第4話

 面談を終えたヨルカ達は死体のある部屋に移動した。

 ヨルカに言われた通り、部屋の中はそのままになっている。

 ヨルカは死体に近づき、顔を覗いた。

 昨晩に比べると顔色が悪くなっている。

 目が見開いていて、口には散らばった花が口に入っている。

「どうですか? ヨルカ殿」

「外傷がない。見たことのない花だな……ん?」

 ヨルカが何かに気づき、更に死体に顔を近づけた。

「顔にうっすらとアザがある」

「アザ?」

 ワズ達も一緒に顔を近づけると、死体の顔に遠目で見たらわからないくらいうっすらと褐色のアザが浮かんでいる。

「これは一体……」

 ヨルカは立ち上がり、近くのイスに座った。

「この花、毒だな」

「毒!?」

 ヨルカの言葉にワズとウィルナは散らばった花びらから遠退いた。

「花には種、根など物によって毒性がある物があるが、この毒は花びらにあるようだ。しかもこういう顔にアザが浮かぶような毒を持った紫の花…………たしかリーパードという気温の低い山岳地帯にしか生えない流通していない珍しい花だっけか?」

「詳しいんですか?」

「趣味の読書の賜物だ。ただ、図鑑も文章ばかりで実物は見たことないがな……もしかしたら、ワズ殿が言ってた許嫁候補が渡したという花束はこれかもしれない」

「え!? だとしたら、この花を渡した人が犯人ですか!?」

「可能性は大いにある。あとは情報待ちだな」

「情報というと?」

「「ヨルカ様~」」

 部屋の窓から逆さまにひょっこりと現れたのは、オーレス、オージスだ。

「だ、誰!?」

「どこから現れたんですか!?」

「「ただいま~」」

「おかえり、どうだった?」

 ワズ親子の驚きをよそに、ヨルカと双子は話を進める。

「まずはオーレス」

「は~い、まず許嫁候補? その人達全員紫の花束もらっていて、突然死んだって~」

「やはりな……誰からもらったかは聞いているか?」

「わかったけど、デカかったり、小さかったりでバラバラだって~」

「バラバラ……誰かに頼んだのか? オージスは何かわかったか?」

「えっとね~、四人の許嫁候補の共通の知り合いっていうのがわかった~」

「誰だ?」

「執事のバドだって」

「「えぇ!?」」

 ワズ親子は驚いた。

「バドって人は時々レフ王国中の貴族達の会議やお茶会とかで色々相手したみたい。お茶の入れ方とか教えてて、幼い頃から慕ってたってさ~」

「つまりあの執事宛なら難なく渡すせるのか。ちなみにこの死体の花束は誰にもらったかわかったか?」

 ヨルカは目の前の死体を指差した。

「騎士のバイドが『女に渡された』と言って渡した所をメイドが見てたって」

「女ってことはフランソワさんが……もしかして彼女がバイドみたいに人を使ったのでは?」

「だが、慕っている執事のバドもその可能性がある……」

「ヨルカ様~、あとそのバイドって人なんだけど、王子の指示で騎士を使って許嫁候補の護衛をしたみたいらしいんだけど、バイドは全員を見張りを任されたみたい。しかも見張りを任せた順番に候補は死んだって~」

