石祭り

第12話

 とある日の昼頃、天気は晴天。

 見張り役のワイドリーとブランが加わり、より賑やかになった屋敷。

 コルトとヴァレットが洗濯物を干し、レドーナと双子は屋敷内の掃除、ブランはレドーナ達に掃除を手伝わされながら屋敷内の見張り、ワイドリーは屋根の上であぐらをかきながら外の見張り。昼食を終えた彼女達はそれぞれ仕事をしている。

 ヨルカはというとーー。

「ふぅ~……」

 いつもの本だらけの部屋に入り浸り、魔法の研究をしていた。


 ヨルカがやっている魔法の研究、それは新たな変異系魔法の開発である。

 これまでの変異系魔法は開発されたのが全部で十三個。ほとんどが初代が開発し、五代目のヨルカになってから二つしか増えていない。

 それほど古式魔術である変異系魔法の開発は難しいのである。

 今でも羊皮紙に向かいあい、羽ペンと木製の定規やコンパスを駆使して、魔法陣を作っている。

「ふぁ~……」

 しかしここ数日行き詰まっており、今日も朝早くから研究をして、昼食で満腹になり、眠気により、あくびをした。

「あの、ヨルカ様。お客様が依頼に来ました」

 何の前触れもなく、ブランがゆっくりとドアを開けてそう言った。

「そうか……久々に体を動かすか。ん、んん~……」

 依頼が来たヨルカはイスから立ち上がり、腰に手を当てて、背中を反らした。

「誰かに茶を入れるよう頼んでおいてくれ」

「わかりました」

 ヨルカは杖を懐に入れて部屋を出た。


 ヨルカが応接室のドアを開けると、そこには少し汚れた服を着た三十代くらいの筋骨隆々の男性と十代くらいの男の子が立っていた。

「ようこそ、座ってくれ」

「あ、はい」

 ヨルカがソファーに座ると、二人も座った。

「改めて私が変人の魔法使い、ヨルカ・アムクルスだ」

「俺……わたくしは北西の町、ロートンで鍛冶師をさせてもらっているクリットと申しますです。こっちはせがれのメックという者なのです」

 大人の依頼人、クリットは何か違和感のある敬語で挨拶をした。

「クリット殿。そんなにかしこまらずに、普段のしゃべり方で構わない」

「そ、そうかお嬢ちゃん? やっぱ敬語って慣れないから変になっちゃうんだよな」

 ヨルカの言った通り、クリットは敬語をやめた。

「それで依頼というのは?」

「ああ、実はもうすぐ俺の町で『石祭り』っていうのをやるんだが……」

「石祭り?」

「数年に一度、ロートンでやるお祭りですよ」

 そう言いながらドアから現れたのは、人数分のお茶を持ってきたブランだった。

「コルトはどうした?」

「コルトさんは、外で追いかけっこをしている双子さんを『お姉さんとも遊びましょう!』と言って、追いかけたヴァレットさんを追いかけて行きました。一応コルトさんほどではありませんが僕も入れられますので、どうぞ」

 ブランは三人分のお茶を置いた。

「ややこしいけど理解はした。石祭りというのに詳しいのか?」

「僕も北西の方の出身なので、何回か行ったことがあるんです。ロートンは不思議な色をした石が取れますので、石工の町として有名なんです。石で出来た小さいお守りとか、石像の品評会もあったはずです」

「ほう、それでクリット殿、その石祭りに何かあるのか?」

「実はーー」

 クリットの話とは、ブランの言っていたメインイベントである石像の品評会にあった。

 それは各地の石工職人から芸術家などが集まり、町の品評会にしてはかなりレベルが高く、優勝者には賞金と勲章が貰えて、石祭りの優勝者という称号は貴族に指名の依頼が来るほどの名声を得ることが出来る。

 しかし問題なのは、その作品の石像である。

 品評会の石像は町の大きな蔵に保管され、数ヶ月間展示して、その後数年間閉ざされた。

 そしてもうすぐ祭りのため、石像をなんとかしようと、今年の石祭りの運営係であるクリットが蔵を開けると、石像の切り取られていた。


「ーーということなんだ。実は前からその石像が切り取られたことがあったらしく、前の運営担当が黙ってたらしいんだよ」

「前の石像はどうせ処分するのだろう。それでいいのではないか?」

「いや、一応製作者に相談して、一時展示してもらって、記念に持ち帰るってことがあるんだ。ここ数年処分していいやつなのが幸いだが、今年は町の石工職人達が怒り狂ってな。なんとかしたいんだよ」

