第14話 昔のドイツの騎士達は、自分達が履いていたブーツにビールを注いで飲んでいたらしいね

「な!」

「もしかして!」

 後ろを振り返ると、そこには大勢の騎士団が出口を塞いでいました。

「フッフッフ、ここまでの冒険、ご苦労だったな」

 周りには鎧を身に着けた騎士と、その真ん中には兜を外した男が1人、堂々と立っていました。

「後をつけてきたか」

「でもどうやって」

「そんなこと考えている暇はないわ!あんたは隠れてて」

 僕は千秋お姉ちゃんに言われた通りに、エミリーさんの後ろに隠れていますが、千秋お姉ちゃんは違いました。

「何をゴチャゴチャ言っている!さっさと神器を渡せ!」

「あなた達に渡す物なんてなに1つ無いわ!」

 堂々と前に出て行ったのです。

「あ、危ないよ!」

「大丈夫ですよ、彼女を何者だと思っているんですか?」

「でも…」

「各員、構え!」

 真ん中の男の合図と同時に、騎士団は弓を構えました。

「ねぇ、皆、台座に隠れてくれる?」

「はい、分かりました」

 千秋お姉ちゃんの言葉に、僕達4人は台座に裏に隠れましたが、千秋お姉ちゃん、何するんだろ?

「打て!」

 その言葉を聞いて、僕は台座から飛び出そうとしました、しかし、アストさんが僕の手を掴み引っ張ったと同時に、強風が吹き荒れました。

「な!」

「私はね、風を操れるの、だからこんなこともできちゃう」

 千秋お姉ちゃんの周りを囲うように竜巻ができており、いや、厳密には千秋お姉ちゃんの周りに風が起き、その風はまるでボールを形作るように吹いていました。

 騎士達は、自分の身体を守る事しかできていません。

「そっか」

「え?そっかって、どういうこと?」

「千秋お姉ちゃんは、触れたものを操る程度の能力を持っているんです、身体に触れた空気を操って竜巻を起こしたんですよ」

「しかも打った矢の軌道が180度変わるほどって、あれ、どんだけ強い力で吹いてんの…?」

 そして、竜巻が消えた後、騎士たちは全員いなくなっていました。

 それも兜の1つも無く、剣の1本も無く、まるでさっきまで幻を見ていたかのようにいなくなっていました。

「き、消え、た?」

「待って千冬、何か可笑しい」

「お、可笑しいって、どういうこと?」

「いいから!早く!」

 千秋お姉ちゃんはデザートイーグルをポケットに、スナイパーライフルを左手に持って、残った右手で僕の手を引っ張っていき、迷路を抜けていきました。

 僕はエミリーさんの、エミリーさんはアストさんの、アストさんはアフロさんの手を握っていたので、千秋お姉ちゃんは僕達全員を引っ張っていくことになります。

 スナイパーライフルって5kgぐらいするんですよね、それで4人を引っ張っていくなんて、千秋お姉ちゃんって結構力持ちなんだね。

 まぁ、前から知っていたけど。

 前にベンチプレス用の150㎏バーベルを片手で持ち上げてたなぁ、それも軽々と。

 もしかしたら、千秋お姉ちゃんも力士をデコピン1発で月まで飛ばせるかも。

「ねぇ、千秋お姉ちゃん!まだ状況が呑み込めないんだけど」

「千冬、この部屋の仕掛け憶えてる?」

「えっと、確か壁に扮した隠し通路があって、それを通ってきたんだよね」

「そう」

「でもそれがどうかしたの?」

「この迷路はゴールに辿り着くのに必要な仕掛けしかないの、つまり私達が通った隠し通路と、回転する部屋だけ」

「そうだよ?」

「じゃあ、騎士達はどこから来た?」

「!?」

 この言葉を聞き、僕は戦慄しました。

 確かにそうです、最初の回転する部屋の隠し通路は、外側の壁と内側の壁に1つずつ、他の人が入るための隠し通路は無い。

「そう、そして今、私達が隠し通路を再び通って外へ出ようとしている、隠し通路が使えるということは、騎士達奴等は人間じゃない以前に生命体でもない」

「じゃ、じゃあ騎士達はお化けって事?」

「いや、そうじゃない、足はちゃんと見えていた、生命体ではなく、尚且つ幽霊でもない」

「そんなのって、あ!」

 思い出しました。

 フィリアさんの部屋にて、魔法とは何かを教わった時です。

 召喚魔法について、こんなことを話していました。

『召喚魔法で召喚するものは沢山あるわ、猛獣や戦士、武器や防具とか』

『その者の名前と姿をイメージして、イメージしたものが出てくるまでイメージするだけなの』

「召喚魔法!」

「やっぱり、こっちの世界にもそういう概念があったのね」

「召喚魔法で召喚されたって事は」

「近くに召喚術師がいる」

「あ!もしかしたら!」

「神殿の入り口で待っている3人の身が危ない!」

「だったら急ぎましょう!」

「だから急いでいるんでしょうが!」

 隠し通路を抜け、回転していない部屋に出た僕達は一目散に走りました。

 通った道をすり抜け、階段を2段、3段と飛ばして上って行き、ようやく神殿の1階に出ました。

 アフロさんは持ち前の戦闘能力…というより身体能力を使い、階段の角度に合わせるように床を蹴り飛ばしたので、僕達よりももっと先に出ました。

 そうして外に出てみると。

「皆さん、助けてください」

「私としたことが、不覚だ…」

 フィリアさんとアイリスさん、そして御者の人まで手足を縄で括られ、地面に座らされていました。

 その周りにさっき見た騎士達がいましたが、それよりも注目するのは黒いローブを纏った人です。

 さっきまでいなかった人、恐らくこの人が周りの騎士達を召喚し、操っているんでしょう。

 ローブに何か絵のようなものが、多分国章だと思います。

「やっぱりこうなっていましたか」

 アストさんの悔しがっている顔、それを見た時、ローブを着た人が話しかけてきました。

「こんにちは皆様、そしてお疲れさまでした、それではあなた達の冒険の幕を引かせていただきます」

「あんたが騎士達を召喚し、使役していたのか」

「そうです、私はとても非力な身、ですが召喚魔法は大の得意なのですよ」

「人質を取るなんて卑怯だぞ!」

「卑怯で構いません、要は勝てばいいのです、勝つためだったらどんな手段でも使いますよ、私は」

「くっ、なんて汚いやつなんだ」

 5人対十数人、おまけに人質まで取られていて、これじゃ手出しができません。

 と私は思ったのですが、千秋お姉ちゃんは違いました。

 むしろ何か楽しみがあるような目をしています。

 ま、まさかここにいる騎士達のピーをピーして、更にピーした後でピー、ピーの上でピーするんじゃないよね?

 こ、これはとてもナレーションできないです、聞いただけで悍ましいです。

「千冬、なに恐怖そのものに取り憑かれたような顔をしてるの?私の顔に何かついてる?」

「う、ううん、ナニモツイテナイヨ」

「なにがついてんの?!」

「いや、ホントに何もついてないからね」

「そうなの?アストさん」

「えぇ、なにもついてませんが」

「そ、そう、ならいいけど」

(そういえば今更ですけど、千秋さんと千冬君がメインになって、私達が話す回数が少ないですね、このまま存在ごと無くなっちゃうのでしょうか?)

 誰かが自身の存在を心配しているような気がするけど、今はそんなことを考えている暇はありません、何とか打開策を考えなくては。

「戯言の言い争いは終わりましたか?それではそろそろ神器を渡していただけませんかね?待たされているこっちの身にもなってもらいたいものです」

 敬語ながらなんてイラつくような言い方なのでしょうか、でもこういう悪役キャラって、大抵大したことないよね。

 しかし今はそんな苛立ちよりも。

「それじゃあ、やろうかな?」

 千秋お姉ちゃんへの恐怖心が勝っていました。

 千秋お姉ちゃんのやるの一言は、まさかさっきの事じゃないよね?そんなことが起きたら直視することもできません。

「千秋お姉ちゃん、できるだけ血肉を飛び出させないでね?」

「しないわよ?私、そこまでサイコパスじゃないわよ」

「しないの?」

「しないに決まってるでしょ、何を想像してんのよ」

「ううん、なんでもない」

 ふ、ふぅ、とりあえず僕の想像した事にはならずに済むようです。

 でも、なにするんだろ?

「ちょっとこれの試し打ち」

 それは、スナイパーライフルのM2010だよね?

「この銃に入っている弾丸の性能を試してみたくてね」

「でも、狙いはどうするの?騎士団に当てようものなら一斉に襲い掛かってくると思うけど」

「チッチッチッ、分かってないなぁ千冬は」

「え?」

「騎士団は召喚された身だよ?だから騎士達にはご主人様がいるわけだよ」

「ご主人?あぁ、召喚した人の事ね」

「そうそう、だからそいつを無力化すれば」

「騎士達はいなくなるってわけだね」

「そゆこと、さぁて、それじゃあそろそろ試し打ちといきますか、異世界のライ・ウイスキーと呼ばれたい私の実力、とくと味わうがいい!」

 呼ばれたい(呼ばれている訳ではない)。

「千秋お姉ちゃん、この召喚術師から吐かせるもの全部吐かせなきゃいけないから、できるだけ穏便にね」

「分かってる、目標、前方、正体不明の召喚術師」

 この言葉と同時に。

「騎士の皆さん、私の盾となりなさい」

 人質3人の後ろに騎士達が盾を持って並び、そしてそのまた後ろに召喚術師が隠れました。

(この世界は、医学はあまり進んでいないと思うから、多分人間の身体の事も良く知らないと思う、狙うのは臓器がある上半身ではなく足や太ももといった下半身、血管も神経も傷つけず肉だけを撃ち抜く、神経も血管も通っていない所、そこ!)

 そして千秋お姉ちゃんは、引き金を引きました。

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