第3話
部屋で起きた殺人。
死んだ男性は年齢は三十代くらいで、高価な服を着ている。おそらく貴族なのだろう。
持っているのは花びらが半分ほど散っている紙に包まれた紫の花束。
花びらは死体を中心に部屋中に散らばっている。
窓は開けっ放しでそれ以外には廊下に続く入口しかない。
そして部屋の入口には複数の人々が死体を見ていた。
「君は誰なんだ! 突然現れて!」
「怪しい……殺したのは君達か?」
一人の男がヨルカ達に気がついた。
死体がある部屋で開けっ放しの窓にいる。怪しまれるのは当然のシチュエーションである。
しかしヨルカは動揺することはなく、堂々と挨拶をした。
「我が名はヨルカ・アムクルス。この城にいるウィルナの父親、ワズ殿に頼まれてここに来た。いきなり悲鳴が聞こえたので、失礼ながら邪魔させてもらっている」
「兄貴の? つまりあんたが『変人の魔法使い』なのか?」
鎧をつけた大男がヨルカに向かってそう言った。
「早速だが、この死体は誰なのかとか色々聞いてもよろしいかな?」
「待ちなさい! なぜあなたの指図を受けなくてはならないの!」
化粧の濃い若い女性がヨルカの意見に反対した。
「我々はその為に来たからなのと、我々がそれを解決出来るからだ。それとも、探られては困ることでも?」
「それは……」
ヨルカの強気で堂々とした態度に女性はたじろいだ。
「皆さん、彼女が出来ると言うのであれば、ここは協力して見ませんか?」
若い男性がヨルカに協力的で、周りの人々は若い男性の言葉により、渋々ながらも協力してくれるらしい。
「お待ちくださいブリスト様。今日はもう遅いので明日にしてもらった方がいいかもしれない。いかがですかな? 変人の魔法使い様」
「そうだな。この部屋をそのままにしてもらえればいい。我々もさすがに眠い。ふぁ……」
執事服の老人の言葉にヨルカは了承し、ヨルカが真夜中なのを思い出したかのように、睡魔に襲われ、あくびをした。
結局、調査などは明日にすることになった。
***
その後、ヨルカ達が城から出たと同時に遅めに来たワズ、ウィルナ親子が来た。
その近くにいた、協力を促してくれた若い男性が親子に近づき、ウィルナと抱き合った。
おそらくこの男が一目惚れしたという王子なのだろう。
親子は城に泊まることとなり、ヨルカとコルトは宿に泊まると言って、ワズ達と別れて門に戻った。
門番が居眠りしたのを確認すると、再びコルトはヨルカを抱き抱えて、ジャンプで門を越えて、城の外を出た。
外で馬になって待機しているオーレス、オージスは横になってぐっすり眠っている。
「さて」
ヨルカは杖を取り出し、双子に向かってかざした。
そして空間から今度は一つの魔法陣が現れた。
「変異系魔法第一術式『
杖から出る赤い光が双子に当たった。
すると、馬だった双子は、ゴキゴキと音を鳴らし、体がどんどん小さくなる。
体毛が引っ込み、長かった顔も短くなり、変化が終わった頃にはついていたハーネスがほどけ、双子は全裸の人間の姿に戻った。
変異系魔法『
ただし、生まれつき病気や、胎児の頃に呪いにかかったなどの場合、魔法は効かない。
「「スー……スー……」」
双子は鳥になって、さらに馬になって何百キロという移動距離に疲れて、地べたでも熟睡している。
「ほら二人とも、起きなさい」
だがコルトは容赦なく、寝ている所を起こした。
「「ん~……あ~ヨルカ様、コルト、おはよ~」」
双子はほぼ同時に起き、ほぼ同時に気の抜けた口調で挨拶した。
「はい、風邪引くからこれを着て」
「「は~い」」
コルトは二人に自分の屋敷で脱いだメイド服を双子に渡した。
双子は寝ぼけながらも、メイド服を着た。
「コルト~、今度は何やるの~?」
「暗殺~? 誘拐~? 盗み~?」
「二人とも、物騒なこと言わないの。さっき悲鳴が聞こえたでしょ。事件が発生したので、これから城を調査します」
「「は~い」」
コルト達は城の人間には調査などは明日にすると言ったが、油断をさせるために秘密裏に調査をすることにした。
「それではヨルカ様はお休みください」
「疲れてないのか?」
「ご安心を、オージスの上で仮眠はとりました。それに、夜の方が気分が上がりますので……」
コルトは笑顔で答えた。
なぜ夜の方が気分が上がるのか、それはヨルカ達しか知らない。
「それでは行ってきます」
「「行ってきま~す」」
コルトは双子を抱き抱え、再び門を飛び越えて、城に向かい、ヨルカは馬のない馬車の中で横になり、就寝した。
***
翌日、ヨルカは門番に門を開けてもらい、ちゃんと正式に門から入った。
門を抜けると城の執事に案内をされ、中に入った。
案内されたのは城の応接室。
そこにいたのはコルトとワズ、ウィルナ親子の他に四人。
ワズを「兄貴」と言った鎧の大男。
ヨルカに協力を促した若い男性。
化粧の濃い若い女性。
そして執事服の男性。
一番最初に口を開いたのはワズだ。
「あの……メイドさんから我々が集まるように言われたのですが……」
