第13話
今から約何百年も前のこと。
キーダ王国にジョスガーという男がいた。
彼は王都近くの土地で領主をしている傍ら、持ち前の魔力の高さで魔法の研究をしていた。
元々ジョスガーは魔法で大型モンスターを倒し、王国に貢献したことによって領主になった元平民。
それにより服や食事に金を使わず、使わなかった金を領地経営に回したり、自分の屋敷の庭に畑を作り、その採れた野菜を振る舞うなどしているため、領民に人望が厚かった。
大きな屋敷に住む以外、平民とあまり大差がない暮らしをしているが、それでも年が離れた若い妻と、たくさんの子供に囲まれて幸せに暮らしていた。
しかし、それは長く続かなかった……。
そのきっかけは当時のキーダ王国の国王にあった。
当時の国王は傲慢、非情、強欲と三拍子……いや、それ以上ある『最低な王』と呼ばれていて、国王含む貴族は好き勝手し、平民は高い納税を搾り取られ、貧富の差が激しかった。
だから平民のために働くジョスガーが気に入らなかったがために王はある策を練った。
国王はジョスガーにあることを命じた。
それは兵を貸すから、巨大なドラゴンを倒して欲しいとのことだった。
研究した魔法の実験のためにジョスガーは了承し、成人間近の三人の子供と共に遠征に行った。
だが、それは罠だった……。
数日かけて、指定された場所にはドラゴンはおらず、貸された兵隊はいきなりジョスガー達に斬りかかって来た。
ジョスガーは持ち前の魔法により兵隊を返り討ちにして助かったが、子供三人がジョスガーをかばい、死んでしまった。
急いで数日かけて家路へと向かったが、そこには凄惨な光景を目の当たりにした。
畑は火の海と化し、壊された家、切り捨てられた領民達。
道端にはキーダ王国の紋章が縫ってあるマントが落ちていた。
屋敷に帰ると、玄関の扉を開けてすぐ、そこには妻が死体になって発見された。
全裸の状態で凌辱されたのか、股には白い液体が漏れ、虚ろな目で涙を流したまま、胸に剣が刺されていた。
唯一の救いは、幼い末っ子の娘が屋敷の隅に隠れて生き残っていた。
ジョスガーは怒りに身を任せ、単独で王都に向かったが、領地に出た途端に、大勢の王都の兵隊に待ち構えられて、逆に捕まってしまった。
城に連行されたジョスガーは、国王に領地の件をジョスガー本人のせいにした。
それだけではなく、これまで国王の味方をした貴族の罪の黒幕に仕立て上げられた罪をさらに重くし、この場で処刑することとなった。
ジョスガーは必死に否定するも、国王は無視して罪状を語り続ける。
にやける貴族の罵声に、必死に反抗するジョスガー。
国王は最後にこう言った。
「国とは王のためにあるものである。取られるだけが使命の愚民の味方をする貴様は死ねばいいのだ」
国王は悪びれもせずに、王らしからぬ発言を下卑た笑みを浮かべながら語った。
ジョスガーは怒った。
怒りのあまりに魔力を暴走させ、周りを吹き飛ばし、魔法で空を飛び、天井を突き破り、城から逃げ出した。
ジョスガーは生き残った娘と共に、行方を眩ました。
ジョスガー達は誰も近寄らない森の奥に家を建て、そこに暮らし始めた。
そして今度は国のためではなく、国王の復讐のために、愛する妻と子供達、領地の民の復讐のため……ジョスガーは魔法の研究を始めたのだった。
これがジョスガー・アムクルスが変異系魔法を作った始まりだった。
それから研究を重ねて十数年後。変異系魔法を完成させたジョスガーは森を出て、復讐のために一人王都へと向かった。
世間では逃亡した大罪人とされているジョスガーが堂々と王都に向かって歩くと、多くの兵隊が門の前で待ち伏せていた。
ジョスガーは何にも臆することもなく、杖を前に出すと、前にいた兵隊は変化をしだした。
ある者は小さな獣に変えられて、尻尾を巻いて逃げ出しーー。
ある者は年齢を変えて赤ん坊や老人に変えられて、戦えなくしーー。
ある者は体自体を小さく、あるいは自分を大きくして、踏み潰しーー。
ある者は樹木に変えて燃やしたりと、ジョスガーは変異系魔法で邪魔する兵隊をあらゆる物に変化をさせ、進む足を止めずに歩き続けた。
それを見た兵隊や民は恐怖で戦うことをやめて逃げ出し、ジョスガーは真っ直ぐ城へと向かった
城の中に行くと、邪魔する城の人間を変化させると、目の前で目撃した玉座に座っていた王は腰を抜かして、イスから転げ落ちた。
ジョスガーは王に杖を向けると、ある男に止められた。
それは国王の息子、この国の第一王子だった。
王子は「父に王を辞めさせて私が継ぐ。そしてあなたの罪を全て帳消しにするから、父と民を助けて欲しい」と必死にお願いした。
王子は王と違って善人ではあるが、自分が気にくわないことがあれば実の子供でも殺す王に何も言えなかった。
ジョスガーは王子の言葉をとりあえず信じ、「嘘なら虫けらに変える」と王を脅し、ジョスガーは王都を去った。
それから、王権は王子に継承され、ジョスガーは大罪人にしたお詫びとして、再び貴族の称号を、国を苦しめた王を辞めるきっかけを作った礼として、大金と大きな屋敷と侍女をもらった。
こうして、初代ジョスガー・アムクルスは人を変える魔法の持ち主であり、王に歯向かう変人ということから『変人の魔法使い』と呼ばれるようになった。
***
「ーーこれが、初代が記した日記に書いてあった真実だ」