「なるほど、後の祭りにも支障をきたすということか」

「町一番の稼ぎ時だから何とかしたいんだよ。何とかしてくれないか?」

 クリットは頭を下げてお願いした。

「まぁ、いいだろう……」

「そうか、感謝する!」

「まず、何か手がかりになるのはあるか? 閉ざされたということは、鍵がかかっていたのだろう? それなら町の人の可能性がある」

「いや、鍵は古いやつだからがんばれば誰でも開けられるし……今のところわかってるのは、切り取られたのは人の石像ってだけなんだよ。他は無事なんだがな……」

「人の石像だけ……とにかく行ってみるか。これから用意するから待ってて欲しい」

「ねぇ、お前ってちゃんと解決出来るのか?」

 ヨルカが立ち上がろうとした時、今まで黙っていたクリットの息子、メックがヨルカに生意気な口を聞いた。

「こらメック」

「だってどっから見てもただの子供じゃん!」

 メックがヨルカを指差しながらそう言うと、ヨルカの顔が険しくなった。

「父ちゃん、こんな奴に頭を下げなくていいよ! ちんちくりんのくせに偉そうだし、どうせ金だけもらって何もしないか、外にいた大人達に任せて、自分は何もしないんだろ!」

 ヨルカが何も言わずに立ち上がると、メックに近づいた。

「それに、変人の魔法使いって、むぎゅっ!」

 そして片手でメックの頬を強くつまんで黙らせた。

「口を慎め、小僧が」

 ヨルカがわった目つきと威圧で、明らかに怒っている。そのヨルカの怒りにこの場にいる三人は黙った。

「小僧、お前年はいくつだ?」

「ぴゅ、ぴゅーぴゃい(九歳)」

「私はこれでも十六歳でもう大人だ」

「「「!?」」」

 三人はヨルカの年齢を聞いて無言ながらも驚いた。

 ちなみにこの世界では十五歳で成人としている。

「私は解決しない限り金はもらわないし、私もちゃんと働く。暴言も慣れてるから気にはしない……だが子供と呼ばれることだけは我慢出来ない。もしこれ以上言うのであれば、お前を虫けらに変えて踏み潰すからな。いいな?」

 メックが首を縦に振ると、ヨルカは手を離した。

「さてブラン、準備を始めよう」

「は、はい!」

 ヨルカとブランは準備のために、応接室を出ると、ブランがヨルカに話かけた。

「ヨ、ヨルカ様って、年上だったんですね……」

「何が言いたい?」

 ヨルカが横目でブランを睨んだ。

「い、いえ! その……若々しいですね」

「お前はいくつだ?」

「十四です」

「だったらお前が言うな」

「はい……」

 同じように小柄で若く見えるブランのいらなかったフォローのせいなのか、ヨルカは不機嫌な顔のまま、ブランを残して自分の部屋に向かった。



 ***



「んあぁ!」

 準備を済ませたヨルカ達は玄関で準備を済ませた。

 行くのはヨルカの他に、祭りに行ったことがあるブランとヴァレット、レドーナの三人である。

 一番実力のあるコルトとワイドリーと一度考えたが、二人の仲の悪さで仕事を解決出来ない可能性がある。尚且つ少しでも二人の仲を良くするため、二人を一緒にいさせるためにこのような人選となった。

