第9話オルメカ、職場を決める。
翌日、オルメカは昨日の考えを実行するべく昼頃に宿を出て『セルマーニェ』へと向かった。外は日差しが強く、彼は深く帽子を被り直した。店が開くにはまだ早い時間に彼はその扉を押し開いて中に入ると、そこでは店のボーイたちが忙しそうに準備をしていた。
「お客様、困ります。只今準備中でして……。」
そのうちの1人がオルメカに気付き、その行為を咎めた。オルメカはそれを笑って受け流し、
「店主はいますか?」
と訊ねる。そのボーイは困惑した顔をすると、他のボーイたちに目配せした。
「いるんですね?」
オルメカがそう言って更に店の奥へ入ろうとすると、カツカツと音をたてながら奥から店主が姿を現した。
「あんた、店の看板が見えないのか?今は準備中だ。さあ、帰った、帰った。」
面倒くさそうにしっ、しっと手で払うとまた店主は奥へ戻ろうとする。
「雇って頂きたいんですよ。人手足りていなかったでしょう?」
その言葉に店主は振り向き、ふんっと鼻で笑った。
「さてはアイシャに近付きたいって魂胆だな?それは止めとけよ!無理な話だ。」
「そういうわけでは……。」
魂胆をズバリと言い当てられ言葉に詰まると、店主は追い討ちをかけるように、
「へえ、そうかい。ま、今うちに来る客は野郎ばっかりで、女どもが足りてねぇ。あんたがもし仮に美形なら考えてやるよ。」
と小馬鹿にする。オルメカも流石に頭にきたらしく、ゆっくりと帽子を脱いでその顔を露にした。
店主はもちろんボーイたちも呆気にとられて彼を見る。
「すごい美形じゃねえか……。」
「雇って頂けますか?」
「いいぜ、雇ってやるよ。」
手のひら返しとはこの事を言うのだろう。店主はパンパンと手を叩き奥にいた者たちも呼ぶと、彼らの前でオルメカを紹介した。
「今日からここに入ることになったやつだ。名前は……」
言葉を詰まらせた店主に変わって、オルメカは一歩前に出るとよく通る声で
「セレムと申します。今日からよろしくお願いいたします。」
と自己紹介した。拍手とどよめきがその場を包むと、店主はまたパンパンと手を打ち、
「そういうわけだ。では、各自持ち場に戻れ!!」
とボーイたちに指示した。再び奥に戻ろうとする店主にオルメカは、
「あの、私は何をすれば……。」
と訊ねた。店主はニヤリと笑って、
「決まってんだろ?客引きだよ!ほら、行ってこい!!」
とオルメカを店から送り出した。
その日を境に女性客が大量に入るようになったことは言うまでもない話である。
こうしてオルメカはアイシャの職場へと潜り込むことにうまく成功したのであった。
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