってるのに……もう!」

「んっ!?」

 ヴァレットはレドーナにキスをした。

「ん……く……んぅ……」

 舌を入れてグチュグチュと音をたてて、レドーナの口の中をなめ回す。

「ん! んっく……」

「あん!」

 レドーナも負けじと、ヴァレットの股間にある足の動きを激しくし、胸を鷲掴みして揉みしだいた。

「はぁ、はぁ……興奮して来ましたわ」

 二人の体の弄りあいは、しばらく続いた。



 ***



 一時間くらい経ったか、ヴァレットがレドーナの上に乗り、舌を絡ませあいながら手で互いの股をいじくっている。

 目尻がトロンと垂れ下がり、口から唾液が垂れて、時折ビクッ、ビクッの体を震わせた。

「……そろそろやるか」

 ヨルカはようやく動き、杖を二人に向けると、魔法陣が現れた。

「変異系魔法第二術式『石化テージ・オブ・ログ』」

 赤い光が二人に当たった。

「いっ!」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 当たった二人はさっきまで体を弄られて、敏感になった所に、当たると快感を覚える光が当たり、二人は体をビクビクと痙攣し、大きな矯声を上げた。

 すると、変化が始まった。

 地面がついた部分から肌の色が灰色になり、固まって動かなくなった。

 灰色はどんどん侵食し、やがて全てが灰色になると、レドーナとヴァレットは動かなくなった。

 二人は髪から爪先まで全てが石になり、女同士が蕩けた顔で体を絡ませた石像が完成した。

 絶頂を迎えたのか、二人の股間辺りが若干濡れていた。

「ブラン、もういいぞ」

 ヨルカの呼ぶ声にブランは振り返り、ヨルカの元に来た。

 律儀に見ていないとはいえ、これまでのことを聞いていたブランは股間を押さえている。

「これで明日の選定に選ばれるだろう。なにせ本物のようではなく、本物だからな。ブランよ、君は変装して作者として参加しろ。白いかつらを被って顔を隠せば、老人に見えるだろう」

「それはわかりましたが……ヨルカ様、先程までのレドーナさん達のやり取りに何の意味が?」

「芸術というのは、何かエロかったら受けがいいのではないのか? 石像や銅像、絵画でも裸の方が人の目が行くし、『芸術家は皆、たまりにたまったエロスの欲求や願望を作品にぶつけるから名作が生まれる』と昔先代が言っていた」

「はぁ……」

 ブランは石像を触りながら真顔で話すヨルカに、「そんなことはありません」と言いづらい状況になった。



 ***



 そして翌日、ヨルカはクリットに参加することを話し、石像の運搬や町長の説得など協力させた。

 選定の結果は無事合格。

 こうして、石像と化したレドーナとヴァレットに老人に扮したブランが客の前で石像の説明等をし、ヨルカは怪しいやつがいないか周りの様子を伺っている。


 時間は昼、客は「石工職人彫刻競争」という誰が早く石の塊からモデルを作れるかというイベントの方に行って、少なくなった。

 ヨルカは質問攻めにあって疲れ果てたブランに近づいた。

「そっちはどうだ?」

「はぁー……特に怪しい人はいませんでした」

「二人は?」

(いないっすね)

(こっちもですわ)

 石化したレドーナとヴァレットは意識はあり、魔法をかけたヨルカとだけ話が出来る。

 ただ固まっているため、一定の方向しか見れないが、ブランと共に辺りの様子を見ていた。

 だが、結局怪しい人も怪しい行動もなかった。

 怪しいゴーシュとサルコは参加して上機嫌でいる。

「お嬢ちゃん、ここにいたか」

 クリットがヨルカ達の元に来た。

 今年の石祭りの運営を担当しているため、数日忙しく、元気ではあるが目の下にクマがある。

「クリット殿、息子はどうしてる?」

「言われた通りゴエスを見張ってるよ。異常はないってよ」

 ヨルカはメックに、見張りのためにゴエスのいる宿屋の手伝いを頼んでいた。

「しっかしすげぇなこの像。あのメイドさんそのものだな」

 クリットは石像になっているレドーナとヴァレットを見て感心している。

 クリットには他の皆は解決のために別行動をしていると言っているため、ブランの変装や石像の件は知らない。

「そんでお嬢ちゃん、何か進展はあったか?」

「……そのことですが、三人の他に怪しい人物を何人か見つけた」

「マジでか!」

「!?」

 少しの沈黙の後、ヨルカは答え、その答えにブランも無言で驚いた。

「ああ、仲間が来次第見張ろうと思う。だから安心して構わない」

「そうか……そりゃよかった……」

 ヨルカの言葉にクリットは安心して、再び石像を見た。

「あ、仕事しなくちゃ。そんじゃな」

 クリットは何かを思い出したかのように、小走りで去っていった。

「ちょっとヨルカ様! どうしてあんな嘘を!?」

「すまんが犯人候補がいるのは本当だ。どこで聞いているかわからないからな」

「え? 一体誰が……」

「祭りが終わればわかる。我々は決定的な証拠がない限り手を出せないからな。ブラン達は引き続き頼むぞ」

「あ、はい……」

((了解))

 ヨルカはこの場から去り、空き地には再び客が集まりだした。

 ブランはヨルカの言葉がわからないまま、再び老人を演じるのだった。



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