第7話 肉にはセロトニンっていう幸せになるホルモンがあるから、肉を食べたら幸せになるっていうのは合ってるんだね
タブレットノートパソコンの画面には王室が見え、左の方に注目すると、王冠を被った王様が、手すりに肘をつきながら部下のような男の報告を聞いていました。
クラッキングはあっさり成功して、玉座後方の自立型兵器の1つのコントロールを奪うことに成功しました。
……皆さんはマネしないでくださいね。
「只今、開発班から、新型兵器が開発間近だという報告が上がっています」
「そうか、今度はどのような兵器なのだ」
「電気を利用した、でんじほう、という兵器です、まだ試験段階ではありますが、今までのどの武器よりも殺傷能力は高く、この国を囲う魔防壁すら、簡単に破壊が可能となる兵器です」
「ほぅ、期待はできるな、ならばその兵器が運用可能となったら、即座に魔防壁の強化に取り掛かれ」
「は」
画面からの会話は終了し、部下のような男は王室を出ていきました。
にしても。
電磁砲。
超がついていない分、右腕でやるあのお方の方が能力は上なのでしょうか?
あんな中校生がいたら僕達なんか木端微塵になりますね。
「んで、王様と部下のやり取りを見たけど、どうやって殺すの?」
千秋お姉ちゃんの質問には、アストさんが答えました。
「この自立型兵器には、レーザー機能がついてます、それを使って心臓をくりぬきましょう」
なんてエグいことを。
しかしレーザーって無音な訳ではなく、ある程度の音は出ますよね?
そしたら千秋お姉ちゃんも同じことを思ったみたいで。
「にしてもどうするの?ここからじゃ国王の心臓部辺りは椅子のせいで見えづらいし、それにレーザーを使ったら音でばれるよ」
と言ってきました。
「それじゃあ、レーザーを使って、脳にある血管を焼き切ろうか」
なんでこうも生々しい提案が浮かぶの、でもそれじゃあ脳出血ってだけで、まだ死ぬ訳じゃないよね?
「なにも国王は死ななきゃ交代できないって訳じゃないの、国王が自分の仕事を行えない状態になった時、国王を交代することができるの」
「へぇ、だったらそれでも十分だし、それに死人は出ないね」
「問題はその血管がどのあたりにあるかだけど」
アストさんがタッチペンを回しながら判断に困っているところに。
「血管ていうか、脈は脳の中央部に集まっているから、真ん中を攻めれば?」
千秋お姉ちゃんが助言してきました。
「だったらそうしまょう、えーと、脳の真ん中あたりはここですね」
レーザーポインターが王様の頭に当たると、レーザー兵器が発射寸前になりました。
グロテスクな描写になりそうだから反対側を向いてよ。
「ん?千冬君、どうしたの?」
「なんかグロテスクな物が見えそうだから後ろ向いてます」
「そんなことは無いよ、脳の脈を焼き切るだけだよ、なにもグロテスクな物は出てこないよ」
「そう?ならいいですけど」
僕はそう言いながら前に向き直すと、発射ボタンを押したアストさんと、画面に映っているカメラ映像が目に飛び込んできました。
「あ…あ…あぁ」
死体を発見した高校生みたいにうわああぁぁと叫びたくなりましたが、それ以上にショックが大きいです。
放ったレーザーは、見事に国王の頭を撃ち抜きました。
撃ち抜きましたが、レーザーは範囲が広いタイプの物で、レーザーというよりビーム砲でした。
画面には血痕と国王だった物の肉が、椅子から落ちていきました。
その後、金属音をあげた王冠も弾んで、画面から見て少し奥に転がりました。
「………」
「………」
「………」
「………」
僕達は黙りこくり、描写を書いた後に、フィリアさんが僕の目元を手で塞ぎました。
もう手遅れです。
もう見ちゃいました。
「今見たことは、只の悪夢って事で片付けませんか?」
アストさんが提案しましたが、この惨状を丸く収めようとしているようですけど無理です。
いくら頑張ってもこんな凄惨な現場を収めることはできません。
「え、えーと、これで一応クエストクリアって事でいいの?」
「革命させたって意味ではそうだね」
「そ、それでは、兵器へのアクセスは終了しましょうか」
