第8話 ドラ〇もんに職業ってあるんだね
眠りについたその時、何者かの声が聞こえました。
意識が朦朧としていて、誰の声なのか分かりません。
ただ分かるのは、その声がとても聞きなれた声だということです。
今ベッドにいるのは、僕と千秋お姉ちゃんと、フィリアさんとアストさんのはずだから、この中の誰かの声である事には間違いありません。
誰だろうとぼやけた視界を広げ、意識が少しになると、ある事に気が付きます。
周りが妙に涼しいのです。
窓を開けているなら涼しく感じるのだろうと思いましたが、それはありません。
僕達は狭いベッドに4人、すし詰め状態なんですから、蒸し暑いなんて話じゃありません。
このベッドの空間だけサウナみたいな暑さで、正直言うと床で寝たほうがまだいいんじゃないかと思うぐらいです。
それと思ったことを一つ言いますと、寝ているはずなのに安定感がありません。
ベッドに寝ているはずなのにベッドじゃないです、これ。
暴れ牛にまたがったまま寝ているんじゃないんですか、これ。
と、そろそろ僕のぼやけた視界が元に戻ったようです。
でもちょっと薄暗い、景色からして裏路地の方にいるのでしょうか?
夢遊病者だっけ?僕。
「さぁ、貴方達はなんでこんなことをしたのかな?」
アストさんの声が、耳元で聞こえてきました、君たち?誰の事でしょう?
「あんた達がフィリア達に窃盗を働いたのは分かってんのよ」
今度は千秋お姉ちゃんの声。
窃盗、と聞くと今の時間では昨日か一昨日か判断できかねますが、昼過ぎにフィリアさん達の大事なものを奪って、僕達が窃盗犯を退治しましたが、その集団なんでしょうか?
というか今更なんですが、僕は一体何をされているんでしょう?
「そういえば思ったんだけど、アストさん、千冬の事をただのぬいぐるみとしか思ってないんじゃない?」
「え?……あ」
僕はどうやら、アストさんに抱かれているようです。
「と、とにかく!私達は人の心を傷つける貴方達のような人達を放っておく訳にはいきません!制裁を受けてもらいます!」
盗賊に対しこう言うと、呪文が聞こえてきました。
この魔法の呪文を聞いて僕は。
「カタルシス!」
アストさんの女神様らしい姿を見れました。
家に帰り、ベッドで横になっています。
フィリアさんは盗賊を追わず、そのまま寝ていたようです。
アストさんは本当に僕をぬいぐるみだと思っているのでしょうか?一向に放す気配がありません。
アストさんの上に乗せられ、天上を見つめています。
そしてまた当たってます。
盗賊集団はというと、まるで洗脳されたが如く、ロボトミー手術を受けた後ぐらい穏やかな性格になりました。
カタルシス、怖いなぁ。
確か、哲学や心理学では、精神的浄化の事を指すんだっけ?
浄化どころの力じゃない事だけは確かだね。
サイバー犯罪者もこれを喰らったんだろうなぁ。
多分フィリアさん宅のパソコンにクラッキングをしたんだろうなぁ。
アストさん、怖いなぁ。
「ふぅ、これで今夜もくつろいで熟睡できますね」
健康オタクの殺人鬼みたいな事言わないでください。
「そういえば、フィリアさんが盗賊に奪われた物ってなんだろう?」
「なんかUSBメモリーっぽい物だって言ってたよ」
「メモリー?なんでそんなものが?」
「それをパソコンに挿せば、テレビが見られるらしいんだよね、こっちの世界のアニメとかどんな感じになってるのかな?」
確かにそれは気になるね、僕も良くアニメは見るなぁ。
前世の方では、今頃僕の撮り溜めしたアニメは消されているのかなぁ。
「そういえば今期のアニメは異世界物が多かったような少なかったような」
「異世界物、ね」
「ねぇ」
まぁ。
現在進行形で僕達は異世界暮らしをしているけど。
異世界の異世界アニメ。
こっちで言う異世界物ってどんな物なんだろ?
多分背景は前世に居た時の世界なのかな?
……かなり気になる。
「にしてもさ」
「うん、分かるよ、言いたいこと」
「それではせーので言ってみましょう」
せーの。
「「「眠れない!」」」
フィリアさん以外。
僕達が盗賊を退治している時に寝たんでしょうね。
いいなぁ。
「あっついよ、もう汗びっしょり」
「汗だらけだから余計眠れないね」
「もう1度シャワー浴びませんか?」
「賛成、それじゃ行こ、千冬」
「うん、行こう」
まだ混浴には慣れません。
お色気描写?そんなの無いですよ。
入浴から浴後までは全てカットし、リビングへ。
アイスが欲しいですね。
ソファーに座り、深夜の楽しみが起きようとしています。
「そういえば、フィリアさんの部屋からくすねてきたんだけどさ、こいつを挿してアニメでも見ない?」
千秋お姉ちゃん、手癖が悪いよ。
「でも、ここに使えるパソコンは無いですよね」
「千冬の持ってるパソコンがあるじゃん」
「へ?パソコン持ってたんですか?」
「うん、多分使える筈だから、持ってくる」
そうして、僕は暗い廊下を見て、固まりました。
「どうしたの?千冬」
「固まっていますよ」
二人の方を向いて、僕は正直になりました。
「……誰か、一緒に来て」
おばけは幾つになっても怖いです。
3人で持ってきたタブレットノートパソコンをテーブルに置いて、充電器をコンセントに繋いで、リビングにあるソファに3人で座り、いざ鑑賞会。
ここホントに異世界なんですよね?
