第2話
「…やっと、春らしくなってきたわね」
どこからか風で運ばれてきた桜の花びらが、川の水をまるで春の色に染め上げるように流れていく。
…すると、ひときわ強い風が吹き荒れた。大量の花びらが飛んできて、一瞬で女の
風の
着物や髪に付いてしまった花びらを、できる限り払いおとす。そして何事もなかったように、また同じように道なりに歩きだした。
向かう先は、
その木の場所に、この女ーーー
それは昨夜のこと。家の
縁側に腰掛け、恵みのように降り注ぐ花びらを眺めながら愛でていると。
現れたのは、夜でもその存在を
『哀れなあの子を…お助けください…』
誰がどう見ても、この世の者ではない老婆が自身の身の上を
他にもっと
老婆の姿が見えるだけでなく、話に耳を
そんな一握りの存在である香夜に、もちろんタダとは言わないと老婆は言う。孫を助けてくれたなら、香夜の望む物を渡せると言われれば。
香夜の望む物は、孫が持っている。それを聞いて、急くばかりの気持ちを抑え。
老婆は、孫がいつ枯木にやってくるかは話さなかった。話すだけ話したら、満足したように消えてしまったのだ。まだ香夜は、何も答えていなかったというのに。
だが、物で釣ったのは恥ずかしながら良い判断だと香夜は思った。欲しい物の為なら、たとえ面倒なことが待ち受けていても
浮き足立つ、心踊る楽しい季節の新たな出会い。それは物であれ人であれ、楽しみなものだ。心待ちにしている物が待つ場所へ、いくばくか早足で歩を進めた。
川沿いから離れ、春の
早足で歩いただけで、少し汗ばむほどの陽気なのだ。これからどんどん暑くなっていくのだろうと、
「…どうやら、まだ来ていないみたいね」
どうやら、早く来すぎてしまったらしい。いくらなんでも、食事も
少々の空腹を感じた上、暑くなった自身を休ませる為に。休憩がてら、枯木の前でゆっくり待つことにした。
……待つことを決めたまではよかったが。せっかくの陽気だというのに、
周辺を見てみるも、
香夜は枯木の昔を、鮮やかに思い出す。この木も、それは見事に
いつの頃からか、咲かなくなってしまったのを見て。自然に枯れたのだろうと香夜は決め込んでいた。だが、おそるおそる触れてみれば。木の表面はまだ、
この木は枯れていない。何らかの原因が元で、桜が咲かないだけなのだ。これだけ立派な大木なのだから、桜が咲いたらそれは見事なことだろう。
『私が欲しい、お前をおくれ』
香夜は思わず、言葉を声に乗せていた。暇潰し、興味本意、懐かしさ。理由は色々とあるだろう。
花咲か爺さんではないが。せっかく訪れた春の季節に、待ち望んだ物が無いのは寂しい。
『 紡がれるは想いの心、 結ばれるは昔の
色鮮やかに、
「咲いた……!」
それはまるで、夢のような光景だった。
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