第8話

 ヨルカは騎士団長グフターと見張り役希望者の二人を応接室に招いた。

 ヨルカ達はそれぞれソファーに座り、座ってすぐにコルトが現れて、人数分のお茶をテーブルに置き、ヨルカの後ろに立った。

「それじゃ、改めて挨拶しろ」

「はい!」

 茶髪の小柄な男性が元気よく返事をし、立ち上がった。

「ブラン・ロンズと申しましゅ!」

「しゅ?」

 茶髪の男、ブランは噛んだ恥ずかしさで顔を赤らめた。

「おほん……自分は人の役に立ちたいがために騎士になりました。しかし、騎士になっても平和になってその機会が少なくなったため、変人の魔法使い様の元でなら少しでも人の役に立てる手伝いが出来ると思い、志願いたしました」

 ブランは曇りのない目でヨルカを見ながら志望理由を言った。

「んー、なんだか彼の純真な目がまぶしいな……」

 ヨルカは眩しそうに目を押さえた。

「ヨルカちゃん結構心が汚れてるからな」

「失礼だな騎士団長」

「そんな感じで、真面目で正義感の塊のようないい奴なんだが、力みすぎてミスが多い」

「それは致命的ではないのか? それで……」

 そしてもう一人、まるでふてくされているかのように足を組んで行儀悪く座っている顔に傷のついた白髪の男。

「ほら、挨拶しろ」

「……ワイドリー・ホールナー」

「希望動機とかも言っとけ」

「あ? ……金がいいから」

「…………」

 白髪の男、ワイドリーは必要なことしか喋らず、質問に答える時ヨルカをチラ見するくらいで、あとは窓の外を見ている。

「こいつは問題児でな、俺や先輩騎士にもため口や暴力を振るったりして、礼儀も協調性もない不良騎士だ。だが戦闘に関しては新人の中でも群を抜いて優秀だし、肝が座っている」

「それでよくまだ騎士にいられたな。まぁ強いのは貴重ってことか……」

「それでどうヨルカちゃん? ここは護衛される本人の意見を聞きたいんだけど、二人とも? それともどっちか?」

「…………」

 ヨルカは考えた。

 優秀ならワイドリーがいい。

 だが、あの様子だと言うことを聞かない可能性が高いから好き勝手に行動されては困る。

 ブランは真面目に言うことを聞きそうだが、ミスが多いらしく、仕事に支障をきたすかもしれない。

 ヨルカは散々悩んだ挙げ句ーー。

「わかった、二人なんとかしよう。欠点は二人でカバーすればいいしな」

「そうか! じゃあそういうわけだから俺は王都に帰る!」

「早いな」

「これでも騎士団長だから忙しいんだよ。馬車に二人の荷物は馬車から降ろしとくから、そんじゃ」

 グフターはお茶を飲み干し、さっさと立ち去った。

 残ったヨルカ達はただ座っているしかなかった。

「それじゃ皆に紹介しよう」


 コルトは二人の荷物を持ってくるため、外に出て、ヨルカは二人を連れて、奴隷達が待ってる食事部屋に移動した。

 そして奴隷達が集まった所で、ヨルカは二人組の訳を説明し、紹介をした。

「ーーというわけで、新しい見張り役のブランとワイドリーだ」

「よろしくお願いします!」

「…………」

 ブランは元気よく挨拶し、ワイドリーは何も言わずに壁に寄りかかっている。

「かわいいですわ!」

「うわっ!?」

 ヴァレットがいきなりブランに抱きついた。

「ヨルカ様のように小柄で女の子みたいでかわいらしいですわ!」

 ブランの頬を刷り寄せるヴァレット。

 ブランは顔を赤くしながら離れようとする。

「や、ややややめてください! 僕、この容姿のせいで家族や先輩騎士にもなめられてあまり好きではないんです!」

「なぜですか!? かわいいは正義! その可愛らしい容姿は人を救うことだってできますわ! 現に私は興奮しておりますわ!」

「それは正義と関係ありませんよね!?」

「はぁ……レドーナ」

「うっす」

 ヨルカの指示でレドーナはヴァレットに近づいた。

「ふん!」

「ぐふっ!」

 そして頭を思いっきり殴った。

 痛みに負けたヴァレットはブランを離し、しゃがみながら両手で頭を押さえた。

(先が思いやられる……)

