第2話 潜入! 伊藤流帝国
コマジロウは青年に伊藤流帝国の場所を聞くと入り口へと向かった。
帝国の入り口には棋力測定所があった。
モヒカンが三人とスーツに身を包んだ伊達男が門の前に盤を広げて座っている。
「あっ、あの男は!」
「知っているのか、青年」
「ああ、ワットナーブ棋王三賢者の一人、サン・マイケルだ。攻めの速さはワットナーブを凌ぐというほどの噂だ。悪いことは言わない、日を改めて出直そう」
「悪いが、そんな暇はない」
コマジロウは青年の制止を振り払い、サン・マイケル達のところへと近づいた。
「ひゃっは~。ここから先は伊藤流帝国だ。通りたければ俺たちを将棋で倒してからにしな! 勝てるならの話だがなぁああ」
モヒカンの一人が、コマジロウの行く手に立ちふさがる。
「時間が惜しい。三人同時に掛かって来い」
様子を見ていたモヒカンズの残りの二人も立ち上がり、コマジロウを取り囲む。
「舐められたもんだぜ、掛けるものはあるんだろうなぁああ?」
「命を賭けよう。無論、お前らの命だがな」
「はっは~、上等だぜえええ!」
対局が始まると、モヒカン三人に対し、目にも止まらぬ速さで駒を動かす。
そこに手番など無い。あるのは、ずっとコマジロウの番だ。
「ひっひいいい、こいつ、はええ、化けもんだ~」
「ほああああ! あたたたた! ほあちゃあ! 大橋流奥義! 百裂駒打!!」
圧倒的な速度で三人を詰ませたコマジロウ。その顔に慈悲は無い。
「約束だ。賭けたものを払って貰うぞ」
「ひっひいいい、俺たちは賭けるなんて言ってな、がっがんぎぃぃいいいい!」
三人のモヒカンの頭がさく裂する。
「やってくれるねえ、お兄さん。次は俺と対局してくれるんだよなぁ?」
サン・マイケルはネクタイを緩める。それは本気で指すという証だ。
「力づくでも通して貰うぞ」
「やってみな。Kの貴公子と呼ばれるこの俺に勝てるならな!」
二人は振り駒を済ませると、手番など関係無しに指し始める。
所詮、この世は弱肉強食。強いものが勝ち、弱いものが負けるのだ。
「ああ、コマジロウさんが押されている!」
青年の叫び声通り、コマジロウの駒が少しずつ減らされていく。
「ぐう」
苦痛に顔を歪めるコマジロウ、サン・マイケルはその隙を逃さなかった。
「悪いが、ここらで決めさせて貰うぜ!」
サン・マイケルはスーツの懐から、チェスで使用するキングを取り出した。
「一マイケル、二マイケル、三マイケルぅ! 行くぜ! 伊藤流! 天使の跳躍!!」
将棋盤の上に突如舞い降りる三体のキング、Kの貴公子のKはKingのKだったのだ!
ただでさえ劣勢だった、コマジロウに新たな災厄が降り注ぐ。だが、ここからが本当の将棋なのだ。
「サン・マイケル。貴様に一つ教えてやろう。チェスはキングを取られたら負ける……とな。はあああああ!あたたたたたた!!」
コマジロウの音速の拳がキングを穿つ、あっという間に砕け散る三体のキング。
「チェックメイトだ。おとなしく逝くがいい」
「やぐらぁあ」
サン・マイケルのスーツが破れ、はるか後方へと弾け飛ぶ。
コマジロウはキングを殴る際にサン・マイケルにも攻撃を加えて居たのだ。
「凄い! あの、サン・マイケルを倒した。コマジロウさんなら本当に、伊藤流帝国を滅ぼしてくれるかもしれない!!」
離れて見ていた青年がコマジロウに駆け寄る。
「勘違いするな。俺の目的はただ一つ、ワットナーブの首を取るだけだ」
コマジロウは歩を緩めることなく、帝国へと足を踏み入れて行くのだった。
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