第13話 中世の時代で最も銃を保有していた国は日本なんだね
少し前、語り部の椅子をこっそり拝借して私、千秋がお送りします。
どのくらい前なのか具体的に言うと、円形迷路に入った直後です、アストさんが先頭に立って、迷路を進んで行くところからです。
千冬は、どちらかと言うとアホの子のサイドに入る部類なので。
何も出てこないって理由で迷路の状況なんかなにも話していないと思います。
「それでは行きましょう」
アストさんが先頭に立って進んで行きました、私達もそれに続き、私と千冬がすぐ後ろにつき、そのまた後ろにアフロさんとエミリーさんが並んで進んでいます、アストさんを盾にしているようで申し訳ない気がする(自分から買って出たけど)けど仕方ないですね。
迷路は最初から左右分かれていたの、入口から見て右から進み始めるけど、もし左が正解だったら骨折り損のくたびれ儲けという言葉が一番ぴったりくることになるけど。
「しかし、広さがどのくらいか、どのくらい複雑かをあらかじめ知っておかないと、左手式って危ないやり方だと思うんだよね」
千冬、自分から提案してそれは無いでしょ。
「確かに曲率は低いけど、道幅は広い、高校生2人が並んで歩いているんだから、層はそんなに多くないはず」
さしずめ、この迷路のゴールを中心に円を描いた時の、円周上にある部屋がこの部屋を含めてあと6つといったところね、と、ここで初めて行き止まりに当たったみたい、ここから引き返して更に深い所に入っていくわけね。
「それでは引き返します」
アストさんがそう言うと、私達はさっき言った列順を守って歩き始めました。
心なしかアストさんの背中が大きく、とても頼れる神様のよう。
千冬は頼れるんじゃなくて信頼できる、ね。
壁からでも次の部屋の入り口が見え、そんなに苦労しないで済んだね。
「ここから次の層に入っていきますよ」
ここで2部屋め、入ってすぐ曲がった先には壁、圧倒的壁、まな板なんて言ったらアストさんにリンチどころかミンチにされるね。
今日の晩御飯が決まっちゃうね。
「引き返しましょう」
と、アストさんが振り返り、少しの距離を進んで行きました、アストさんが当てている手は内側の壁にあるので、また次の部屋に入っていくことになるね。
3部屋め、またまた右に少し進むと壁に当たるよ。
私が疑問に思い始めたのはこの辺りからなの。
左手式を使う時、ある壁から進んで、次のある壁に当たる時、当たる前に部屋と部屋の境目を通るけど。
なんか、その境目から見て、お互いの壁までの距離が同じに見えるのは気のせい?
いや、内側の方が曲率が大きいから、厳密に言うと外側の方が少し長いけど。
なんか引っかかるなぁ。
それを頭の片隅に抑えつつ、アストさんについて来たけど、もしかしたらこっちが正解の√だったのかもしれない。
1、4、9、16、25、36と平方数を出していったけど、ここではそんなに意味はない。
中3の数学を少し触れた事はきっぱり忘れて、迷路に集中。
4部屋め、やっぱりさっきぶつかった壁と今ぶつかった壁までの距離がほとんど同じ、やっぱりここになにかある。
正確には、壁の向こう側だけど。
そして次、5部屋めに行きつくわけ、わかった?
アホの千冬は後でたっぷり可愛がってあげます。
恥ずかしいと思ってもやめない、新境地が開拓されるかもしれないお仕置きを用意します。
それでは私はこの辺で。
さいならー。
あ、あったあった、語り部の椅子。
さっきまで見当たらなかったのに。
どこ行ってたんだろ?
「それで、千秋お姉ちゃん、なにか分かったの?」
「まず千冬、なにか球体上の物って持ってない?」
「無いけど、アストさんは宝玉を携帯していたはずだよ?」
「そっか、アストさん、お願いがあるんですけど」
「分かっていますよ、はい」
アストさんから渡された宝玉を、千秋お姉ちゃんは床に置きました。
するとその宝玉は、しばらくしても揺れたままなのです。
「どういうこと?」
「つまり、この層はゆっくりと回転してるのよ、多分部屋と部屋の境目の壁が2重になって、この仕掛けを、外側の部屋から気づかせないようにしていたのよ」
「でも、千秋お姉ちゃんはなんで分かったの?」
「この部屋に入った時、出入り口が閉められたでしょ?そんな仕掛けはこの部屋に入った時に初めて起きたから、これは扉ではないと確信したのよ」
「でも、それなら入口を凝らして見れば、いいと思うんだけど」
「この迷路の壁に、特徴ってある?」
僕は遠い目をしながら考えました、しばらく考えた上で、僕は結論を出しました。
「無い」
「さっきの質問の答えにどんだけ時間かけんのよ、30分ぐらいは使ったよ?」
「ごめんね、でも、ホントになんの特徴もないからって、回転していても気づかない事なんてあるのかな?」
「動いていないものを動いているように見せるトリックアートがあれば、駅ですれ違う電車みたいに、動いているものを動いていない様に見える事もあるらしいし、今回は後者なんでしょ」
「ん?でもさ、それだったらなんで回転しだしたのかな?僕達がこの部屋に来る前は回転してなかったよ?」
「多分、重さに反応する仕掛けなんじゃない?それか心臓の鼓動で反応する仕掛け、どちらにしろ、この迷路が創られた時にはもう、途轍もない文明技術を持っていたのは確かね」
「んで、僕達はどうすればいいの?」
「あれ?さっきまでの話で気づいたと思ったのに、こっち来て」
そうしてついて行った先には、さっきまで入口だった行き止まりでした。
「ここがどうしたの?」
「だから、この部屋は回転してんのよ、つまりは」
その先を言いかけた時、僕達の目の前にさっきいた部屋への道が現れました。
「ここで待っていれば、出口が出てくるってわけ」
と言った途端、その道は横扉が閉まるように一方の端から消えて無くなりました。
無くなる途中で、向こうの部屋の景色が動いていたので、どうやら千秋お姉ちゃんの推理は正しかったようです。
「す…」
この推理に僕は。
「凄い!」
純粋に感動しました。
「凄いよ千秋お姉ちゃん!探偵みたい!」
純粋に興奮していました。
していたんですが。
「あれ?でもさ、これって前の部屋に戻る方法だよね?」
「そうだね」
「だったらさ、どうすればゴールにたどり着くの?」
「ここだけ壁が無いって事は、帰宅用だけじゃなくて」
次の言葉を言うと同時に、今度は奥まで道が続いている空間がちらっと現れ、そのまますぐに消えてしまいました。
「隠し通路への入口でもあるの」
「……」
僕は驚きで、口をぽかんと開けていました。
「ちなみにさ、千秋お姉ちゃんはいつこの仕掛けに気が付いたの?」
「左手式を使っている時、部屋と部屋の境目から見て、ある壁と、その次に当たるある壁までの距離がどの部屋も殆ど一緒だったの、向こうに何かあるなぁと思ったけど、あんな通路が隠されていたとはねぇ」
「それでは、次にまたその入り口が現れたら、そこを通って、次に進みましょう」
僕達が少し待つと、また奥まで続く道が現れたので、僕達は一旦、その通路を進み、5部屋めを離れてから後ろを振り返ると、さっきまで回転していた5部屋めの景色が見えました。
つまりはあの部屋の回転が止まったという事ですね。
そうして通路を進むと、今度は右に折り返すようです、長いなぁ。
右に折り返した時、また奥へ景色が見えました。
しかし。
「ねぇ、千秋お姉ちゃん」
「分かってる」
どうやら迷路には、まだ続きがあったようです。
多分ここが最後だと思いますが、今度の空間もなにも無く、またしても道が塞がれました。
「でも、多分ここを抜けるとゴールの可能性大ね、何としても解かなきゃ」
「でもどうするの?さっき通った抜け道らしいところもないし、かと言って他の仕掛けなんてありそうにないし」
「今度はここで待ってみませんか?」
「うーん、進展はないと思うけど、そうしよっか」
アストさんの提案でここで待つことにしましたが、案の定出てきた通路は、さっき通った通路で、今度こそ八方塞がりだと思うけど…。
「一度奥まで進んでみない?」
「ここにいてもどうにもならなそうだし、そうね、一度進んでみましょう、結果は見えているけど」
奥まで進んだ結果、なにもありませんでした。
分かってましたけどね。
「どうすんの?ここまで来てなにも無いって事は、そろそろネタ切れ?」
「ネタ切れ早すぎだよ、アフロさんのホームシックぐらい早いよ」
「神器は神殿の中にあるんだから、この先への道は必ずある、でも、それがどうやったら開くのか……」
「あ」
千秋お姉ちゃんがしゃがんで絶望していると、僕は見ちゃいました。
「なによ、あ、って」
「いや、一言言っていい?」
「いいから言いなさいよ」
「道見えちゃった」
「……は?」
「多分ゴールにつながっていると思う」
「どういうこと?」
「今度は外側に続く道ができてたの」
「それって、さっきまで私達が悩んでいた所に繋がるの?」
「うん」
「確認なんだけどさ、それって、さっきの仕掛けと全く同じパターン?」
「だと思うよ」
「まさかホントにネタ切れだったとは…」
技術は優れていても、創造性が欠けてたってことだね。
道ができていた所で少し待つと、僕の見間違いではなく、やっぱり道が出来ていました。
「千冬の言うとおりだ…」
「まぁ、また消えちゃったけど」
「それじゃあ次来たら渡ろうよ、多分、通路の所に変化があると思うよ」
エミリーさんの指示に従って、再度道が現れたので、外側に出ました、そうして、さっき通った通路を通り、折り返すと、少しだけ道が長くなっていました。
「見えてきたね」
「ん?奥に何か見えますよ」
「神器のフライクーゲルでしょ、早いとこ回収して報告しに行こ」
少し広い部屋に出ると、真ん中の台座には魔弾が。
……魔弾、が。
「いや、魔弾っていうか」
「マガジン、だよね」
「それと隣にあるのって」
「ハンドガンとスナイパーライフルだね」
「ハンドガンは、デザートイーグルだよね?」
「スナイパーライフルは?」
「M2010、米軍開発のスナイパーライフルね、そのマガジンが2つずつ、でも弾の形は少し違うみたいね」
その時、千秋お姉ちゃんとエミリーさんは、何故か僕達を押し倒しました。
「伏せて!」
「え、どうしたの?」
ビーンと、何かが震える音が聞こえ、顔を上げてみると、矢が壁に突き刺さっていました。
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