第15話 洋食レストランで器を持ち上げるのはNGなんだね

 撃った弾丸は、まるで目的地が分かるかのように、軌道を描くように曲がり、召喚術師の足元に的中しました。

 まるでホーミング式の弾丸みたいでした。

 そんなのがあったらシモ・ヘイへ製造機の誕生です。

「!」

 撃たれた召喚術師は身体を崩し、全身が動かなくなりました。

 それと同時に、周りにいた騎士達もすぅ、と姿を消し、残りは召喚術師のみとなりました。

 どうやら召喚術師がダメージを受けると、そのダメージ量に比例して、召喚された者の姿も薄くなるようです。

 あれ?そしたらこの人、今死んでるってことですか?

「今だよ!」

「3人共大丈夫ですか!?」

「う、うん、大丈夫」

「千冬さん、怖かったですよぉ」

 フィリアさんはよっぽど怖かったのか、僕を抱きしめて離しません。

「よ、よしよし、怖かったですね」

 僕が幼い子供を宥めるように背中を擦ったあと、僕は召喚術師の方を見ました。

 ホントに死んでないですか?

「死ぬことはないわ」

「え?なんで?」

「肉だけを撃ち抜いたもの、ただ意識が無いだけ」

 ダメージ量ではなく、意識の有無でした。

「それでは、この人はどうしましょう?」

 アストさんが質問していますが、それよりも気になるのが。

「ところでこの人、どこから来たんだろ?」

 この召喚術師の正体でした。

「確かに、単身で乗り込んでくる辺り、相当な魔術の使い手だと思うけど」

「そういえば、召喚術師の羽織っているローブに、何かの絵みたいなのがあったんだよね」

「絵?」

「うん、ほらここ」

 僕は召喚術師の羽織っているローブの胸のあたりを指さしました。

「これは、紋章?」

「どこかの国の国章なのかな?」

「アストは何か知ってる?」

 アフロさんが聞いてきましたが、アストさんは首を横に振って。

「いえ、この世界の国の数が多すぎて、どこの国の国章なのか把握できていないので」

 何千年も生きていると言った割にはどこかポンコツな要素がある気がします。

「しょうがない、一度神器回収の報告と一緒に引き渡しておこうか」

「それが良いと思うよ」

 とりあえずはエカチェリーナ2世に任せておけばいいかな?

「それじゃあそろそろ帰ろう、帰って報告して引き渡して寝よう」

 ぐっすり眠るためにも、僕達は素早く行動して、町に帰ってきました。

 馬車に乗る時に、千秋お姉ちゃんに隣に座るよう迫ってきたけど、何だったんだろ?

 そして只今私達の家に帰ってきています、時計は、もうすぐ12時になりますね。

「ふぅ、やっとこさ戻ってたけど、千冬は来る?」

「来るって、どこに?」

「決まってるじゃない、報告しに行くか、明日にするか」

「じゃあ、千秋お姉ちゃんが行くなら行くし、行かないなら行かない」

「そう、じゃあフィリアさんとアイリスさんは?」

「行きますよ、ね、アイリス」

「そうだな、報告は早めに終わらせて、早めに帰るとするか」

「それでは私もご一緒に」

 アストさんも賛成しかけたところで。

「アストさん、貴方はギルドマスターの他に、どのような役職に就いているのかお忘れですか?」

 怖い笑顔のエミリーさんが、アストさんの後ろにいました。

「え、えぇと、神さま?」

「受付嬢でしょ!昨日と今日の分の仕事が溜まってんの!早く行くよ」

「ふぇぇん、助けてください千冬君ー!」

「え、えっと、僕はその、報告に行かなきゃなので」

「いじわるー!」

 この言葉を最後に、アストさんはエミリーさんに連れていかれました。

 ちょっとかわいそうだったなぁ。

 因果応報な気もするけど。

「まぁ、今日行くとしてさ、皆」

「どうしたの?千冬君?」

「お腹空いてない?」

 僕の一言と同時に、僕達5人のお腹が鳴りました。


 お昼ご飯を食べ、僕達は再びゲルマニー帝国を訪れました。

 アフロさんはお留守番するそうです。

 今度はワープを使って、すぐ着きました。

 4人パーティ、なんだかド〇クエみたいです。

 いえ、実際は召喚術師を引きずってきているので、5人パーティでしょうか?

「アイリス姫とフィリア姫、よくぞお帰りになられました!」

「アイリス姫とフィリア姫のお帰りだ!門を開けろ!」

 門の前にいる兵士の1人が僕達の方に駆け付け、もう1人が門を開けるよう促しました。

 そうして中に入ると。

「お帰りなさいませ、姫、千秋様と千冬様もご一緒ですね」

 アヤカさんが迎えてくれました。

「はい、神器の回収と、道中で見つけた召喚術師について、お母様に話しておきたいんです」

「御意」

 そうして僕と千秋お姉ちゃんは、談話室に通されました。

 フィリアさんとアイリスさんは、私室でおめかししてるとのこと。

 上座に座っていると、エカチェリーナ2世が談話室に入ってきて。

「ごきげんよう」

 と言われ、僕達は下座に座りなおそうとしましたが。

「あら、良いのですよ、上座にお座りになられても」

 と言われてしまったので、僕達はそのまま座り込みました。

 女王様を下座に着かせるのは失礼かもしれませんが、エカチェリーナ2世が言ってきた事なので、従うしかありません。

「フィリアとアイリスがいないけど、話を進めてしまいましょう」

「は、はい」

「千冬さん、そう畏まらなくてもいいですのに」

 続きの1言が僕と千秋お姉ちゃんの度肝を抜くことになりました。

「私達、親子なんですから」

「「え!?」」

 いや、え?

 エカチェリーナ2世が…お母さん?

「ち、千冬、どういう事?」

「し、知らないよ、確かお父さんは生まれてすぐ死んじゃったけど、お母さんは生きていたはずだよ、え!?お、お母さん、なの?」

「そうですよ、抱き着いてもいいんですよ」

 そうして、両腕を広げましたが、あまりの出来事に身動き1つ取れません。

「来ないのですか?お母さん寂しいです」

「まず、順を追って説明してくれませんか?」

「敬語はやめても良いですのに、それでは説明しますね」

 説明されて分かったのは、僕が生まれてからすぐ死んで、この世界に転生したこと。

 僕の言うお母さんは、遺言として雇われた家政婦のお姉さんであること。

 家政婦のお姉さんは、お味噌汁が上手く作れないこと。

 チート能力として、美と不老の力を得たこと。

 お父さんは騎士になってみたいと言っていたので、チートクラスの武具をもらったこと。

 でも戦果を挙げすぎたせいで、英雄視されるどころか王様に押し上げられたこと。

 お父さんが王様になったので、お母さんはその妻として王妃になったこと。

 そこで2人の娘を授かって、大切に育てていたこと。

 その2人の娘が、フィリアさんとアイリスさんであるということ。

 しかし事件は起きて、その起きたのがクーデターであるということ。

 クーデターは深夜に起きて、その時お父さんは寝ていたみたいで成す術が無かったこと。

 それで昨日、僕達がリーダーを殺して事件は終わったこと。

 でも同じ人が2度王様になることはできないので、お母さんが王様になったこと。

 お父さんは大臣と騎士団長の2足の草鞋を履いていること。

 おかげで剣よりペンを握っている時間の方が長いこと。

 そして今に至ること。

「という事です」

「そうですか、ところで」

 僕は素朴な疑問を投げかけました。

「なんでエカチェリーナ2世と名乗っているのですか?」

「あぁ、それですか、特に深い意味はありません、女性の王様ということで、前世の女性の王様の名前を名乗らせてもらっているだけですよ」

「そうですか」

「そうですよ、それはそうとして」

 僕はお母さんを見て気づきました。

 説明している時もそうでしたが。

「私に抱き着いてこないのですか?」

 両腕を広げたまんまでした。

「きませんよ、お母さんがそうしたいならしますけど」

「それじゃあおいでー」

 僕は席を離れ、お母さんの元へ行くなり、いきなり抱き着かれて、お母さんの膝の上に座らされました。

 いい歳して何してんだろ?僕。

「千冬、懐かしい、この暖かさ、変わらないなぁ」

「そういえばお母さん」

「なぁに?」

「お母さんの下の名前ってなんですか?」

「もう前のことだから憶えてないもんね、私は雪代冬華、お父さんは雪代冬弥、私達は冬が付くから、千冬にも付けてあげたの」

「そうなんだ」

 お母さんとの再会・雑談をしていると。

「エカチェリーナ2世、フィリア姫とアイリス姫のお着替えが終わりました」

 アヤカさんが入ってきました。

「ありがとうアヤカ、二人共、入ってきなさい」

 お母さんの合図によって、二人が入ってきました。

 その姿は朝に行われた戴冠式と同じ姿ですが、改めて目の前で見てみると、他者を寄せつけないオーラが見えたような気がします。

「座りなさい」

 はいと答えた二人は、下座である椅子に腰を下ろしました。

「お母様、今回は」

「神器の件でしょう?千冬から聞いていますよ」

「千冬?お母様、千冬さんを何故いきなり呼び捨てに?」

「何故って、それは家族だからですよ」

「「え?!」」

 この様子だと、どうやら事実を知っていたのはお母さんだけのようです。

「お母様、どういうことですか!?」

「お母様が…不倫?」

「不倫とは違います」

「お母さん、説明してあげて」

 一通り説明して、二人は納得したようです。

「ということは、私達は千冬さんの妹、ということになりますね」

「身長から見たら、僕より二人の方がお姉ちゃんですけど」

 どうやったら背が伸びるんでしょうか?

「それではそろそろ、本題に入りませんか?」

 お母さんに話を止められ、いよいよ本題に入ります。

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