第4話
うまく男たちから逃げきり、子供を連れ帰ることに成功したことに。香夜は思わず笑みを深くした。計画はとりあえず成功したのだから、機嫌も底上げするというものだ。
気分よく鼻歌を歌いながら、正面に見える自分の屋敷に向かって歩きだす。機嫌の良さも手伝ってか、子供を抱えながらも足取りはとても軽い。
その軽やかな
この結界は強力であるがゆえに、融通がきかないところがある。主の香夜が、考えがあって通そうと思っていても。
ただし、そんな思いを抱く者でも。力の強い者なら、
強者が勝つのは世の道理とはいえ。それが出来る者は、こぐわずかな一握りの者に限られる。
屋敷の玄関に近づくにつれ。まさに春の代表格の桜の木が、まず姿を見せた。先程の大桜には負けるだろうが。
さらに屋敷の奥にある庭では、およそ二十を越える様々な花木が。春を告げる為に、今を盛りに咲き誇っていた。
「ただいまー!」
「あら、小汚ない土産ですこと。お帰りなさい、香夜」
香夜を見た
その変わり身の早さに驚くところだが。彼女にいたっては、いつもの仕様としか言い様がないので。香夜は苦笑することしか出来なかった。
「いきなりそれ?可愛い子供に向かって」
「
「手厳しいわね、椿は」
「正直なだけですわ」
そう言いながらも、黙って子供を受け取る椿は。
しっかりと子供を抱き留めて、奥に向かおうとしていたが。その子供が、強く
「これはなんですの?」
「あぁ、これは……宝物よ」
「…まさか、こんな物の為にわざわざ出かけたなどとおっしゃいませんわよね?」
「この為に出かけたのよ。早起きした
固く閉じられた子供の指を、優しく解きほぐしていく。強く掴まれた布切れを受けとると、愛おしそうに眺めた。
「めったに出会えない名品よ。苦労するだけの価値があるわ」
「つまり、ここまでの
「どちらも正解。苦労すればするほど、価値は高まり力の質が良くなっていく。そうなればそれは、苦労であって苦労ではない」
幸せが一気に逃げていくような、重いため息を椿は吐き出す。なんだかんだ言っても、こんな主を放っておけるはずがない時点で。苦労するのはいつだって、側仕えの者たちに決まっているのだ。
とうに
だが、どう考えてもこの主が変わる訳はなし。厄介事を楽しめるまでに至らない、自身の性格を変えられるでもなし。
今日も大人しく、仕事を淡々とこなすのが。椿にとっての、最良の道と言えるのだった。
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