第6話

 ヨルカはゆっくりとフランソワに近づく。

「ひっ……!」

「「逃がさな~い」」

 フランソワは逃げようとするが、双子は両腕をつかんだ。

「は、離せ! 離せ!」

 ジタバタと抵抗するフランソワだが、双子の力は強く、逃げられない。

 ヨルカはフランソワの目の前に近づき、杖を取り出した。

「待って! あんた、私と手を組まない? 聞いたわよ。あんた達って隣の国の王国に雇われた人間よね? 王国に監視とかされて苦労してるんじゃない?」

「…………」

 ヨルカはフランソワの言葉に動きが止まった。

 フランソワはチャンスと思った。

「やっぱりそうなんだ。あんた、正義のためと理由をつけられたり、権力を使って無理矢理やらせてるのよね? 私が王女になってこっちにつけば、あんた達にお金と自由を与えるわ。ただ私の下で邪魔者の排除をしてくれればあとは好き勝手出来る。どんな悪行をしても権力で見逃してあげるわ。どう? 正義なんて勝手と偽善で出来たすぐ壊れる物より、誰だってどんどん沸いて出てくる欲望のための悪がいいでしょ!」

 フランソワは自分の味方になるように、ヨルカに詭弁きべんろうした。

「だからさ、後ろの貴族とウィルナを殺してーー」

 フランソワの話が終わる直前、ヨルカはフランソワに杖を向けた。

「え?」

「一つ言っておく……私は正義などで動いてはいない」

「は?」

「王国に縛られてはいるが、権力で強引に動いてないし、金にそこまで執着はないし結構自由にやっている……私はお前の言うで動いている」

「欲望……?」

 ヨルカの杖の先端は、フランソワの胸元に当てた。

「正義という名の合法で……我が変異系魔法の実験が出来るし……人の絶望する顔が見られるからだ」

「ひ……」

 ヨルカは笑った。

 それは爽やかさも可愛さもない、先程のバイドのような加虐かぎゃくを楽しむ不気味で歪んだ笑顔だった。

 その笑顔を見てフランソワが怯えた。

 ヨルカは杖から魔法陣を出した。

「変異系魔法第十式『分離セパール』」

 杖から出る赤い光はフランソワに当たり、全身が赤く発光した。

「な、何これ? ……あっ……体が熱い……んあぁ!」

 光ると同時に、喘ぎ声をあげるフランソワ。

 赤い光が収まると、フランソワは手足をビクビクと痙攣を起こしている。

「コルト」

「はい」

 コルトは御者が持っていた短剣を拾い、それを使ってフランソワのドレスを破き、丸出しになった腹部にまた短剣で刺すと、穴が開いた。

 そして手を上下に移動させ、その穴を広げるが、フランソワに痛みはない。

 穴は首もとからへその下まで広げると、コルトは穴に手を突っ込み、中を触った。

「ひぐっ!」

 コルトが触ると同時に、味わったことがない感覚にフランソワは声を漏らした。

 コルトはフランソワの腕辺りの中をつかんで引っ張ると、穴からズルズルと音を立てながら、濡れた赤い物体が現れた。

 それと同時にフランソワの手の先がしぼんだ。

「な、何これ? 中が動いて気持ちいい……こんなの初めてぇ……」

 フランソワは引っ張られるごとに、快楽を覚え、何も考えられない状態になっている。

 コルトが物体をどんどん引っ張った。

「ああっ! だめっ! 引っ張っちゃ……ああぁぁぁぁぁぁ!」

 全て引き上げると、フランソワが絶頂を向かえたかのように大声を上げた。

 そして中からぬめりのある粘膜をまとった人型の赤い物体が出てきた。

「はぁ、はぁ……」

 息を切らしながら動いたのは、フランソワの中から現れた赤い物体だった。

「え……何この体……?」

 赤い物体からフランソワの声が聞こえた。

 赤い物体は自分の一部分を見ると、四つんばいになりながら、池に向かった。

 そして、池の水鏡を見るとーー。

「え……」

 その姿は人の形をしているが、毛髪は一切なくなり、全身の皮が剥けた筋肉むき出しの状態だった。

 そして双子がつかんでいる肌色の物体は、中身が無くなってしぼんだフランソワの皮であり、フランソワはヨルカの『分離セパール』により皮と中身が分離して、文字通り脱皮。今のような筋肉むき出しの姿に変わったのだ。