「バイドが……!」

 ワズが再び驚いた。

「候補が順番に……彼にも可能性がーー」

「ありえません! バイドはたしかに短気な所はありますが、人を殺すようなことはしません!」

 ワズが大声を上げて立ち上がった。

「まぁ座れ。あくまで可能性だけだ。落ち着け」

「はい……」

 ワズは座った。

「ん~……」

 ヨルカはイスにもたれながら上を向きながら悩んでいる。


 今の時点でヨルカがわかっていること。

 許嫁候補と部屋の貴族は皆、毒の花による毒殺。

 花を渡した人はバラバラ。

 許嫁候補は皆、バドを慕っていて、心を開いている。

 そしてワズの弟、バイドが見張った時に、皆死んでいる。

 残っている候補はウィルナとフランソワ。

 だが王子はすでにウィルナと決まっている。

「ブリスト王子以外三人が怪しいな……決定的な証拠が欲しいものだ」

「ヨルカ様、こちらをご覧ください」

 ヨルカが振り向くと、コルトが死体を見ていた。

「どうした?」

「これを」

 コルトが注目したのは死体の額。

 髪の毛をかきあげると、白い粉がついていた。

「この粉は…………犯人がわかるかもしれないな」

「本当ですか!?」

 ワズがヨルカの言葉に再び立ち上がった。

「だがそのためには証拠が必要だ」

 ヨルカは机にある羽ペンでサラサラと二枚の紙に何かを書いた。

「ワズ殿、中を見ずにこれを弟に渡してもらえるか?」

「わかりました! それがバイドの無実を証明出来るなら!」

 ワズはヨルカに紙を渡され、すぐに部屋を出た。

「ウィルナ殿は王子の所へ行ってもらえるか? もしかしたら戦闘になるかもしれないからな」

「わ、わかりました」

 ウィルナも部屋を出た。

「オーレスとオージスは引き続き情報を探してほしい。あとこれ」

 ヨルカはもう一枚の紙をオーレスに渡した。

「は~い」

 双子は窓から飛び出した。

 残ったのは、ヨルカとコルトだけとなった。

「ヨルカ様、どうします?」

「絶対的な証拠がないと何も出来ない。それが王との約束だ……」

 ヨルカ、歴代の変人の魔法使いはキーダ王国とあることを誓った……それは犯罪を犯したという絶対の証拠がない限り、攻撃、魔法を一切禁じている。

 それだけヨルカの変異系魔法は危険だということだ。

 ヨルカとコルトが何もしないで待っているとーー。

「ヨルカ様」

 外からノックする音と共に、バドの声が聞こえた。

 ドアを開けると、バドがティーセットを乗せた台車を押して入って来た。

「お茶のご用意が出来ましたので、少し休憩してはいかがでしょう? コルト様もどうぞ」

「ありがとうございます」

 バドは無駄な動きもなく、慣れた手つきで二人分の紅茶を入れた。

「どうぞ」

「どうも」

 ヨルカ達は紅茶を受け取り、飲んだ。

「はぁ……適温」

「おいしいですね」

「ありがとうございます」

 二人はすぐに飲み終わり、ティーカップをバドに返した。

「さてと、ふぁ~……」

「ふぁ~……」

 ヨルカとコルトはあくびをした。

「あぁ……なんだか眠くなっ……て……」

 ヨルカはイスから転げ落ち、床に倒れた。

 まぶたがどんどん重くなり、薄れゆく意識の中、ヨルカが目にしたのは、同じように倒れたコルトの頭と、バドの足元だった。




 ***




「……………………」

 ヨルカが目を覚ますと、そこは薄暗い部屋。

 石の壁と床に、一部の壁と窓が鉄格子で塞がって、唯一の出入口は錠前で鍵がかかっていて、明らかに牢屋である。

 外は朝だったのに、窓には月が浮かび、いつの間にか夜になっていた。

 そして腕と足は縄で縛られている。

「ヨルカ様」

 隣にはコルトも同じように縄で縛られている。

「ヨルカ殿……」

 向かいにはワズも縛られていて、顔に殴られたような傷があり、出ていた鼻血が乾いている。

「どうやら睡眠薬を飲まされて、牢屋に閉じ込められたらしいな」

「みたいですね」

 縛られているにも関わらず、ヨルカとコルトは冷静である。

「ヨルカ殿……バイドが……バイドが……」

 ワズはくしゃくしゃの顔になり、涙を流している。

「ワズさん、どうしたのですか?」

「バイドが……ヨルカ殿が書いた紙を渡した瞬間……私を強引にこの牢屋に連れ込んで、殴ったんです……」

「ああ、やはりな」

「やはりって、まさかバイドが殺した犯人なんですか!?」

「そう。だが

「え……一体どういうーー」

「ヨルカ様~」

「うわ!?」

 鉄格子の窓からつり目が牢屋を覗いた。ワズはそれに驚いた。

「オーレスか、どうだった?」

「フランソワがバドとバイドと話し合ってたよ~」

「なるほど……どうやら許嫁候補と部屋の男を殺したのは、フランソワ、バド、バイドの三人のようだ」

「な……何ですって!」

 ワズが信じられないという顔をした。

「おそらく主犯はフランソワ、バドとバイドは利害の一致による協力と言った所だろ」

「まさか犯人が三人……ヨ、ヨルカ殿はそこまでわかっていたんですか?」

「いや、私も犯人が三人だとはついさっきまで思わなかった」

「……へ?」

 ワズはキョトンとした顔をした。

「私は許嫁候補が死んで一番得をするフランソワが犯人だと思っていた。部屋の死体の額にあった白い粉、あれは肌を白く見せるための化粧品が乾いたやつだ。だからフランソワの決定的な証拠を見つけようとしたが、バドもバイドも怪しくなって来た。だから念のために残り二人を試してみたんだ」

