第10話彼女の昔話(1)
その日のセルマーニェではいつもと異なる黄色い声が響いていた。その中心にいるのはセレムことオルメカである。
「きゃあー、セレムさ~ん」
「本当にかっこいい!!」
「この後一緒に飲みにでもいきませんかー?」
オルメカは自分を取り囲む女たちに困ったような顔で笑いかけた。
「そんな、皆さんこそお綺麗ですよ。こんなに綺麗な人たちに囲まれると緊張してしまいますね。」
その一言に女たちは目をハートにして彼を見る。その日訪れた女の数はいつもの約10倍でそれを見た店主の機嫌も上々であった。
「おい、やるじゃねぇか。どうやってそんな技身に付けたんだよ。」
店が閉まり客が帰った後の店内は先程とは異なり静寂に包まれていた。
「何の話ですか?」
オルメカは首をかしげてわからない振りをする。店主は食えないやつだなぁ、と笑い、
「ま、いいけどよ。おまえ今いくつだ?」
とオルメカに訊ね、酒をぐびぐびと飲んだ。
「18ですよ。」
オルメカがさらりと答えると、ブッと店主は酒を吹き出した。それを見てオルメカは少し眉をひそめる。
「おまえ、そんなに若いのか?!!」
「ええ。よくそう言われます。」
そう言うと、オルメカも紅茶を優雅にすすった。店主は信じられないという顔をしてオルメカを見た。
「へぇー、じゃあ、アイシャとは9つも離れているんだなぁ。」
次はオルメカが紅茶を吹き出す番だった。
(そんなに年が離れているのか!)
「もっと若いかと思いましたよ。」
オルメカはポケットに常備しているハンカチで口元を拭いながらそう言う。店主にも少しかかったらしくオルメカの持っていたハンカチを奪い取り、汚ねぇ、とつぶやきながら顔を拭った。
「女の年で盛り上がるなんて、下世話だね。」
突然の声に2人が振り向くと、店の奥から現れたアイシャが顔をしかめながら立っていた。
「アイシャさんはお美しいので、もっと若いかと思いましたよ。」
オルメカはいつもの笑みを浮かべてアイシャに話しかけたが、彼女はそれを鼻で笑う。
「口がうまい男は信用できない。」
そう言うと彼女は踵を返して店の奥へと戻っていった。客だった時との対応の差に愕然としながらオルメカは彼女が去っていった方を見つめていると、
「まあ、飲めよ。」
店主は憐れむようにオルメカを見て、紅茶をすすめたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます