第3話 君の味噌汁を毎日飲みたいって言うけど、お吸い物じゃ駄目なのかな?

えー、皆さん、どうしましょうこの状況、現在僕は、フィリアさんと脱衣所にいます、読者からしたら、なんだ、よくあるパターンか、と思うでしょうが、いざ現実となると物凄く気まずいです。

「あの、フィリアさん?お風呂に入るんですよね?」

「そうよ、あなたと一緒にね」

「あの、僕一緒に入るのは」

「ダメなの?私とじゃダメなの?」

 フィリアさんの目がうるんでいます、今にも泣きそうです。

「あぁ、あのフィリアさん、落ち着いてください、そうじゃなくて僕は男の子なんですよ」

「え!?そうなの?」

「………」

 え?今まで男の子として見られてなかったの?

「一人称が僕の女の子かと思った」

 え?今まで女の子として見られていたの?

「だって千冬君、髪すごく長いじゃない」

「これは、千秋お姉ちゃんに長いほうが好きって言われて伸ばしているんです」

「そうだったのね」

 わかって頂けてなによりです、なので僕は。

「それじゃあ入ろっか、千冬君」

 ……この人、さっきまでの話の流れを無視していますね。


 気まずい、なんて気まずいんでしょう、どれくらい気まずいかと言うと、授業参観の時に自分の両親だけ気合入れてきている時くらい気まずいです、腰にタオルを巻いて、フィリアさんの前に座って。しかしフィリアさんは鼻歌交じりで僕の背中を洗っていました。

「かゆくない?」

「かゆくないですよ、むしろ気持ちいいです」

「そう?うれしいなぁ」

 ゴロゴロ声をあげて眠りにつきそうな気分です。

「フィリアさん」

「なに?」

「フィリアさん、僕がベッドにいた時、こう言ってましたよね?」

「へ?」

「ワープを使ったのかな?って」

「言ってたね」

「この世界って、魔法が使えるんですか?」

「そうよ、千冬君は魔法とは縁のないところで育ったのかな?」

「まぁ、そうですね」

「それじゃあ、あとで教えてあげよっか?」

「え?いいんですか?」

「えぇ、手取り足取り、ね?」

 そう言って、腰にフィリアさんの腕が後ろから伸ばされて、頬と頬とが触れ合って、反対の頬を撫でられる姿勢になっちゃいました、な、なんか、いやらしい気分に、あ、あと。

「あの、あ、当たってます」

「当ててるのよ、それじゃあ、夜になったら、私の部屋に来て?」

「……は…はぃ…」

「ふふっ、いい子ね」

 その時の僕の顔は、真っ赤に染まってました。

 お風呂からあがり、制服に着替えました、そういえば僕は制服1枚だけだけど、洗濯とかどうしよう?

「あれ?千冬君それ1枚?」

「はい、洗濯とかどうしたら」

「それじゃあ、ウォッシング」

 というと、制服の汚れやしわがとれて、新品同様になっていました。

「わっ」

「えへへ、すごいでしょ?」

「わぁ、これ、魔法ですか?」

「そうよ、生活用の魔法、これで綺麗になったわ、さ、髪を乾かしましょ」

 ドライヤーでも使うのかなと思いきや、今度はドライというと髪がすぐに乾きました。

「って僕の髪の毛で遊ばないでくださいよ」

「いいじゃない、千冬君の髪長いし、髪型変えても、それに、こっちの方が似合ってない?」

 鏡を見てみると、そこにいたのは髪型が変わった僕でした、猫耳とツインテールが合わさって……ホントに男の子ですよね?僕。

「しかし、さっきの髪を乾かす時のも?」

「魔法よ、結構種類はあるから、記憶して損することはほとんど無いわ、さ、皆のところに戻りましょう」


 皆のところに戻ったら、アフロさん以外の2人が不穏なオーラを出しながらこちらを見ていました、ってアフロさん、なに僕のパソコン使ってるんですか。

「おかえり、フィリア、さっきまでなにしてたの?」

「千冬君とお風呂にね」

「千冬、それ、ホント?」

「あ、はぃ」

「それで?フィリア、千冬君になにしたの?」

「ちょっと後で手解きをする約束をね?」

「それって?なんの手解き?」

「魔法よ、手取り足取りね」

「それで、千冬君に良くないことも教えるつもりじゃないでしょうね?」

「しないよ、いたって健全な教育よ」

「ならいいの」

 話はついたようですけど、不穏なオーラがずっと出ています、2人の隣に座るだけでも無理です。

「そういえば、そろそろ夕方だね」

 この不穏なオーラが出ているのに空気の読めない女神さまですね。

「そうね、晩御飯の支度をしなきゃ」

 フィリアさんがいつも晩御飯を作っているのでしょうか?しかしこれは、この不穏な空気から抜け出すチャンスです。

「フィリアさんなにか手伝えることはありませんか?」

「ううん、特に手伝ってもらうことは無いわ」

 フィリアさん!なんてことですか、脱出できるチャンスだったのに希望を断たせるんですか⁉しかし、絶望しかないこの状況で、希望があるとするならば。

「うーん、やっぱり来て、千冬君の舌に合うようにしたいから」

 絶望の先ならぬ、フィリアさんの先にありました。


「先ほどはありがとうございました」

「いいのよ、居づらいわよね、ああいう空気の中って」

 フィリアさんに連れてこられてキッチンの中、僕とフィリアさんは調理台の前に並んで料理をしていました、フィリアさんはいつもご飯を作っているようで、かなりの手練れです、一方、僕はと言うと。

「千冬君、結構上手ね、いつもご飯作ってたの?」

 フィリアさんに褒められる程度にはできています。

 スープ、それは、オードブルの次にテーブルに出され、そのスープからがメイン、ある意味、魚料理や肉料理よりも重要な料理です、それを作っているのですが。

「ねぇ、千冬君、なんでお鍋に沢山のお水を入れてるの?」

 汁物では、お吸い物しか作れません。

 お吸い物、お味噌汁と比べ、塩分濃度が高く、減塩をしないといけません、なので少ない調味料で深い味を作り、尚且つフィリアさん達に満足のいく料理にしないといけません。

「あのフィリアさん、ジパングへ行ったことはありますか?」

「ジパング?行ったことは無いけど、特産品とかは各国の王様からよくもらうから、食材はあるけど」

「そうですか?少し見せてもらってもいいですか?」

「いいわよ、そっちの床のドアを開けると倉庫になってるから」

「ありがとうございます、それでは行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 ドアを開けると、少し寒く、暗い部屋になっていました、しかし、手入れはかなり行き届いてて、埃1つありません。

「えっと、昆布と椎茸、えーと、日本の食材は。にしてもすごいなぁ、手入れが行き届いているだけじゃなく、国ごとに食材が分かれてる、野菜、お肉、魚、果物、調味料に至るまで整理整頓されてる、それに牛肉は、今の時代の日本だと、織田信長が足利義昭を追放している辺りだと思うけど、日本から届いたのに今も新鮮そのもの、もしかしたら、食べ物を保存する魔法があるのかも、緑茶だって、日本からここまでではかなりの距離があるはず、イギリスに着くころには紅くなってる、すごく料理に対する敬意が払われている、まるで食材の心を

「聞いているみたいに」

「うわぁ」

 思わず振り返り、良く見るとそこには、フィリアさんがいました、思わず尻もちついて、とても痛いです、しかしフィリアさん、足音1つ立てずに付いてきたんですか。

「フィリアさん、いたなら言ってくださいよ」

「えへへ、ごめんね、千冬君と一緒にいたくてね」

「しかし、この部屋の食材、随分質が良くて、沢山の国から届いてますね、この葡萄とか、実が大きいですよ」

「ありがと、食べ物にはこだわりがあるからね、ご飯ぐらい、美味しいものを食べたいでしょ?」

「まぁ、確かにそうですね」

「昆布と干し椎茸でしょ?探しているの」

「そうですね、出汁を取るので、それをスープに入れます」

「あ、それって、おすいもの、っていう料理?」

「知っているんですか?」

「聞いたことがあるくらいだけど、なんでも透明なスープだって聞いたよ」

「文字通り、透明なスープです、あとはお麩やわかめなども持って行きましょう」

「それならここよ、……必要な材料はこれくらい?」

「そうですね、それでは戻りましょうか」

 倉庫から戻って、再び調理台の前に並び、料理を再開しました。

 そこで行われるのは、よくある日常的な会話でした。

「しかしフィリアさん、僕達が客間に戻った時、なんであんなに修羅場みたいな空間になっていたんですか?」

「答えから言うと、アイリスも千秋ちゃんも、千冬君のことが好きなのね」

「そうなんですか?」

「そうよ、千冬君には分かりづらいかもしれないけど」

「そうなんですか」

「それをお互いに知って、ライバル視しだしているけど、その内すごく仲良くなると思うの」

「なら安心ですね」

「千冬君を落としたい同盟でね」

「僕の貞操が安心じゃありません」

「と、そろそろこっちは出来るわよ、千冬君はどう?」

「僕もお皿に入れたら完成です」

「どれどれ、おー、美味しそう」

「味見してみます?」

「いいの?」

「いいですよ、どうぞ」

 僕の作ったお吸い物で、フィリアさんは満足してくれるでしょうか?このすすっている時が1番緊張します。

「どうですか?」

「……」

「あの、フィリアさん?」

「ちょっと待って、千冬君」

 え、駄目でしたか、僕の作ったお吸い物、食材や道具は良いのに、フィリアさんと比べて、やっぱり腕が駄目なんですね。

(なに?…千冬君…なにこれ……ものすごくおいしい、半分以上がお水で、塩とかの調味料を一切使ってないのに、出汁っていうのを入れて、少しの具材を入れただけでこんなに味が深いなんて、料理に対する見方がすごく変わったわ、千冬君、料理がすごく得意なんだ)

「ごめんね、千冬君、それじゃあ、お皿に入れて持って行こ」

「はい」

(にしても、こんな才能、一体どこで?千冬君って何か特別なものを持っているのかな?)

 余談ですけど、僕がお吸い物以外の汁物を作れないのは、お母さんがお味噌汁とかシチューを作っているとこを見たことが無いだけで、食べたことが無いわけではありません。

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