第9話

 外はすっかり夜になり、辺りは月の光だけが頼りの暗さで、強めに吹く風が、草をユラユラと揺らしている。

「全員準備は出来たか?」

「「「はい!」」」

「「「お~……」」」

「…………」

 屋敷内の入口前。

 コルト、ヴァレット、ブランは元気よく返事をし、レドーナ、オーレス、オージスは眠そうな顔でテンション低めに返事をし、ワイドリーは何も言わなかった。

「三人はずいぶん眠そうだな、レドーナ達は」

「三人とも昼食後は仕事をせずにずっと屋根の上で寝てました」

「いや~せっかくのいい天気だったから、つい」

「「ついつい」」

「よーし、今度の新しい魔法実験は三人で決まりだな」

「えーそりゃないっすよ! 新しいやつは結構精神的に辛いのもあるんすよ!」

「自業自得だぞレドーナ」

「皆さん余裕ですね!?」

 ヨルカ達の緊張感のない雰囲気にブランはツッコミを入れた。

「てててて敵襲ですよ! 敵に囲まれている状態ですよ! どうしよう、手が……」

 ブランは緊張のせいか、持ってる剣が小刻みに震えている。

「お前が緊張しすぎではないのか?」

「だって、普段は物盗りを捕まえたり、町の人の痴話喧嘩の仲裁とかしかやってないし、人とやり合うなんて……」

 ブランは下を向いてうなだれた。

「だったら王都に帰れ」

 ワイドリーのいきなりの言葉にブランは顔を上げた。

「そんな弱気なことを言ってる奴は必ず死ぬ。人の役に立ちたいなら、人を殺すくらいの覚悟がないと何も出来ねぇ。男のくせに女々しいんだよこの女男が」

「ぼ、僕は女々しくなんかない!」

「だったら」

 ワイドリーはブランの顎をつかみ、顔を近づけた。

「命をかけろ。襲って来る奴は全員殺せ。でないと死ぬぞ」

「は、はい!」

 ワイドリーの今にもブランを殺しそうな眼差しに、心なしかブランの震えは止まった。

「今のはお前の励ましの言葉か?」

「は? んなわけないだろ。俺は口だけの奴がムカつくだけだ」

「だが、その無意識の言葉でブランに勇気と気合いが入ったようだな」

 ブランに緊張感が抜けた所で、ヨルカは一枚の紙を取り出した。

「では、作戦を開始する」

 ヨルカは紙を広げると、それはこの屋敷周辺の地図だった。

「どうやらコルト達の話によると、敵は十人ほど、近くの森や草むらに隠れているようだ。そして相手はこっちが気づいていることに気づいていない。おそらく大部分は森にいるからコルトとワイドリーは屋敷に待機して、残りは森に行こう」