「うん、お願い」
そして十数秒後、タブレットノートパソコンのエンジン音は消えました。
ギルドに帰り、クエストクリアの報告をメンバーの皆さんに話しました。
その時の僕達の目元は、日常アニメや漫画でよく見るあの、真っ黒な目元になっていました。
「それでは、クリア報告を終了します」
「報酬はこのテーブルに置いてあるので、好きなだけ取ってください」
僕達は、その報酬が入った袋を、誰も開けず、誰も取りませんでした。
祟られそうです。
後々の話ですが、暫くの間、その報酬が置かれたテーブルには、誰も近づかなかったようです。
「ね、ねぇ、千冬君?どうしたの?」
「お腹の調子でも悪いの?」
「そういえばハンク、クエストに行く前に骨付き肉をあげてたよね?腐ってたんじゃないの?」
「そ、そんなことはない、俺もあげた皿とは違うものだが食べていた、だが俺は腹痛なんて起こしていない、君達は、腹痛で気分が暗くなっているわけではないんだろ?」
女性メンバーのエミリーさん、と愉快な仲間達プラス巨漢のおじさん(ハンクというそうです)は聞いてきましたが、僕達は目を合わせず、下を向いたまま答えました。
「あ、いえ、そういうのじゃないです」
「体は正常です」
「腹痛は起こしてないです」
「最後に面白いボケが出てこないです」
最後に言った人誰ですか?
「ま、まぁ、クエストクリアしたんだから、お祝いだ、お祝い」
「そ、そうだ、宴だ宴、肉と酒を持ってこい」
「とりあえず座れよ」
「はぃ」
僕達は夕方までお喋りをしたり料理を食べていたりしていました。
ガンディーも後悔するレベルでの塩対応で、皆さんから心配され。
僕達は出された料理を少し食べましたが、どれも味が感じられませんでした。
料理の味ではなく、第三者の恨みや怒りが感じてきました。
僕達を対象に、丑の刻参りとか縁起でもない事をされてそう。
「あの、僕達、もう帰っていいですか?」
「え?もう帰るの?千冬にぃ」
ギルドカードをもらった時に話しかけてきた少年から、いつの間にかお兄ちゃん扱いされてます。
多分クエストに行っている間に定着してますね。
お兄ちゃん、か、そういえば僕に妹とか弟とかいなかったなぁ。
「うん、ごめんね、また明日あそぼ?」
「ああ、約束だぜ」
僕達は家に帰り、夕食を食べてました、今夜はアイリスさんの手作りの様です、献立はシチューとパン、それとサラダの盛り合わせで、少し質素なものでしたが、アイリスさんも結構料理が上手で、フィリアさんに引けを取らないおいしさで、心に安らぎを与えてくれます。
「ねぇ、皆どうしたの?」
「すっごいテンション下がってるけど」
「学校のクラスの陰キャラみたいだよ」
察してください、というかこっちの世界の学校にもそんな人がいるんですか。
初耳です。
「ところでさ」
「どうしたんですか?アイリスさん?」
僕が反応した時、目線をちょっと横に動かしたので気づきましたが。
「なんでギルドマスターがいるの?」
僕達がシチューに対し、アストさんはステーキ2枚とワインという贅沢な組み合わせでした。
ナイフを入れると、お肉があっさりと切れたので、恐らくはヒレ肉でしょう、よくよく見るとキメが細かいです、そうなるともう一枚は十中八九サーロインでしょう、なんて贅沢な。
「おいしいですね、このお肉、お肉の中でもとても美味しい部位ですよ」
「あの、アストさん」
「んー、このワインもおいしいですね、前に隣の国へ買い物に行った甲斐がありました」
「なんでいるの?」
ワイングラスをテーブルに置き、僕達の反応にやっと応えてくれました。
「だって暗いテンションの中一人で宴に参加なんて寂しいでしょう?ですから今夜はご一緒させてもらいます」
「ご一緒って、寝るときは帰るんでしょうね?」
「寝るときいつも一人なんですよ、寂しいですよ、一緒に寝たいんですよ、安心してください、パジャマはちゃんと持ってきています」
「泊まることを前提とした発言をするのはやめてね」
「まぁ、仕方ないか」
と、アイリスさんは諦めちゃいました。
仕方ないんですか?