 筋肉の赤と少しの白のコントラストが不気味さ醸し出し、あのときの美しい女性の姿はなかった。

「い……いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 体がぁ! 私の美しい体があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 変わり果てた姿にフランソワは悲痛の叫びを上げた。

「ふふっ……ふふふふふふふーー」

 フランソワの悲鳴を見て、ヨルカは不気味に笑う。

「ふふふふ……ふぅ……コルト、城に戻って知らせよう」

 ヨルカが満足したのか、しばらく笑って息を整えると、元の無愛想な表情に戻った。

「はい、二人とも行きますよ!」

「「は~い」」

 双子は持っていたフランソワの皮を投げ捨て、ヨルカに着いていく。

「行こうかワズ殿、あとはここの騎士に任せよう」

「…………はい」

 ワズは元気がない様子でヨルカに着いていった。

 皮がない筋肉むき出しになり、異様な姿となったフランソワの悲鳴は、ヨルカが去ってからも森中に響くのだった……。



 ***




 それから数日後、ヨルカ達は城で行われるパーティーに参加した。

 そこでブリスト王子はウィルナの結婚をパーティーの参加者に宣言した。

 ウィルナはブリスト王子の隣で満面の笑みを浮かべていたが、隅でワインを飲んでいたワズは娘が無事に結婚に行く喜び、弟が殺しに関わったというショックが相まって複雑な表情をしていた。


 そしてパーティーの翌日、ヨルカ達はワズが新しく手配してくれた馬車で、屋敷に向かっている。

 ワズはウィルナの結婚の話し合いで城に残っている。

 オーレスとオージスはお互い寄りかかって眠り、ヨルカとコルトは話を始めた。

「バイド、バド、御者はレフ王国の大監獄に投獄するらしいです」

「そうか……しかし、今回は思わぬ収入が出たな。レフ王国から連続殺人事件解決のお礼をもらった。ワズの方にも後日もらえるしな」

 ヨルカは金が入った布の袋を揺らして、無愛想な表情ながらも喜んでいる。

「ワズ様、王様に頼んでバイドが人殺しに関わったこと、ウィルナさんに言わないようにするらしいです」

「ほう……」

「犯人はフランソワと共犯者とぼかして、バイドは許嫁候補全員の見張りをしたのに、犯人を見つけられなかった罰で遠くに左遷ってことにしたらしいです」

「娘のために……いや、弟と身近な人が裏切って、娘しかいなくなったから悲しい思いをさせたくないんだろ……そういえばフランソワはどうなった?」

「彼女はあの森で、御者が持っていた短剣で心臓を突いて自害しました。あの姿で生活は難しいですからね」

「…………」

 ヨルカはフードのポケットからしなびた紫の花を取り出した。

「ヨルカ様、それ……」

「ああ、これまでの人間を殺して来たリーパードという花だ……コルト、この花がちゃんと咲いていたやつは綺麗だと思ったか?」

「え? ……そうですね。毒の花だと知らなかったら魅力的な花だと思います」

「この花の毒は花びらにある。誰もが魅了するが人を殺す毒。まるでフランソワみたいだ」

 ヨルカは萎びた花びらを一枚ずつちぎって捨てた。

「しかし、最後のフランソワはこの花びらのない花のように、人前に出ずに魅了も誘惑も出来やしない無価値の存在だ。ふふ、あの姿は本当に無様で……笑える」

 ヨルカは筋肉むき出しのフランソワのことを思い出し、不気味ににやけた。

 ヨルカはちぎり終えた花を外に捨てた。

「さて、私も寝よう……」

「ヨルカ様、屋敷に帰ったらどうなさいますか?」

「いつも通り本を読んでのんびりする……あ、食べ損ねたパイが食べたい」

「かしこまりました。レフ王国で茶葉を買いましたので、そちらもお入れします」

 爽やかな晴天のもと、ヨルカとコルトは他愛もない話をしながら馬車はどんどん進む。

 変人の魔法使いにより、一つの事件が解決された。



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