「「「「「「はい!」」」」」」

「…………」

 六人は返事をしたが、ワイドリーは無言だった。

「ただ、色々聞きたいから一人二人は生かすように、作戦は以上だ」

 こうしてヨルカ達の夜の戦いが始まった。


 屋敷からそう遠くない所に、大きな森がある。

 夜の草原を魔法使いと騎士とメイドという異様な集団が歩いている。

 レドーナを先頭に歩いていると、森の手前で立ち止まった。

「おい! そこで隠れているお前ら! いるのはわかってんだよ! さっさと出てこい!」

 レドーナは森に向かって大きな声を上げ、全員は大声に耳をふさいだ。

「レドーナ、 そう簡単に出てきたら苦労はしませんわ」

 ヴァレットの言葉とは裏腹に森から全身黒ずくめの軽装の集団が現れた。

「出てきましたわ!?」

「隠れても無駄ってことだろ。さて、お前らの目的は何だ?」

 黒い集団はレドーナの質問に何も答えず、持っていた剣の鞘を抜き、攻撃態勢に入った。

「何も言わねぇか。なら殺しても文句はないな!」

 レドーナの狂喜じみた笑みと気迫に、黒い集団は少し退いた。

 だが相手は武器を持ってるのに対し、レドーナは丸腰だ。

「ヨルカ様、武器を、ヴァレットで」

「ああ、ヴァレット」

「はい」

 ヴァレットはレドーナの近くに寄り、頭を下げると、レドーナはヴァレットの後頭部をつかんだ。

「え? え?」

 ブランは何が何だかわからなかった。

 そしてヨルカは杖を取り出し、ヴァレットに向けると、空間から魔法陣が現れた。

「変異系魔法第四式『武器化テージ・オブ・ウェボ』」

 杖の赤い光が魔法陣を抜けるとヴァレットに当たった。

「あぁん!」

 ヴァレットが嬌声を上げ、体が火照るかのように顔を赤らめた。

「何度やってもクセになりますわ。この性行為のような体から込み上げる気持ちよさ、あぁ、体が熱いですわ……」

 次の瞬間、ヴァレットの体が変化が始まった。

「ひぐぅ!」

 頭のてっぺんから大きめの剣の刀身が角のように現れ、頭はそのままで、手足がどんどん引っ込み、メイド服がぶかぶかになっていく。

 メイド服が全部地面に落ちると、そこにはレドーナの手の力で浮かんだ頭に首から下が吸い込まれていっている。

 体は完全に吸収されず、一本の棒のようになり、今度は頭が灰色に変わり始めた。

「ああ! 変わっていく! まるで私が私じゃないかのように! この感じがたま……ら……な……」

 饒舌にしゃべっていたヴァレットが静かになると、ヴァレットの頭は喜びの表情を浮かべた鉄の塊となった。

 レドーナは後頭部から体だった一本の棒に持ち替え、ヴァレットは完全な剣になった。

「相変わらず悪趣味なデザインっすよね」

「文句を言うな。それで強くなるんだから」

「まぁそうっすね。んじゃ行くぞ!」

 レドーナはヴァレットだった剣を構えた。

 オーレス、オージスはヨルカを連れて後ろに下がった。

「あ、あああれが変異系魔法……なるほど、人をあんな風にするとなると、これまでの見張り役が恐怖で逃げ出すのも納得です。しかし僕も行かないと役立たずとみなされてーー」

 ブランはさっきのヴァレットの変化を見て、剣を構えながら足を震わせながらブツブツと喋りだした。

「やっぱりあの魔法は初めてには刺激が強いようだな……ブランよ! 味方である限り私は何もしない! だから思う存分戦え! そして私の役に立ってくれ!」

「は、はい! がんばります!」

 ヨルカの声が届き、ブランの人の役に立ちたいという強い正義感と使命感により、足の震えが止まった。

 黒い集団が一斉に襲いかかって来た。

 黒い集団は動きは素早い上に、闇夜に溶け込んで見えづらい。

 そうこうしているうちにヨルカ達は黒い集団に囲まれた。

 高速で移動しながら、ヨルカの周りを縦横無尽に跳び跳ねて牽制し、ヨルカ達は攻撃しづらい状態にしている。

(どうする? このまま向かっても簡単に避けられて、攻撃されてしまう……ここはまずヨルカ様を守りながら、暗さに目を慣れさせてーー)

 ブランは剣を構えながら敵を倒すための考えをまとめている。

 しかしーー。

「しゃらくせぇぇぇぇぇ!!」

「へ?」

 ブランが考えをまとめようとしていたその時、レドーナがいきなり声を上げた。

 レドーナの大声に振り向き、ブランが彼女の姿を見たほんの一瞬を目撃したが、いきなりレドーナが消えた。

「でやっ!」

「「が……!」」

 一瞬見失ったが、ブランは黒い集団の中に突っ込むレドーナを見つけた。

 すると、急に黒い集団の動きが止まり、何歩か後ろに下がった。

 レドーナの下には黒い集団の二人が血まみれで倒れていた。

「まさか、あの一瞬で二人も……レドーナさんは一体?」

「あいつはメイドとしてはダメダメだが、戦闘に関しては一二を争う強者だ」

 ヨルカがブランに声をかけた。

「ヨルカ様、しかしあの一瞬で消える素早さは明らかに異常ですよ。とても人間技ではありません」

「あれはレドーナの基礎能力にヴァレットの能力が足されているからだ」

「え?」

「私の『武器化テージ・オブ・ウェボ』は武器にした人間の能力を持った人間に一時的に付与出来る。今のレドーナは人間二人……いや、あいつ自体が二人分くらいだから三人分並みの力を持っている」

