第10話 日本史に出てくる偉人達の中には何かと変態が多いらしいね
正装に着替えると、吹き抜けのあるホールの2階に案内され、1階には緑の絨毯、その上に何人もの人々がひしめき合っています。
アストさんは、1階に通されました、そこはかとなく思っていましたが、かなり身分が高いようです。
驚いた事に、僕と千秋お姉ちゃん以外にも、リクルートスーツを着ている人達が何人かいました。
戴冠式の名画がちょっとカオスな事になりそうです。
あれ?そういえばあの絵画ってナポレオンのやつでしたっけ。
確かそうですよね。
「あ、あの人、あの人がそうじゃない?」
「そうって?」
千秋お姉ちゃんが指を指す方には、1人の女性がいました。
「あ、もしかしてあの人が」
「多分、エカチェリーナ2世ね」
「綺麗な人だなぁ」
「ん?」
千秋お姉ちゃんが気になるところを見つけたようです。
「どうしたの?千秋お姉ちゃん」
「そういえばさ、私達が先代国王を殺ったのって、昨日よね」
「そうだね」
「にしては仕事が早すぎると思うのよ、よくよく考えてみれば」
………確かに。
仕事が早すぎるというか、絶対にそれだけが要因じゃないよね。
「それに、このホールにいる人間、一体どうやって集めたの?」
「この戴冠式自体、早すぎるのは準備するメイドさんが仕事出来すぎるタイプだけじゃないよね」
「高性能な上に働きすぎるってのは問題よね」
「羨ましい問題だけどね」
「それとさ、朝、アイリスさんがこんな事を言ってなかった?」
「え?」
「王族からのメールが届いたって」
「あ、そういえば」
「少なくとも、それくらい身分が高いのよ、あの2人も」
「確かにそういうことになるね」
「もしかしてなんだけ」
ど、と千秋お姉ちゃんが言いかけた時、戴冠式は始まりました。
「あ、始まったみたいだよ」
「じゃあ静かにしなくちゃだね」
王冠を持ってきたバトラーさんと、それを受け取る聖職者さん。
聖職者さんの持っている王冠を、エカチェリーナ2世の頭に乗せ。
それを隣で見守るフィリアさんとアイリスさ。
ちょっと待って。
流れでスルー出来ないしさせないよ。
なんで隣で見てるの?
おかしいでしょ。
「ち、千秋お姉ちゃん、あそこあそこ」
「え?何が?」
「あそこ見て、フィリアさん達いるよ」
「え?あ、ホント、エカチェリーナ2世の隣にいるね」
周りに迷惑が掛からないようにヒソヒソ声でしたが、それでも少し目立ちました。
ちょっと恥ずかしいです。
「にしても、エカチェリーナ2世の隣なんて、多分だけど」
「多分、何?」
「ねぇ、千冬、あの家に色々な国の物が集まっているものがあると思うの、何か心当たり無い?」
「心当たりって言われて……」
ありました。
1つだけ。
僕がフィリアさんと料理をしていた時。
食材を取りに地下室に入った時です。
色々な国の食材が、国ごとに分かれていたのを。
「あ、あった」
「何?」
「食べ物だよ、僕がお吸い物を作った日に地下室に入ったの、そしたら色々な種類の食べ物が国ごとに分かれていたの」
それと。
「フィリアさんが、各国の王様から良くもらうって言ってた」
「それだ!」
ヒソヒソ声だったのが、急に大声をあげた千秋お姉ちゃん、私達は注目を集めてしまいました。
「あ」
「あ、すいません」
それに気づいた私達は、静かに、テレパシーで感じ取ることにしました。
嘘です、出来る訳無いですそんな事。
だからやっぱりヒソヒソ声です。
「植民地や支配している国以外の貿易ってのは、互いの国の信頼があってこそ成り立っているのよ」
「確かに」
売れるかどうか分からないような所にわざわざ品物なんて運ばないし。
「つまり、貿易が盛んな国ほど他国の信頼も厚いの」
「そうだね」
「そうなれば、必然的に互いの国はもっと信頼を深めるために、交流を図ることもある」
「そりゃそうだ」
もしかしたら、強い武器を仕入れていても運んできてもらえないかもしれないし。
「だから、各国はその国の特産品を送ることがあるのよ」
「あぁ」
だから色々な国の食材が、フィリアさん達の家にあった訳なんだ。
「あの2人がエカチェリーナ2世の隣にいる、そして多種多様な食材、フィリアさんの一言、それから導き出せるのは」
「あの二人が、エカチェリーナ2世の娘であるということ」
「そういうこと、千冬も頑張れば答えを出せるじゃん」
「えへへ」
千秋お姉ちゃんに褒めてもらって有頂天になっていると、戴冠式は終わっていたようです。
「あれ、いつの間にか終わってた」
「え、早くない?」
「この会場に来ていた人達、十中八九いきなり連れてこられた人達だろうし、巻きでやってたんじゃない?」
そうかもね、にしても。
「にしても、気まずかったよね」
「気まずかったね」
途中で注目を集めちゃって、気まずかったです。
すると。
「あ、皆さん、戴冠式お疲れさまでした」
アストさんが二階に上がって、僕達の方へやってきました。
「あ、アストさん」
「ねぇ、一つ聞いてもいい?」
「なんでしょうか?」
「フィリアさんとアイリスさんって、何者なの?」
「フィリアさんとアイリスさんですか?お二人とも、ゾフィー・アウグスタ・フレデリーケ国王の娘さんですよ」
やっぱり、予想通り、予想を当てた時って、凄くスカッとします。
「千冬君、千秋ちゃん、戴冠式の時は静かにね」
「途中、結構目立ってたんだよ」
ごめんなさい、フィリアさん、アイリスさん。
「まぁ、元気な事は良いことではありませんか」
と、おっとりとした声と共にやってきたのは。
「あ、あなたは」
「え、エカチェリーナ2世」
「こんにちは、アイリスとフィリアがお世話になっています」
世話になっているのは僕達です。
「は、はい、初めまして、雪代千冬と言います」
「月姫千秋です」
「千冬さんに千秋さん、良いお名前ですね、ジパングでお生まれでしょう、ぜひお話をお聞きしたいです」
「あ、はぁ」
「こちらにテラスがありますの、そこでお話ししましょう」
「わ、分かりました」
そう言われ、僕達5人はエカチェリーナ2世の後をついていきました。
「千秋お姉ちゃん、エカチェリーナ2世ってあんな性格だったの?」
「いや、そこまでは分からない、多分この世界は、私が思うに、ズレてると思う」
「ズレてる?」
「今の現代技術があるのは、他の転生者の影響、そうなれば、技術進歩にも、分野によって偏りが出てくる、だから、目の前のエカチェリーナ2世も、性格はズレていると思う」
ズレてるのかぁ、じゃあ本来は違うのかな?