 そう思いながら、ヨルカはため息をつくと、ドアが開ける音が聞こえた。

 振り向くと、ワイドリーが部屋から出ようとしている。

「ワイドリー、お前は挨拶しないのか?」

「…………」

 ワイドリーはヨルカを無視し、部屋を出た。

「おい、人の話は一応聞いてーーん?」

 後を追いかけたヨルカは、急に振り向いたワイドリーに頭をつかまれた。

「うぉっ……」

 そして、後ろに押されて、ヨルカはよろけて尻餅をついた。

 それを見た奴隷達は一瞬で静かになった。

「最初に言っておくぞ、黒チビ」

「黒、チ……」

「俺は仕事はするが、あんたらと馴れ合うつもりはない。仕事以外で俺に近づくな、話しかけるな、変人のガキが」

 ワイドリーは護衛対象であるヨルカに暴言を吐き、部屋を出た。

 尻餅をついたヨルカは起き上がり、尻の汚れを落とした。

「ふぅ……たしかに問題児かもな」

「ヨルカ様」

 両手に荷物を抱えたコルトが入口にいた。

「あの男を亡き者にする許可を……」

 コルトは荷物を置き、懐からナイフを取り出した。さっきのやり取りを見ていたらしい。

「ヨルカ様に無礼を働く輩はこの屋敷にいりません。ふふふ、久々に体がうずきます」

 ナイフを見つめながらハイライトのない目で笑みを浮かべるコルト。それを見て他の奴隷とブランが怯えている。

「よせ、それぐらいで殺すな」

「しかし……」

「まぁこちらとしても勝手な行動は困るし、オーレスとオージスにでも見張らせるか」

「わかりました」

 ヨルカはブランと違った意味で、先が思いやられる。そう思いながら二人の紹介を終えた。


 コルト達に見張り役二人に空き部屋を案内し、早速仕事をさせた。

 見張り役は依頼がない場合、外や屋敷の見回り、ヨルカの部屋の前の警備をしている。

 今回は二人のため、ブランが見回り、ワイドリーがヨルカの部屋の警備をすることになった。

 ヨルカは本だらけの自分の部屋で変異系魔法の新しい術の研究をして、羽ペンで羊皮紙に何かを書いている。

「…………」

「…………」

 ワイドリーは部屋の外ではなく、中で過ごしてその辺の本を読んでいる。

 しばらくの沈黙の中、ヨルカはワイドリーに話しかけた。

「ワイドリーよ。これは仕事のことだから言わせてもらうが、これは普通外で見張るのではないのか? 近づくなと言って自ら近づいているではないか」

「雇い主を知るにはまず趣味嗜好、生活態度を知ってそれに合わせて見張る。それが俺のやり方だ。好きでやっていない」

 ワイドリーは本を読みながらそうは言っているが、実際真後ろにいられたら気が散る。

 そう思い、改めてワイドリーを話しかけようとした。

 すると、彼のつけている鎧の手甲と膝当てに魔法陣に目がいった。

「それは『新式魔術』か?」

「…………」

「『古式魔術』より簡単だからか?」

「…………」

 ワイドリーはヨルカを無視をした。

 新式魔術、古式魔術とは魔術のやり方である。

 ヨルカのやる『古式魔術』は魔法陣を記憶し、頭の中でイメージさせて杖を使って遠い所でも魔法を発動出来る、古くからあるやり方。

 逆に『新式魔術』は最初から武器など、身につけた物に魔法陣を刻み込み、魔法を発動される。戦争の時に出来た古式魔術より後から出来たやり方。

 魔力の消費が多く、習得が難しい代わりに、強力で種類が多い上に、発動範囲が広い古式魔術に対し、新式魔術は習得は簡単で、魔力の消費が少ないが発動範囲が狭く、単発的な魔法しか出来ない。

 最近では誰でも使える新式魔術が主流になって来ている。

「他の騎士もそれを使うのか?」

「…………ちっ」

 ワイドリーは何度も話しかけたからか、舌打ちをした。

 ヨルカはこれではいけないと思い、ヨルカは羽ペンを置き、ワイドリーと向かいあった。

「ワイドリーよ、ここからは仕事のていで話をしようか」

 ワイドリーは睨みながらだが、振り向いてくれた。

「お前は城で雇われているとはいえ、私は雇い主のようなもので、今お前とブランはまだ仮契約の段階だ。それ相応の働きはもちろん大事だが、態度とかを改善して気に入られたりしないとこの先やってけないぞ」

「……別に好きで騎士なんかやってない。上司は貴族上がりばかりで、あんな金と権力を盾にするような雑魚に媚び売ったってイラつくだけだ」

「雑魚って……好きでやってないならなぜまだ騎士なんてやってるんだ?」

「そ……」

 ワイドリーは何かを言いそうにしたが、途中で止めた。

「……やめられない理由がある。とにかく俺は態度を変えるつもりはない。その分仕事でカバーすれば問題ないだろ。放っといてくれ」

 そう言って、また本の続きを読み始めたワイドリー。

 ヨルカは諦めて、再び羽ペンを取った。



 ***



 しばらくして、空が橙色から段々と暗くなる黄昏時、魔法研究をきりのいい所まで終わらせたヨルカは揺り椅子に揺られながら、本を読んでいる。

 ワイドリーはあれから全くしゃべらず、本を読んでいる。

「ヨルカ様、ワイドリーさん、夕飯の準備が出来ました」

 ドアのノックする音が聞こえると、コルトが入って来た。

 ワイドリーを見たコルトの目は睨んでいた。

「わかった。ワイドリーよ、さすがに食事は一緒に食べてくれ。食べこぼしとかで汚れて困るものがーー」

「静かにしろ」

 いきなりワイドリーに言われ、静かになったヨルカ達。

「…………!」

 コルトも何かに気づいたようだ。

「どうした?」

「「近くに誰かい(ます)る。それも複数(ですね)」」

 コルトとワイドリーが二人がほぼ同時に同じ内容をしゃべった。

「マジか、詳しくはわかるか?」

「数は十人くらいかと、気配はあまり感じないことから、相手は隠密のプロの可能性がありますね」

「気配を感じにくいのは周りは草原だから遠くの木陰や草むらで隠れているみたいだ。でもプロなのはたしかだな」

「ほう……」

 ヨルカはコルトはともかく、ワイドリーの気配察知能力に内心感心している。

「黒チビ、相手に心当たりはあるのか?」

「ワイドリーさん、ヨルカ様に黒チビって言うのはやめてください」

「いいコルト、もう諦めた……どこかのお偉いさんが変異系魔法の秘密を知るために送り込んだ密偵か、または依頼をした時の首謀者が逆恨みで雇ったか……心当たりがありすぎるな」

「秘密を知るって、そんなにその変異系魔法ってのは重要なのか?」

「ああ、先祖代々ずっと秘密にしてきた門外不出の魔法だ。悪用されたら一人で王都を滅ぼせるな」

「そこまでか……」

「は? それはどういうーー」

「コルト、至急全員に連絡。戦闘準備だ」

「わかりました」

 ワイドリーの言葉を遮り、ヨルカは揺り椅子から立ち上がり、戦闘の準備を始めた。



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