「じゃあ、私に渡したあの紙は?」

「とりあえず『お前がフランソワと関わっていることを知っている』と書いて試してみたんだ。もし違っていたら彼はすぐに私の所に怒りに来るだろう」

「私はおとりだったんですか!?」

「いや、ただの伝言係のつもりだったんだ。申し訳ない」

 ヨルカは下を向いて謝った。

「しかし、バイドが殺しに関わった原因はワズ殿にあるかもしれない。でなかったら兄であるワズ殿に被害を与えるのはおかしい」

「そんな……私は身に覚えが……」

「それからバドが我々の部屋で聞き耳を立てていたようだ。コルトが死体に近づいた時、床に指でなぞって伝えてくれた。だから私もわざと引っかかって今に至るということだ。オーレスにはバドに聞かれないよう紙に『一人はすぐに戻ってバドを見張れ』と書いておいたから、オーレスはここを知った。眠らせた時点でバドが共犯者だと思っていたが、まさか三人だとはな……」

「ヨルカ殿は推理で解決するのではなかったのですか!?」

「そんなわけないだろ。私の本業は魔法使いだ。本の知識は豊富だが推理力などない。王国から絶対的な証拠がないと何も出来ないから、情報収集して、犯人候補を泳がせたり、自らが囮になって証拠を見つけ次第叩く。それが私のやり方だ」

「な……」

 ワズはヨルカに失望したのか、唖然としたのか、無言で下を向いた。

「さて、これであいつらを叩ける。コルト杖を取ってくれ」

「はい。よいしょ」

 コルトは靴と靴下を脱ぎ、ヨルカのローブに足を突っ込んだ。

「コルト、もっと優しく、ん……んぁ……」

 コルトと生足がヨルカの胸や脇をモゾモゾとうごめき、ヨルカは小声で喘いだ。

「ヨルカ様、取れました」

 コルトが足の指で器用に杖をつかみ、すくいあげた。

「……よし」

 コルトはヨルカの足元に杖を置くと、今度はヨルカが靴を脱ぎ、足の指で杖を持った。

 縛られた体でズルズルと向きを変え、杖をコルトに向けると魔法陣が現れた。

「変異系魔法第三術式、『獣化テージ・オブ・ビスト』」

「く……あぁ……」

 杖から出た赤い光がコルトに当たると、コルトはまるで発情したかのように頬を赤らめ、無意識に声を上げた。

 すると変化が始まった。

 耳が大きく丸く、前歯が大きく目立つようになり、鼻の横から白い長いヒゲが生えた。

 そして体がどんどん小さく、メイド服がブカブカになっていく。最終的にはコルトの姿が見えなくなり、そこにはコルトのメイド服が散らかしてあった。

 メイド服の中心が盛り上がっていて、モゾモゾと動いている。

 そして服の穴から姿を現したのは、一匹の金色のネズミ。コルトはネズミになったのだ。

「チチチ……」

 ネズミになったコルトはヨルカに近づき、ヨルカを縛った縄をガリガリと歯で削っている。

 しばらくすると、腕の縄が切れた。

 そして次に足の縄を削り始めた。

 ヨルカが終わると、同じようにワズの縄を切って全員の縄がほどけた。

 その後、コルトはメイド服に潜り、ヨルカの『原点回帰オリジ・レグス』でコルトを元に戻した。

「コルト~これ~」

「ありがとう」

 オーレスが窓から投げたのは、二本の針金。

 コルトは針金を受け取り、それを駆使して錠前を開けようとしている。

「まさかバイドが……」

 ワズはまだ弟のバイドが犯人なことがショックで、頭を抱えて嘆いている。

「ワズ殿、大丈夫か?」

「いや、あまりにもショックで……まさか初めてのレフ王国でこんなことになるなんて……」

「ん?」

 ヨルカはワズの言葉に疑問に思った。

「ワズ殿、なのか?」

「はい……」

 ヨルカは考え出した。それはある人のある発言に疑問に思ったからだ。

「……ワズ殿、共犯者はもう一人いるかもしれない」

「え!? それは一体ーー」

「ヨルカ様、開きました」

 コルトが鍵を開け、ワズの言葉を遮った。

「オーレス、フランソワ達は?」

「オージスが見張ってるから案内するよ~」

「そうか……さて、我慢した分、罪人で鬱憤うっぷんを晴らそうか」

 牢屋から出るヨルカ達。

 その時のヨルカの顔は不気味な笑みを浮かべていた。







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