「着きましたよ、こちらです」
案内されたテラスからは、ゲルマニー帝国を一望でき、遠くを見ると、僕達が住んでいる町が見えました。
「お座りになって」
「あ、はい」
「失礼します」
「そんなに畏まらなくてもよろしいのですよ」
「い、いえ、そんな」
「アヤカ、お茶の準備を」
「畏まりました」
あ、あの人、玄関で出迎えてくれたバトラーさん、アヤカっていう名前なんだ。
「彼女もジパングの生まれなの、生まれた地方は違うと思うけれど」
気づいた時には、人数分の紅茶が目の前に、アヤカさん、シノビだったのかな?
そして、僕達を案内したのは、ただ単に珍しいからとかそんなのではなく、どうやらお願いがあるからのようです。
「さて、それでは事の本題に入りましょう、千冬さん、千秋さん、あなた方はどのような能力を持って、この世界にやってきたのでしょうか?」
娘が知っているなら、当然御両親にも知られている訳で。
「僕は、膨大な魔力ですね」
「私は、触れたものを自在に操る能力です」
「そうですか、では、お二人に依頼をしたいのですが」
「なんでしょうか?」
エカチェリーナ2世の目がキリっとした鋭い目に、あの目だけで何か切れそう。
「この世界には『神器』と、呼ばれているものがあります」
神器って言うと、白黒テレビ、冷蔵庫、洗濯機の事だよね。
(違うからね、そっちの神器じゃないからね、神話の方だからね)
最高神のおっちゃんにツッコミを入れられ、ようやく話の本題に入れます。
「神器は、この世界に数多の数だけあります、この国にも神器は1つ存在します」
「え、ちなみに、その名前は?」
「レーヴァテイン、今は城の地下に眠っています」
「それで、その神器をどうしろと?」
「集めてください、神器はその強大さ故、戦争のきっかけにもなることもあります、その危険な武器を集めてほしいのです」
「集めるにしても膨大な数でしょ、その神器って、集めきるより先に寿命が来ますよ」
「いえ、実はもう、この2つ以外は、ある国に集まっているのです」
「ある国って、どこですか?」
紅茶を1口すすって、真剣な目をしたエカチェリーナ2世はこう答えました。
「ジパングです」
今の時代のジパングは、前世で暮らしていた時より文明技術が進歩しすぎているのは確かでした。
「あの見た目だと、今頃、桃園天皇が即位して間もない頃の筈、世界中の神器を後2つまで集めきるなんて、そんな技術はその時代にはない、文明技術は前世と同等…いや、魔法と言う概念があるだけこっちの方が前世以上の技術を持っている、つくづくズレてるわね」
千秋お姉ちゃんに耳元で囁かれ、僕は反応に遅れました。
ちょっとピクッてした。
ていうか今更だけど、なんでマニアックな知識ばっかり知ってるの?
「……ねぇ、千秋お姉ちゃん」
「何?」
どうでもいいことだと思うんですけど、ちょっと気になったのが。
「あの人、フィリアさんとアイリスさんのお母さんなんだよね」
「そうね」
「その割には、見た目が若すぎると思うんだ」
「え?」
「フィリアさんとアイリスさんの身長って、僕達とあまり変わらないでしょ、僕達高校生だったから、それ相応に歳は取るはずだよ」
「あ、確かに」
「それにしてはなんか…20代…っていうか、まだ20歳にもなってないんじゃないかな?」
「エカチェリーナ2世の即位は33歳、そうだとしても、とても30代には見えない、なにか秘密があるの?」
「いや、それを僕に言われても……」
と、話していると、ヒソヒソ話しているのを、どうやら皆さん待っていてくれてたみたいです。
「千冬さん、千秋さん、お茶のおかわりはいかがですか?」
「え、あ…」
ヒソヒソ話に夢中で、紅茶が冷めていたようです。
「え、えっと、お願いします」
千秋お姉ちゃんがそう言うと、アヤカさんが新たに温かい紅茶を淹れてくれました。
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