 そして今、ヨルカは変異系魔法『獣化テージ・オブ・ビスト』と『巨大化ビッガス』でヴァレットにかけた。

 子供がいるため、刺激がないように脱がさずにメイド服を着ながら、悶えながら変化が始まるヴァレット。

 全身が紫の羽毛に包まれると、手が大きく横に広がり羽になった。

「はぁ、はぁ……あぁ、いい……いピィ……ピィ……」

 長い髪の毛が引っ込み、顔も羽毛に包まれて、口が尖ると、人の言葉が喋れなくなった。

 体もどんどん大きくなり、メイド服がその巨大化に耐えきれず、ビリビリと脱皮するかのように背中から破れた。

 そして巨大化が終わると、ヴァレットは紫の怪鳥になった。

「ピィーーーーーーーーー!」

「さて、乗ろうか。レドーナ、親子を乗せてやってくれ」

「うぃーす」

「やっぱり慣れませんね……これは」

「こ、これが変人の魔法使いの魔法……」

「…………」

 初めてヨルカの魔法を見た人は大抵驚いている。

 何回も見ているブランも未だに慣れず、クリットは巨大な鳥になったヴァレットを見上げながら呆然とした。

 メックはさっきのヨルカへの暴言とヨルカの発言、そして今目の前にしている魔法を見て、顔色を悪くし、体を小刻みに震わせた。

「ピィ! ピィ!」

「あぁ……まぁいいだろう」

 ヴァレットはヨルカに何か話しかけている。

「ブランと小僧は私と後ろに乗るぞ」

「え? 何でですか?」

「ヴァレットの調子を良くするためだ。いいよな小僧」

「は、はい……」

 さっきまで生意気な口を聞いていたメックはヨルカ相手にびくびくしている。

 ブランとメックは言うとおりにして、三人はヴァレットの尻付近、レドーナとクリットは背中の方に乗った。

「よし行け」

「ピィーーーーーーーーー!」

 高らかな鳴き声と共に、ヴァレットは空を飛んだ。

 地面から遠く遠く離れると、屋敷の周りにある自然、遠く見える町や山などの景色が一望でき、とても眺めがいいが、それを余裕を持って見てるのはヨルカとレドーナしかいなかった。


「これなら数時間で着くな」

「ピィ、ピィピィ、ピュ~イ」

「はぁ……いいから黙って飛べ」

 ヨルカと上機嫌に鳴くヴァレットが何か話しているが、話し終わると、ヨルカはため息をついて頭を抱えた。

「ヨルカ様、ヴァレットさんは何て言ってるのですか?」

「あぁ、『はぁ、はぁ……可愛い少年少女のお尻が私の上に乗って、とてもいい感触……私のお尻に顔を生やして食べてしまいたいですわ!』だそうだ」

 ヨルカがしゃべり方から恍惚した表情まで、ヴァレットの真似をした。

 そしてすぐに無愛想な顔に戻り、いきなり表情を豊かにして真似をしたヨルカにブランは驚いた。

「あ、相変わらずですね……」

「全くだ」

 ブランはさっきのいらないフォローで学んだのか、特に何も言わなかった。

 ブランは黙って座っているメックの近くに寄った。

「えっと、大丈夫ですか?」

「恐えぇよ、なんだよあれ……俺もさっき言われたみたいに虫けらに変えられるのかな? 」

 メックは近くに来ないと聞こえないくらい小さな声で、ブツブツと弱音を吐いていた。

「だ、大丈夫ですよ! ヨルカ様はああ言ってましたけど、そんな些細な悪口を引きずるほど子供ではありませんから」

「やっぱり昔話みたいになるのかな……」

「昔話?」

「知らないのか?」

「僕はずっと剣術ばっかり教わってたから、本とか話とか疎いんです。それで昔話というのは?」

「変人の魔法使いは代々人間嫌いで、大昔に王都を滅ぼしかけたことがあるって話」

「王都を……ですか?」

 変人の魔法使いは代々王に仕えている。

 そんな王が住む王都を滅ぼそうとしたことがあること、ブランは正直信じられなかった。

「何の話をしている」

 二人の話を割って入るかのように、ヨルカがブラン達の元に来た。

「う……」

 メックはヨルカが現れると、体を縮こまらせて再び黙った。

「あ、いえ……変人の魔法使いが代々人嫌いで昔、王都を滅ぼしかけたという話なんですが、そんなことあるわけないですよね。もし本当なら今頃反逆罪で処刑されてーー」

「事実だ」

「……え?」

「私が使う変異系魔法は元々、王への復讐のために開発した物だし、私も人間が嫌いだ」

 ヨルカのいきなりの暴露にブランは何も言えなかった。

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