世紀末棋風列伝 コマジロウ

くるる

第1話 コマジロウ、天丼市に立つ

199X年 地球はかつてない将棋ブームに包まれた!

だが、ブームは良い影響だけでは無かった!

ツゲの木は切り倒され、日の丸一の駒の生産地である、天丼市は伊藤流と名乗る悪の集団に占拠されてしまう!

将棋ブームに陰りが見えるかと思えた、その時、一人の男が立ち上がった!

男の名はコマジロウ、一子相伝の駒並べである大橋流を使い、将棋を取り戻すのであった!!


 山形県天丼市、かつては将棋の駒の生産地として栄えていた街も、今では見る影も無くなっていた。

 伊藤流を名乗る集団は、賭け将棋で住民達から、財産を巻き上げ、巨大な帝国を作り上げていたのだ。


「ヒャッハ~! 振り駒だぁ~!!」


 モヒカンの男が気の弱そうな青年に駒を投げつける。


「ひっひい、やめてください。私は将棋は指せないんですぅ~」

「はぁあああ? そんなことはどうだっていいんだよ。俺が勝ったら、てめえの娘は俺のもんだ~」


 モヒカンは有無を言わさずに歩を突くと、チェスクロックを叩いた。


「ひゃっはあああ。一手三十秒切れ負けだ~。さっさと指しなぁ~」


 青年は震えながら駒を進め、チェスクロックを力無く押す、モヒカンは強引にコマを取りながら、脅すように大きな音を立てチェスクロックを叩いた。


「うっううう、このままでは娘が。誰か、誰か、代わりに指してください」

「ひゃっはああ、無駄無駄無駄ぁ!この街の段位者はみな、伊藤流に属したんだよ~。代わったとしても級位者如きに俺が負けるかよ~」


 形勢はあっという間にモヒカンの勝勢になった。その時、一人の男が声をかけた。

 男は見るからに筋肉質であり、レザースーツに肩パッドをつけた服、将棋とは無縁な外見に見えた。


「俺が変わろう。代わりにモヒカン。俺が勝ったら、この男の居場所を吐いて貰うぞ」

「あ~?俺を伊藤流だと知っててその口の聞き方か~?」

「知らん。お前の方こそ口の聞き方に気をつけろ」


 男はモヒカンの指を握ると、関節とは反対方向へ、へし曲げた。


「うひゃあああ、いてえ、いてええよおおおお」


 モヒカンは指を押さえながらのたうち回る。


「三十秒が経過した、お前の負けだ。俺の質問に答えて貰うぞ」


 男はモヒカンの頭を掴み、写真を強引に見せる。

 そこに躊躇や戸惑いはなかった。


「ひっ、ひいいいい。その御方は七冠の一人、ワットナーブ棋王!!」

「どこだ、どこにいる?」

「棋王はこの伊藤キングダムの中にいらっしゃる。お前のようなならず者はキングダムに入ることすら出来ないだろうがな!うげらぁあぁあ!!」


 男はモヒカンの頭を握り潰した。


「ワットナーブ。待っていろ。貴様からは全てを取り戻す!!」


 これが、青年とコマジロウの初めての出会いだった。

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