「そんなことが……」

 ヨルカとブランが話しているのをよそに、黒い集団の一人がレドーナに襲いかかった。

「はぁ!」

「なんの!」

 黒い男がレドーナに向かって斬り込むも、レドーナは一瞬で後ろに回り込み、男の首をはねた。

 今、黒い集団はレドーナに集中している。

「ブランよ、このまま女の子一人でやらせる気か?」

「はっ! 参ります!」

 ブランはレドーナと元に向かった。

「はあぁぁぁぁぁぁ!」

 ブランはレドーナの近くにいた黒い男に立ち向かった。

 レドーナに集中していた黒い男はブランの不意討ちを避け、かすり傷しか負えなかった。

 ブランは黒い男の素早い攻撃をかわし、防ぎながら、攻撃を仕掛け、お互い攻防を繰り返している。

「ほう、レドーナほどではないが、いい動きをしている」

 ブランの動きをヨルカが賞賛した。

「ていっ!」

「ぬっ!?」

「やぁ!」

 ブランは黒い男の足を引っかけて、バランスを崩し、その隙を突いてブランは縦一線に切り裂き、黒い男は倒れて動かなくなった。

「や……やった!」

 ブランは一人を倒せたことに喜んだ。

「よし! まだまだ行くぞ!」

 倒したブランは強気になり、もう一人に立ち向かう。

「せいっ!」

 もう一人の黒い男に向かって、走りながら剣を大きく振りかぶり、ブンッと振り下ろしたがーー。

「うおっとぉ!?」

 ブランの振り下ろした剣がすっぽ抜け、ちょうど森付近にいたレドーナに向かって飛んでいき、レドーナは咄嗟に背中を反らして、ギリギリでよけた。

 ブランの剣は木に突き刺さった。

「危ねぇだろ!」

「すみません! よく力みすぎと言われてるので、気を抜くことを意識してました!」

 レドーナは怒り、ブランは頭を下げて謝った。

「うわ、ちょ!?」

 ブランの相手をした黒い男は待ってくれず、丸腰のブラン相手に剣を振り回し、ブランは必死によけている。

 レドーナは片手で木に刺さったブランの剣を抜くとーー。

「気~を~抜きすぎだ!」

 ブランに向かって大きく振りかぶり、剣を思いっきり投げた。

 その剣は風を切り、音を立てながら一直線にブランの元に向かった。

「ぐ……!」

「え?」

 レドーナの馬鹿力で放たれた剣は、黒い男の頭の横に突き刺さり、まるで串焼きの肉のように貫かれ、そして倒れた。

「た、助かっ……ぐぅ!?」

 ブランは腰を抜かし、安堵の表情を浮かべたと思ったら、一瞬で移動したレドーナの拳骨を食らった。

「ったく、気を付けろよ!」

「すみません……あの、敵は?」

「とっくに倒したよ」

 ブランは周りを見渡すと、黒い集団の死体が広がっている。

「す、すごい……」

「ま、見えずらいだけで大したことはねぇな」

「よくやったなレドーナ、ブラン」

 ヨルカが二人に近づいた。

「ヨルカ様! どうすか? 誰も逃さずやりましたよ!」

「ああ、上出来……と言いたいがーー」

「が?」

「私は一人二人、生かせと言ったんだが?」

「あ……」

 レドーナとブランが倒した黒い集団。主にレドーナが勢いで倒してしまい、生者はいなかった。

「あ~……すんません」

「まぁいい、いるからな」

「まだ?」

「相手は十人くらいと言っただろ。数えてみろ」

「え? 一、二……」

 レドーナは倒した黒い集団を数えた。

「……七、八、あれ? 二人足りない」

「まだいるということだ。おそらくここにいるのは雑魚でおとり。本命はもう屋敷にいるかもな」

「じゃあ、急がないとヤバいじゃないすか!」

「大丈夫だ、お前らもコルトの強さを知ってるだろ。ゆっくり行こうじゃないか」

 焦るレドーナとブランをよそに、ヨルカは余裕の表情でゆっくりと、屋敷に向かった。






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