「ああ、実は調査は明日と言っていたが、あなた方と別れた後、このコルト達に極秘に調査させたのだ」
「はぁ!? 何なのあんた! 勝手に城に忍び込んだり、私達に内緒で城の中を勝手に調べたり! 少し勝手過ぎないかしら!」
女性はヨルカに向かって怒鳴りつけた。しかしその言葉は正論だった。
「たしかに、その件については謝罪する。しかしすぐに調べないといけないことがあったのだ」
ヨルカは頭を下げた。
「ヨルカ殿、すぐに調べないといけないとは?」
「コルト」
「はい」
コルトは入口付近にいるヨルカの後ろに移動して、話をした。
「皆様に質問があります。昨晩の悲鳴を聞いて死体があったのを知ったんですよね?」
コルトの質問に全員がお互いの顔を見て、全員首を縦に振った。
「実は昨晩、私は皆さんがいない間に死体に触れさせていただきました。そしたら死体がまだ暖かかったんです。つまり死体はあの悲鳴から死んで間もないということです」
「……それが何だっていうのよ」
「そこで私は仲間と共にまだ起きていたメイド、執事、見張りの騎士などに、悲鳴の聞く直前辺りの目撃情報を起きているうちに一人一人確認したり、寝室を覗いたりしました」
コルトの言葉にヨルカ以外の全員が無言ながらも引いている。
「その中でその時間目撃情報が一切なく、一人だった人。つまりここにいるあなた達が疑わしいということになります」
「「「「!?」」」」
ここにいる全員が驚いた顔をしながら、再びお互いの顔を見渡した。
「ちなみに悲鳴の直前、我々と一緒にいたワズさん。ウィルナさんは除外いたします」
「ほっ……」
ウィルナとワズは安心してほっと息をついた。
「コルト、昨晩の死体は誰かわかったか?」
「メイドに聞きました。レフ王国の伯爵で、数日後に開催するパーティーの指揮を執っていたらしいですが、裏では脅迫などをして金を巻き上げていると噂があります」
「そんなことまでわかるのか……」
若い男はコルトの情報収集能力に驚いた。
「それでは、これからあなた方四人、一人一人面談を行います」
コルトの仕切りにより、面談という名の軽い尋問が始まった。
ヨルカ、コルト、ワズ、ウィルナは別の部屋に移動し、お互いのプライベートのためにヨルカが一人ずつ話すことになった。
最初は鎧をつけた大男だ。
「それでは自己紹介を」
「レフ王国騎士、バイドだ。そこにいるワズの弟でウィルナの叔父だ」
「キーダ王国の出身なのに、なぜレフ王国の騎士に?」
「うちの領土ってレフ王国とくっついってるからどっちでもよかったんだけど、レフ王国は何も知らなかったし、まぁ好奇心ってやつだな」
バイドは気さくにヨルカの質問に答えた。
「悲鳴があった少し前、何をしていた?」
「ウィルナを探してたんだ。一応護衛ってことで一緒にいるんだから、大人しくしてほしいってんだよ」
「あはは……ごめんなさい叔父様」
ウィルナは苦笑いをしながら謝った。
「そんで庭に行こうとしたら、悲鳴が聞こえて、あの部屋に行ってあれだよ」
「なるほど……」
次は化粧の濃い若い女性。
足を組みながら、不機嫌そうな顔でヨルカと向かいあっている。
「フランソワ・フォン・アルス……ブリスト王子の許嫁候補よ」
「悲鳴があった少し前、どこに?」
「ずっと部屋にいたわ。私、あの伯爵の部屋が隣だったのよ。突然大きな音が聞こえて、行ってみたら、鍵が開いてたから入ってみたら死体があって叫んだのよ」
「つまりあの悲鳴はあなたで、一番初めにに死体を見つけたと?」
「ええ……」
「話は変わるが、他の候補があなたを除いて全員死んだようだが……」
「何よ! 私がしたって言うの!?」
フランソワはイスから立ち上がった。
「いい! 私だっていつ誰かが殺しに来るかって気が気でないのよ! それに加えて昨日のあの死体! 玉の輿のために我慢してるけど、そうでなければとっくに逃げてるわよ!」
フランソワは言いたいことを言い終わると、座って頭を抱えた。
次に執事服の老人。
「バドと申します。この城でブリスト王子専属の執事をしております」
「悲鳴があった少し前は何を?」
「ブリスト様が眠れないとのことなので、リラックス効果があるお茶の用意をしに調理場におりました。お恥ずかしながら、年を取っているせいか耳が遠くて、たまたまバイド様が通りかかった時に気づきました」
「ほう……」
最後に若い男性。
「ブリスト・ウェイガ・サウラス。レフ王国第一王子だ」
「悲鳴があった少し前はどこに?」
「バドにお茶を作ってもらった後は、部屋で外の景色を見ていた。それからは悲鳴を聞いてここに……」
「なるほど……話は変わるがずいぶん大変なのだな。許嫁候補かたくさんいて選ばなくてはならないと思えば、その候補が次々と死んでしまって」
「ああ……
ブリスト王子は母親の王妃の愚痴、ウィルナの惚気で結構長話になった。
惚気を言った時、ウィルナとブリスト王子はお互い顔を赤らめた。
こうして個人面談が終わった。
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