第11話 悪魔が殺した人の数より、神様に殺された人の数の方が多いんだね

 紅茶にお砂糖を入れて1口、美味しいです。

「温かい」

「癒される」

 このお茶の茶葉はとても質が良いですね。

 産業化が行われていないので、綺麗な水で頂けるなんて、はぁ、最高です。

「千冬さん、千秋さん、話に戻っても良いですか?」

「あ、はい」

「先程はすいませんでした」

 紅茶に癒され、エカチェリーナ2世のお願いの続きを聞くことにしました。

「もう1つの武器の名は、フライクーゲル、この国の近くにある神殿に眠っています」

「フライクーゲル……」

「ドイツの神話に出てくる魔弾ね、射手の望む所に当たるけど、最後の1発は悪魔の望むところに当たる、伝説通りなら、その力を持つと思うけど」

「ズレているんだよね」

「そう、この世界はズレているの、何もかも、前世の常識が通用しない世界、て言っても、前世の常識が正しいと思ったことは1度も無いけど」

 千秋お姉ちゃんの闇が見えたような。

 気のせいかな?

 でもさ。

「でもさ、千秋お姉ちゃん」

「何?」

「多分だけど、フライクーゲルの力はズレてないと思うよ」

「なんで?」

「確かに人や出来事はズレていると思うけど、物はズレてないでしょ、その理由に、タブレットノートパソコンを使うアストさんの使い方に、違和感は無かったし」

「確かに、気になる使い方はしていなかったね、だったら千冬の言う通りなのかも」

 今度はコソコソで、ヒソヒソではなくコソコソで。

「もう1つの神器を回収してもらいたいのです、期日は3日後」

 3日後かぁ、どうする?千秋お姉ちゃん?

「別に難しいことじゃないと思うよ、場所は分かってる……ん?」

「ん?どうしたの?千秋お姉ちゃん?」

「いや、場所割れてるんでしょ?」

「そうだね?」

「ならなんで回収しないのかな?」

「え?」

「だって、よく考えてみてよ、もし場所が割れているんだったとしても、何かしらの理由で回収できないって言ったら、十中八九選ばれしものではないとか、勇者ではないとか、そういう某ロールプレイングゲームみたいな理由があると思うの」

「んまぁ、そんな感じの理由だと思うよ、うん」

「だったら他の転生者を呼べばいいのに、なんでそうしないの?」

「そっか、転生者は選ばれしものっていう扱いがほとんどだから、その転生者を向かわせればいいんだ」

「転生者の事は二人は知ってる、エカチェリーナ2世も知ってる、お父さんだけ知らないなんてこと無いでしょ?」

「秘密にしたところですぐバレそうだしね」

「ならもっと早くに他の転生者を向かせればいいのに、なんであえてそうせず、私達に頼むのかな?」

「なんでだろ?」

「んー、今は分からないけど、今の私達に敵う者なんて中々無いからね」

「そうだね、受けよっか」

 どうやらエカチェリーナ2世は耳が良いらしく。

「そうですか、それではお願いしますね」

 僕達のコソコソ話は丸聞こえでした。

「それでは、地図の記憶を与えます」

「地図の記憶?」

「私の記憶の中にある地図ですわ、それをお二人の記憶に埋め込みます」

 他人の記憶を入れられるとごちゃごちゃしそうだけど、仕方ないかなぁ。

「それでは行きます、メモリー」

 僕の記憶の中に入ってくる地図、見渡す限りの草原、大きな神殿、色々な景色が入ってくる中、記憶の中に地図が構成されていきます。

 ………いくのですが。

 えっと、なんですか、この地図。

 えーと、地図の真ん中からゲルマニー帝国が出てきて、その周り一帯が草原となり、地図の左上に森が出てきて、正反対の所には大きな湖が見えるんですけど。

 いや、地図自体は良いんですよ、良いんですけど。

 所々にエカチェリーナ2世の個人的なメッセージが書かれているんですよ。

 湖だったら、ここ綺麗ですよ、とか。

 森では狼に襲われました、とか。

 そしてなにより目的地が曖昧で、ここら辺にありますよ、と丸で囲ってあるだけ。

 千秋お姉ちゃんの頭の中にもおんなじ地図が浮かんできたようで。

「エカチェリーナ2世」

「なんでしょうか?」

 僕と千秋お姉ちゃんは目を合わせ、頷いた後、同時にこう答えました。

「「新品の紙の地図をください」」


 エカチェリーナ2世から地図をもらって、家に戻りました。

 アフロさんには向こうで起きたことを伝えておきました。

 フィリアさんとアイリスさんはギルドに行っているんですよね。

 なんででしょう?

 あれ?後なんで地図に書かれていた文字が読めたんだろ?

 こっちの言語で書かれていたはずなんだけど。

「それでどうするのアスト、そんなの怪しい臭いしかしないじゃん」

 女神様同士、アフロさんはアストさんのことを呼び捨てに。

 アストさんだったらアフロさんって呼ぶのかな?

「そうですけど、どうやら放置されている神器はそれ1つだけなので、神器を巡っての戦争も起こりかねません」

「でもさぁ、転生者に依頼するタイミングはもっとあったはずだよ、それなのにこのタイミングなんて、絶対に裏があるじゃん」

「落ち着いてくださいよアフロさん、怪しい臭いが立ち込めても、僕達はその依頼を受諾してしまったんですから」

「でもさ、他の転生者と私達って、何が違うんだろ?」

「へ?」

 千秋お姉ちゃんが妙な事を言っています。

「だってさ、他の転生者じゃなくて、わざわざ私達に頼むって事は、他の転生者と私達って違う所があるわけでしょ?」

「そうなのかな?」

「けどそうじゃないと、私達に頼む理由が見当たらないのよ、他の転生者に頼めば一発なのに」

「んー、でもあるのかなぁ?他の転生者との違いが」

「あるよ」

「え?」

「え?」

「え?」

 そこで口にしたのは意外にもアフロさんでした。

 話すなら僕のパソコンを使ってないで僕達の目を見て話してくださいよ。

「それで、違う所ってなんですか?」

「そうあっさり見つかる物なの?」

「見つかる物なの」

「ずばり、その違いは?」

 その違い、それは。

「私」

 アフロさんの存在そのものでした。

「あ、アフロさんが?」

「正確には私じゃなくて、神が転生してきたかどうか」

「なんでそれがこの件に関係してくるんですか?」

「それは分からない、神殿に行ってみないと確かなことは言えない」

「そうですか、ところで、行くとして、行くメンバーはどうするんですか?」

「んまぁ、女神2人もいるのに2人とも街から抜けるなんて洒落にならないからね」

「どちらか残る必要がありますね」

「もしかしてさ」

「ん?」

 千秋お姉ちゃんが何か気付いたようです。

「もしかして、何か大きな扉があって、それを開けるのには神の力が必要、とかじゃない?」

「神の力、ね」

「ん?千冬、何か不満げだけどどうしたの?」

「ん?いや、千秋お姉ちゃんの言うことに文句は無いよ、無いんだけどさ」

「無いけど、何?」

「千秋お姉ちゃんの言うことって、良い方でも悪い方でもよく当たるんだよね」

「だから?」

 千秋お姉ちゃんの怖い顔をしてきてます。

 千冬はすばやさどころか、全ステータスががくっと下がった。

「その推理は正しいと思います……」

 千秋お姉ちゃん、時々怖い顔するんですよね。

 威圧されて後半声ちっちゃくなっちゃいました。

 普段は優しいんですけど。

「そう、なら良いけど」

 そう言い終えると。

「ただいまー」

「ただいま戻りましたー」

 フィリアさんとアイリスさんが帰ってきました。

「おかえり、って、なんでエミリーさんまで来てんの?」

「神器って聞いて、ちょっと興味が湧いたの」

「でも神器のあるとこって、結構危険かもしれないよ」

「神器を巡って戦争が起きてもおかしくないって」

「大丈夫大丈夫、戦争って言っても、騎士団の争いだから、魔法には成す術無いんだよ」

「そうなんですか?」

「向こうが物理なら、こっちは魔法、こっちが数人でも、女神さま2人に転生者2人だから、安心して戦うことができるよ」

 エミリーさんも知っていたんですか、もしかしたら一般常識になっているんじゃないんですかね?

「でも、女神がこの町から離れるのは危険だと思うよ、確かに転生者は何人かいるだろうけど、流石に神に敵うわけではないでしょ」

「確かにそうだね」

 アフロさんの言葉は理に適っています、始まりの町でもあると思うので、町1番の戦闘能力を失うわけですし。

「それじゃあこうしよう」

 千秋お姉ちゃんの1言は、脳筋キャラが言いそうな事ではありましたが、とても戦術的には理に適っていました。

「もう考えても仕方ないから、今から行ってみようよ」

 千秋お姉ちゃんは、今日中に回収するつもりのようです。

「いいと思いますよ、ここで考えてもキリが無いですし」

「それじゃあ現地へ出発!」

 皆がおーと言うと、アフロさんとエミリーさんを除いた僕達は。

「ぐー」

 朝ごはんを食べていない事を思い出しました。


 朝ごはんを食べ、目的地の神殿の近くまで馬車で移動することにしました。

 その間僕は、がっつり寝ていました。

「千冬さん、寝ちゃいましたね」

「朝早く起きて、戴冠式を挟んだ後に朝ごはんを食べたからね」

「にしても気に食わないのがさ」

「なんで千冬があんたの膝に座って寝てるわけ?」

「いいじゃない、いいじゃない、眠りかけた時に、私の方に寄って来てたし」

「それにしてもさ」

「?」

「ジー」

「ジー」

「ジー」

「ジー」

「ジー」

「どうしたの?私の胸なんか見て」

「エミリーさん、何を食べるとそうなるんですか?」

「何って、何が?」

「そのけしからん胸!どうしてそんなに育つの!」

「え、えぇ、でもアストさん、成長に個人差はあるよ?」

「エミリーさんの場合ありすぎですよ!私達なんてエミリーさんに比べたらまな板ですよまた板!」

「でもそれを受け入れられるだけ一歩成長したと言ってもいいと思うけど」

「貴方の胸に比べたら私達の一歩進むなんて二歩も三歩も退くようなものですよ、自虐的な物なんですよ!」

「それじゃあ毎日豆乳飲も?私ほどじゃ無くてもある程度の成長は見込めるはずだよ?」

「皆さん!帰ったら豆乳早飲み対決です!異論は無いですね!」

「無い!」

「ある訳ありませんよ!」

「でもさ」

「エミリーさん引っ込んでて!」

「でもさ!千冬君は大きい方が好みかどうかは分からないよ?」

「え?」

「だから、千冬君、小さい方が好みかもしれないよ?」

「そうなんですか?千秋さん?」

「分からない、そういう事は聞いたことは無いの」

「あのー、すいません」

「なんですか貴方は!御者は御者なりに馬でもしばいていなさい!」

「いや、もう着いてます」

「は?いつから?」

「皆さんが胸の話をしだした時から」

「だったらさっさと言って!」

「言いましたよ、大きな声で言った結果こうなっているんですよ」

「もういい、さっさと降りて神器回収して御者の脳天にブチこんでやる」

「あの、自分なんか悪いことしました?口が悪くなっているんですけど」

「私達のイライラを溜め込んだのは誰だと思っているんですか?」

「いやあなた方でしょう、ただの八つ当たりですよ」

「ほら千冬、起きて、着いたよ」

「ん、んぁ」

「おはようございます、千冬さん」

 おはようございます、アストさん……あ。

「お」

「お?」

「おはようございます、お姉さま」

 僕の1言で、お姉さま以外の全員が驚いていました。

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