第5話花を待つ人(4)
「町についてというよりは多分町にすむ女性の情報の方がいいですよね?」
彼女の率直な質問にオルメカは苦笑いして、
「まあ、そうですね……。」
と言った。彼女は顎に手をあてて暫く考えると、思い付いたようにポンと手を打った。
「その町ではアイシャという女性が有名ですよ。彼女の美しさは大輪の薔薇と称されるくらいです。」
「アイシャか……。」
彼は話に興味があるらしく少し身を乗り出す。すると、彼女はそれに反発するように少し身を引いた。
「彼女は通称『茨姫』とも呼ばれているんです。」
「茨姫ねぇ……」
「何でも言い寄ってくる男を片っ端からこっぴどく振っているようで。それがそう呼ばれる所以らしいですよ。」
「美しい薔薇には棘があるってことですね。」
彼はそう言うとまた少しラーニャに近寄り、反対に彼女は距離をとった。
「ねえ、何で逃げるの?」
彼がそう尋ねると、彼女は顔を赤くして、
「あなたの顔、心臓に悪いんですよ。」
と答えた。
「かっこいいってこと?そんなことないですよ。」
彼はふっと笑うと彼女は青くなってぶるりと震えた。
(赤くなったり青くなったりおもしろいなぁ。)
彼はそう心の中で呟き、喉の奥でくくっと笑った。その反応に彼女は頬を膨らませる。
「絶対思ってませんよね?覆面でも被ってくれればいいのに……。」
はあ、とため息をつく彼女に先程のしおらしい姿は何処にもなかった。
(やっぱりな)
彼はそう心の中で思い、苦笑いした。
「いい情報をありがとう。では、そろそろ行くとしましょうか。お母さんが貴方を待っていますよ。」
彼はそう言うと、彼女の隣から立ち上がる。彼女は最後に深くお辞儀をしてチューリップを大事そうに抱えた。
「またお会いましょう、ラーニャ」
こうして、二人は別々の方角へと歩き始めた。
ラーニャと別れた後もオルメカは彼女のことを思い出して口許を上げた。『またお会いしましょう』。このセリフを本気で言ったのは彼女が初めてだった。
なぜなら、彼は彼女の花をまだ取り出してはいなかった。いや、取り出せなかった。彼女は彼に恋などしていなかったのだ。多分彼女は彼のことを恋愛対象としてではなく、魔法使いの類いのように見ていたのだろう。
(珍しい。俺のことをそういう対象として見ないなんて。)
彼女に渡したチューリップは他の女性から取り出したものである。彼女にふさわしい花を選んで渡すというその行為は普段の彼なら絶対にしないものだった。
(お代はいずれ貰いに行く。彼女からどんな花が取り出せるのか楽しみだ。)
彼はおもしろいオモチャを見つけた子供のようにその美しい顔をほころばせ、ウキウキとした足どりでラザナルへと向かった。
一方そのころ背筋に悪寒を感じたラーニャは、くしゅんと1つくしゃみをした。
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