鳥になったヴァレットの上で、ヨルカはブランとメックに初代のことを語った。
「おそらく誰かが同じような話が伝わって、小僧が聞いた昔話になったのだろう。世間では王都を滅ぼそうとした大罪人とか言われるが、一部では民を救う英雄とされているらしい」
「はぁ……ですが話を聞いていると、初代はずいぶんあっさり退きましたよね。王様への復讐のための魔法なのに……」
「おそらく魔法を持続するためだ」
「持続?」
「ブラン、魔法とはどう出すのかわかるか?」
「え? えっと……たしか古式魔術は杖などに魔力を込めて、古代語の呪文と魔法陣をイメージして発動するんですよね?」
この世界の自分の体内にある魔力をヨルカの古式魔術の場合、杖などの道具に込めて、記憶した魔法陣、そして魔法内容をイメージ。そして『古代語』と呼ばれる遥か昔の魔法使いが使っていた『
それらを合わさって魔法が発動する。
「そうだな……変異系魔法には必要な物がある。それは『人間への憎悪』だ。変異系魔法は初代が国王や貴族への人間、その憎悪などの負の力を込めて発動するんだ」
「それを持続するために去ったんですか?」
「というより、初代は娘以外に人間不信になっているだろうから、あまりいた人のいる所にいたくないのだろう」
「人間不信なのに侍女つきの屋敷をもらったのもその持続のためですか?」
「そうかもな。それに初代はそれを礼とは受け取らず、侍女は王国側が危険がないか様子を見るための見張りとして見ていたらしい」
「そうなんですか……」
「ああ、その侍女達を初代は『見張り役』と呼んでいた。つまりお前やワイドリーの元だ。それから身の回りは奴隷がやることになり、侍女から騎士に変わった」
「僕はてっきり変人の魔法使いが国に必要だからその手助けだと思ってました……」
ブランはいきなりの事実に少しがっかりした。
「まぁあくまで初代の見解であり、その日記を元に私が考えたまでだ。その後実験動物として奴隷を買うようになり、初代の死後、唯一生き残った娘が跡を継ぎ、そしてその養子である三代目から王国に仕えるようになり、変人の魔法使いは国から仕事を受けるようになった」
「人への憎悪が力なのに、人のために働くのですか?」
「三代目は仕事で行動することにより、人の醜い部分を間近で見て、憎悪を高めているらしい」
「そうですか……あの、さっき言ってましたけど、ヨルカ様も人が嫌いなんですよね? 一体どうして?」
ブランの言葉に、少し沈黙が流れた。
「…………私もあの屋敷に来る前は、私もひどい目にあった。生きるために必死に足掻いても、人に邪魔をされ、そんな人間と世界を憎みながら生きて……そんな時に四代目が拾ってくれて、養子にしてくれた」
ヨルカは嫌な過去を思い出したせいなのか、自分の服をつかみながら、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「変異系魔法を見て私は興奮したよ。目の前の外道な人間がビビりながら無様に変わっていく姿を見て、自分が優位に立てた気分になってな。それを見るともう笑わずにはいられない。ふふ、ふふふふふふ……」
険しい顔をしたと思えば、ヨルカは不気味な笑顔を見せた。
これにはブランも何も言えなかった。
「……それで私は必死に変異系魔法を覚えて、今に至るというわけだ。ブランよ、君が思っているより私は正義の味方などではない。ただ悪人を倒すという合法の上で、自分を優位に立たせたいために魔法の実験をしたいイカれた奴だ」
「…………それでも」
ヨルカがしゃべり終えて、再び沈黙が流れると、ブランは口を開いた。
「それでも、変人の魔法使いは人を助けてますし、感謝している人もいるはずです。たとえヨルカ様の理由がどんなことだろうと、僕は人を助けるためにヨルカ様に着いていきます」
ブランの決意を固めた純真な眼差しに、ヨルカはさっきとは違い、少し笑みを浮かべた。
「ふっ、君は本当にまぶしいくらいに純情で正義感のある男だ。失望しても構わないなら好きにするいい」
「はい!」
ヨルカの言葉にブランは大きな声で返事をした。
「ところで、さっきから震えている小僧をなんとかしたらどうだ?」
「え?」
「恐えぇー……変人の魔法使いが恐えぇ……」
ずっと話を聞いていたメックが、聞いていた昔話通り人間嫌いで王都を滅ぼそうとした事実を知り、さらにヨルカの本性を知り、恐怖でさらに震えた。
「大丈夫ですよメック君! ヨルカ様は敵にしかやりませんから!」
恐がるメックをブランは必死になだめる。
ヨルカは何事もなかったかのように外を眺めた。
「ヨルカ様、もうすぐ目的地みたいっすよ」
レドーナがヨルカの元に来て、伝えてくれた。
「ん、そうか」
ヨルカが前を見ると、そこに一面森と山に囲まれた自然豊かな場所が見えた。
ヨルカは前にいるクリットの元に向かった。
「クリット殿、ここらで降りれる所はあるか?」
「そうだな~、町があの辺だから、あそこら辺だったら大丈夫だぞ」
クリットが指差した所、山の近くにある木々がない場所が町らしい。
「だそうだ、ヴァレット」
「ピィ!」
ヴァレットは町にそう遠くない森に向かって降りていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます