第16話 最後の晩餐のパンを巡ってキリスト教が1000年も言い争っていたんだね

「それじゃあまず、神器を回収したので、どうぞ」

 千秋お姉ちゃんが持っていたスナイパーライフルと、腰にしまっておいたハンドガンを机に置き、それをお母さんが持って確認しました。

「ふむ、少し変わった形状をしていますね、この弾丸」

 ハンドガンから取り出したマガジンを見て、そう言いました。

「こっちのマガジンは弾が1つ無くなっていますね」

「それは、この召喚術師に向けて撃ったものです」

 と、ソファの横にいる召喚術師を少し前に引っ張ってみんなに見せました。

「命に別状はありませんね?」

「足に撃ったけど無い筈だよ?神経も血管も傷つけてないし」

「では、今は気を失っているということですか、アヤカ、至急、医療班に彼の足から弾丸を摘出するように指示を」

「かしこまりました」

 アヤカさんは召喚術師を担ぎ上げると、そのまま部屋を後にしました。

「あ、そうだ!召喚術師の事で話がしたいから、あのローブが必要なんだった」

「ローブ?あのローブがどうかしたの?」

「あのローブの胸部に紋章の様な絵があったの、それについて何か知らないか聞きたかったの」

 時既に遅し、かと思いきやローブを持ったアヤカさんが帰ってきました。

「あら、どうしたの?」

「ローブが必要という声が聞こえましたので」

「そう、気が利くわね」

「それでは、失礼します」

 ローブをまるでランチョンマット、堂々と退室しました。

 そこには周りに葉っぱみたいなのがあって、上の方に斧が描かれている絵がありました。

「これは、フランセーズ共和国の国章ですね」

「フランセーズ共和国?」

「ここから西にある大国です、戦争には強いですが争いは好みません」

「前に何度か行ったことがあるけど、町並みとか料理とかが綺麗でしたね」

「びじゅつかんという所に行ってはみたが、個人的に美とは何なのだと考えさせられる所だったぞ」

 何なんでしょうね、美って。

「でもエスカルゴは食べなかったなぁ、蝸牛と聞いて体が受け付けなかったよ」

 おいしいと言われているんだけどなぁ。

 僕にも抵抗があるかも。

「でも争いは好まないのに、なんで襲ってきたんだろ?」

「恐らく、これを使って他国より優位に立ちたかったのではないのでしょうか?」

 あくまでも争いは嫌う、でも争いという枠から離れたら、支配という形にしたかったらそうするべきかもしれないよね。

「支配するには強力な武器を持つ必要があるからね、それを狙ったんじゃない?」

「今の時代、最も強力な武器はチート能力よりも神器です、神器は、チート能力を武器に具現化したもの、戦闘能力にとことん突き詰めたら、どんな武器でも敵いません」

「じゃあ今回で回収できたのは大きい成果なんだね」

「そういう事になりますね」

「それで、この神器はどうするんですか?」

「レーヴァテイン同様、地下に保管します」

 その方が安全な気がするので、僕達は納得して首を縦に振りました。

「じゃあ神器の件は片付いたとして、今度は召喚術師に関しての話だね」

 千秋お姉ちゃんが主題を切り替え、僕は椅子を座りなおしました。

「恐らくですが、召喚術師の出身もフランセーズ共和国と見て間違いなさそうですね」

「そうですね、多分このローブは国公認の魔法使いに渡される物でしょうし、王様の命令で動いたと言ってもいいと思いますよ」

「でもフィリアさん、もしかしたらそうでもないような気もします、例えばそこら辺の服屋さんで売っていたりとか」

 と言い終えると同時に、お母さんが反論してきました。

「いいえ、フィリアの言う通りです、前にフランセーズ共和国に行った際、王様と会ったのですが、その近くにこのローブを羽織った女性を見ました、王様は『あのローブが国公認の証だ』と言っていたので、フィリアの言うことが正しいと考えられますよ」

 完全に論破されました。

「それじゃあやっぱり、王様の命令で動いたのかな?」

「今の時代の王は天才的な軍師ばかりですからね、とても重要なだけに慎重になってしまいますから」

 ここで僕は、しょうもない疑問が浮かびました。

 この話をぶった切ってまですることではないと思うのですが。

「ねぇ、お母さん」

「なあに、千冬」

「この世界に転生者っているんだよね?」

「私達がそうですよ、何をおかしなことを言っているのですか?」

「つまり、転生者って複数いる訳ですよね?」

「んまぁ、そういう事になりますね」

「千冬兄さん、一体何を言いたいんです?」

 アイリスさんにお兄様、ちょっと照れますねじゃなくて。

「それじゃあ、転生者って全部で何人いるんだろ?」

 とてもしょうもない質問でした。

「そういえばそうね」

「今まで気にしたこと無かったですよ」

「地味な質問だけどとても重要な質問だよね」

「前に何人か現代的な服装をしていたので、沢山いてもおかしくないですよね」

「となると、ほかにも転生者がゴロゴロいるってことですね」

「しかし、その中で2つの人間に分かれますよね」

「2つの人間?」

「パーティを組んで大冒険に出掛けるか、最初の村でのんびり過ごすか」

「大体が大冒険に出掛けそうだよね」

「私達はごく少数の人間の内に含まれるよね」

「そりゃ、チート能力をもらったらその力をふるってみたいって思うよね」

 最初の頃の僕も、どちらかと言えばチート能力をふるってみたい側の人間だったなぁ。

「ですけど、転生者の数って把握しきれないですよね?」

 フィリアさんが正論を言ってきました、この言葉に返す言葉がございません。

「まぁ、確かに無いね」

 ありました。

 まいりました。


 ふぅ、千冬のはこれでいいか、千秋の分は…胸とか大丈夫なのか?まぁいいか。

 寸法しないで作るのが俺のやり方だ。


 カラリン


「いらっしゃい」

 扉のベルが鳴って入口を見た、そろそろ夕暮れ時で店閉めようかと思っていたけど、服装を見る限り転生者か?

 まぁ転生者でも、この店に来るのは千秋と千冬みたいな珍客ぐらいだけど。

「あの!」

 机をダン!と叩いて俺に顔を近づけて来た、ちょっとビビったのは誰にも言うなよ?

「な、なんだよ」

「あの、千冬って名前の子と千秋って名前の子、見ませんでしたか?!」

 千冬と千秋…どうしようか…思い当たる節しかない。

「客の個人情報に足は踏み入れない質なので、お答えできなねるね」

「お客さん!?千冬君がここを利用していたのですか!?」

「だから客の個人情報には…

「分かりました!ありがとうございます!」

 と言って、ダッシュで店を後にしてった。

 ……なんか面倒なことに巻き込まれそうな予感だ。

 にしてもあの客、千冬に何の用だ?

 わざわざ死んででも伝えるべきことなのか?

 しかしあの慌て方、少し妙だったな。

 まるで千冬がこの世界に転生したのが分かってたみたいじゃないか。

 もしかしてあの客………いや、考えすぎか。

 さてと、あともうちょいで完成だ。


 なんだか寒気がしました、なんででしょうか?

「そういえばお母さん、お父さんは?」

「お父さんは今この国にはいませんよ」

「え?それじゃあどこに?」

「そりゃあ」

 やっぱり出てくるのが。

「ジパングだよ?」

 僕の予想通りでした。

「ジパングジパングって、そんなにジパングってすごいとこなの?」

「技術が前世より圧倒的に高い訳ですし」

「そこにお母様の親戚がいるんです」

「へぇ、ちなみに苗字は?」

「安桜です」

「アサクラ…」

「アサクラ…」

「どうしましたか?」

「ねぇ、お母さん」

「それって…」

 ここで僕達は。

「「家政婦のあさ姉の事じゃないよね?」」

 またもや姉弟仲を発揮しました。

「家政婦の安桜さんの事ですよ?」

「「やっぱり……」」

 え?あれ?ていうか待って?

「ねえお母さん、安桜家ってこっちの世界の家族だよね?」

「そうですよ?」

「それじゃああさ姉は向こうの世界前世の人間じゃないって事?」

「そういう事です」

「ていうことは、あさ姉は転生者」

「ということです」

「こんな身近にいたなんて…」

「じゃああさ姉が葬式の時も、千冬がキリストになったのに対しても無表情だったのは、転生してたからってこと?」

「向こうでなにが起きているか分かりませんがそういうことです」

「じゃあ、あさ姉は何の能力を持っているの?」

「憧れのお姉さんである能力」

「へ?」

「へ?」

「憧れのお姉さんである能力」

「いや聞こえてない訳じゃ無いよ、何?憧れのお姉さんである能力?」

「どんな能力なの?」

「言葉通りの意味ですよ」

「いやだから説明してよ、確かに近所にいる人達から好かれていたけど、それも能力の1つって事?」

「いえ、彼女が人から好かれやすいのは元からですよ、そうではなく料理・洗濯・掃除とありとあらゆる事をこなせる能力です、千秋と千冬はテストが近くなると勉強を教えてもらったりしてませんでしたか?」

「してもらってた、確かに物凄く分かりやすかった、確かに憧れのお姉ちゃんって感じだった」

 と話していると。

「千冬くーん、千秋ちゃーん、どこにいるんですかー」

 僕達にとって聞き覚えしかない声が聞こえてきました。

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