「ギルドマスターがこうやって泊まりに来るのはいつものことだからさ、もう諦めるのが手っ取り早いんだよ」
「そうなんですか」
また何度かこれと似た光景を見ることになるんだろうなぁ。
「それでさ、そのステーキってどこの部位なの?見るからに高級そうだけど」
「これは買うときに、さーろいんと、しゃとーぶりあんっていう部位だと教わりました、なんでもしゃとーぶりあんは、結構希少な部位とかなんとか」
「そりゃあ、牛一頭からおよそ一キログラムぐらいしかとれないからね」
「そんなに希少なんですね、確かに今夜は特別な日ですからね」
「特別な日?」
今日何かあったっけ?
「だってこうしてテーブルに囲んで皆さんとご飯を食べているんですよ、いつもはカウンターにいて、一緒に宴に参加できないんですよ」
そういえば、受付嬢をしているのを忘れていました、ギルドマスターと女神が結構印象深くて。
「それと、早く食べてしまいましょう、折角の温かい料理が冷めてしまいます」
「そうですね、早く食べてしまいましょう」
宴の時には気づきませんでしたが、僕達はすごくお腹が空いていたようで、ほんの数分で食べ終えてました。
夕食を食べ、そのあとにお風呂につかって今現在、就寝しています。
正確にはまだ夢の中ではなく、目を閉じたまま布団に潜ってます。
猫が炬燵の中で丸くなるように、僕は布団の中で丸くなります。
今は夏なのになんで冬みたいな事をしているんでしょうか?
その時、部屋のドアが開く音が聞こえてきました。
千秋お姉ちゃんが来たのかなと思ったら、複数人の足音が聞こえてきます。
ごそごそと物音を立てた後、隙間風が吹いてきました。
ちょっと涼しいと思うと、すぐに熱くなりました。
「千冬君って、結構抱き心地が良いんだよね」
「そうなんですか?」
「私も前に、千冬と一緒に寝る時があったんだけど、ぬいぐるみみたいに柔らかいんだよね」
「そうなんですか、それでは私も抱かせていただきましょう」
そう聞こえると、身体は真っすぐに直されて、顔の近辺から鼻息が聞こえてきます。
会話の流れからして、アストさんが抱きしめているんでしょうね。
アストさん、鼻呼吸するんですね、お父さんは口呼吸だけど。
「千冬、苦しくない?」
僕の言う身動きが取れないというのは、口も動かせない様な状態の事を指します。
もちろん返事は返せません。
全身に絡みつくが如くの身動きの取れなささです。
「あ、ちょっと強く抱きしめてましたね」
「そうなの?だったら緩めてあげなよ」
そう聞こえると、少し緩めてもらったので、少しだけなら身動きが取れるようなりました。
目を開けると、僕はどうやら、アストさんと千秋お姉ちゃんに挟まれてました。
千秋お姉ちゃんの後ろにはフィリアさんが寝ていました。
二人のパジャマ姿は初めてです。
相変わらず僕は制服のままですが。
「ねぇ、他にベッドは無いの?ものすごくぎゅうぎゅうなんですけど」
「狭いところが落ち着くんですよね」
「ねー」
「ねー」
いや分からなくはないですけど、限度はあるでしょう。
狭いベッドに4人入る状況なんて聞いたことは無いです。
「それでは寝ましょうか」
「いやだから寝られる状態じゃないですよ、平日出勤するときの都営電鉄の車内ぐらいぎゅうぎゅうですからね」
「千冬さんはまだまだ元気ですね、そんな元気な子には子守唄を聞かせてあげましょう」
「あぁもういいですよ寝ますから」
「あら、いいんですか?」
いい歳してそれは恥ずかしいです。
歌われたら生涯最大の黒歴史になりかねません。
「………」
「あらあら、俯いて喋らなくなりましたね」
「それだけ歌われるのは恥ずかしいんでしょ?」
「そうですかね?」
「千冬にとってはそうなんでしょ、それじゃあ、明日は起こされないようにしないとね」
「今日の朝は起こされたんですね」
「アイリスさんにね、それじゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
この言葉を最後に、会話は途絶え、僕の意識も途絶えました。
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