なんで電気まで繋がっているんですか?
「これを挿して、いざアニメ!」
「今の時間帯だとチャンネルは9チャンネルでやってますね」
千秋お姉ちゃんが挿して少し経つと、真っ暗な画面が出てきた後、画面が明るくなり、テレビ放送が始まりました、こっちの世界でテレビは新鮮ですね、映った画面を見てみると、バラエティやニュースなど、様々な番組がやってました。
見慣れた景色なのは見なかったことにして。
9チャンネルに合わせると、いよいよアニメ、ワクワクです。
しかし、その期待を悉く壊す結果になりました。
「……ねぇ、千冬」
「……何?千秋お姉ちゃん」
「……千冬はさ、このキャラクター、見覚え無い?」
「……ある」
「ていうかさ、このアニメ、前世で私達がよく見てたやつだよね、第2期やってたけど、最後に見た回の内容がしっかり繋がってきてるんだよね」
「うん、前の回で仲間になった元敵キャラが、主人公達と平然と会話しているんだけど」
「というかさ、1つ思ったのがさ、これ見れるって事は、前世の世界に現世の世界から干渉できるって事だよね」
「できるね」
アストさんの返答に、千秋お姉ちゃんは思ったことがあるようです。
「千冬、ちょっと私のアカウントを使ってオンラインゲームにログインしてみて」
「うん」
念の為、もう予想はついていますが念の為、オンラインゲームを千秋お姉ちゃんのアカウントを使いログインしました。
ログインできました
フレンド欄を見てみると、千秋お姉ちゃんとフレンドになっているプレイヤーの詳細が載っていました。
後でフレンド全員のフレンド状態を解除しておかないとですね。
千秋お姉ちゃんに近寄る害虫は全て駆除するに限ります。
「まぁ、分かってたけどね、これもできることでもう予想はしていたけどね」
「アストさん、前世と現世に橋を架けるのはやめて」
「え?私の影響ではないですよ、この世界を支えているのは私ですけど、この世界を作ったのは今の最高神ですよ?」
(いやだって、見ていたアニメの続き見たいでしょ?少なくとも自分は見たいよ、忙しいときは録画したりとか、まぁ、今は妻にハードディスクの容量の内、結構な量を持って行かれてるけど)
と、天の(おっちゃんの)声が聞こえてきました、前世の世界に干渉できたらいよいよこの世界に転生した意味が無くなってくるよ。
「だったら通販とかも使えるね、これじゃあ向こうとほぼ変わらないよ」
僕達は、謎の虚無感に襲われました。
僕達だけが現実世界から切り離されたような。
そんな孤独感が。
「ここに転生した意味、無いよね」
千秋お姉ちゃんが言うと、妙な事を言うアストさん。
「意味が無ければ作ればいい、最初からあるものが全てとは限りませんよ」
「へ?」
「え?」
アストさんがおかしなことを言ってきました。
「無ければ作ればいいんですよ、二方共に、それをすることができる筈ですよ」
「作るって言ったって、具体的にはどうしたらいいんですか?」
「どうしたら、とは?」
「どうやって作るとか、どうやったらいいのとか、色々ありますよ」
「作り方なんてありませんよ、故意で作れない物が意味なんですから」
「はぁ?」
ますます分からないですよ、千秋お姉ちゃんが何時もしないような反応をしています。
「故意で作れない物を作るの?」
「はい」
「もうおかしすぎるよ、そんなこと出来る訳無いじゃん」
「いいえ、できますよ、そうやって、まだやってもいないのに断言するのは、少々危険な考え方だと考えます、あなたの中でのルールに縛られないでください」
できるのかなぁ?
「できますよ、私はそういう人をたくさん見てきたんですから」
そっか、アストさんが言うと説得力はありますね。
「ならそうなんだろうね、できるんだろうね」
「できますよ、お二方なら」
「ははっ、貴方に言われると、今まで凹んでた気分が、なんだか馬鹿馬鹿しく思えてくるね」
「そうだね、アストさんに言われちゃったらね」
女神さまのお告げ。
それもおっちゃん以上に能力が上の女神さまからのお告げ。
これ以上に信頼できるものと言ったら。
僕と千秋お姉ちゃんとの愛だよね。
「千秋お姉ちゃん」
「どうしたの?千冬」
「ぎゅー」
僕は千秋お姉ちゃんに抱き着くだけで、千秋お姉ちゃんが驚いてもすぐにやりたいことを分かってくれます。
「まったく、千冬は私と会った時からこうだったよね」
「そうだっけ?」
覚えてないや。
でも今が幸せだから別にいいや。
「あのー、お二方、少し良いですか?」
「なんですか」
今良いところなのに。
「羨ましいんですか?」
と、僕は言いました。
もっとぎゅってしてもいいじゃないですか。
「そうじゃなくて」
「じゃあ何?」
千秋お姉ちゃんも問い詰めていると。
「アニメ、終わっちゃいましたよ」
「あ」
「あ」
僕と千秋お姉ちゃんの声がシンクロしました。
「ホントだ、エンディング入ってる」
「ごめんね、千秋お姉ちゃん」
「いいよ、また再放送されるし、その時に観よ」
「うん」
「それじゃあ、ベッドに行きますか?」
「はい」
「はい」
僕達3人は、部屋に向かいました。
もちろん千秋お姉ちゃんとぎゅっとしたまま。
ベッドについて、僕達2人とアストさんは。
「おやすみなさい」
「おやすみなさい」
「おやすみなさい」
かなり仲が良いんじゃないかと思います。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます