第四章/第十話 惑星開発姉弟のクリスマス
翌日の、昼のこと。
ぼくが
街の中心地から離れており、その高さも相まってだろうか、『白雪』の降下はまばらだった。半分以上の面積は本来の赤土が露出しており、白く染まった地も積雪は少ない。
視界を遮る遮蔽物は、なにひとつ見られない。
顔を少し上げるだけで、ナピの朱い空に飲み込まれるようだ。
空虚な記憶が、ぼくのもとに転がり出た。
そう――ここは、昨日の夕刻、エアリィオービスと、別離を交わした場所だ。
しかし今は、回顧に来たわけではない。
決して大きな丘ではなかったが、周囲に他に高い地形はなかった。この頂上広場からは、ナピの市街と荒野の様子がよく見渡せる。
ぼくがここに来た理由のひとつが、その景色を眺めるためだった。
ナピ市街では、主要な道路を遮る『白雪』のほとんどが、人力や手動による作業ドローンによって既に取り除かれていた。
しかし、少し街から視線を離せば、様相はまるで異なる。
ぼくの視界に開かれた荒野の一角は、あの降雪日から一切変わりない。広くなだらかな大地は、白い堆積物にすっぽりと包まれていた。
その中のある一点に、ぼくは眼を凝らす。
雪原の真ん中に、黒っぽい、見慣れない物体が転がっていた。この丘の上から見ると豆粒のような大きさだが、直径一メートル程度の機械と思しい。
その物体の箇所を終点として、雪原の上に引きずったような線状痕が見られた。また、なにかが炸裂して、『白雪』を円状にめくりあげたような跡も。
昨夜、メロウディア姉さんと、『スタッド管理官』の対決のさなかで。
操作権の支配を逆転されて、衛星軌道を外れ大気圏へと降下し、この街外れに墜落して爆発した、ヘカテー衛星妨害システム――ポリピュリオン衛星。
荒野に転がっていたのは、その残骸だった。
『白雪』よりも暗い色の白衣を纏った、人々の一団の姿も見られた。彼らは、黒焦げた衛星の残骸を取り囲んでいる。
大宙域警邏軍に所属する、科学捜査官たちだった。
彼らは、墜落したポルピュリオン衛星を対象として、機器を用いた検分を行っているのだ。
遠くからぼくが眺めている間にも、彼らの作業は黙々と続いた。
数台の軍用
昨夜、メロウディア姉さんの超遠隔逆ハッキングによって完了した、ヘカテー衛星群の機能回復。
その直後には、非常事態を示す
基地の反応は、たった七時間後の今朝の未明、街の人々の前に現出した。
宙域警邏軍の巨艦が、ナピの街の上空に、突如として飛来したのだ。
一週間に渡って続いた、未知のマイクロマシン・システム『白雪』による、一行政区の完全無線通信不通と、その隠蔽工作。
警邏軍艦隊の指揮官たちは、市長室をはじめとする公共機関との会議を経て、この小さな街に巻き起こっていた事態の重大性を、理解したようだ。
そして、『白雪』の排除と更なる調査を目的とした追加艦隊を、近日中に街に寄越すと決定した。
この銀河系世界を跋扈し、数々の犯罪に手を染める人々――宙賊。
その中に、『演劇団』と呼ばれる、悪名高い一党がいたことを、ぼくははじめて知ることになった。
彼らは、入念な調査と下準備を行った後に、大胆な嘘と虚偽の身分をひっさげて、行政区の人々の前に劇的に現れる。
『演劇団』の最大の武器は、四方八方、舌先三寸の嘘偽りだ。
虚実を織り交ぜて、危機の演出や甘い言葉も駆使して、現地の人々を騙し、誘導する。
機を見計らって、任せられたクレジットや貴重品を持って、逃げ去る……。
以上が、『演劇団』の主な手口なのだという。
そして、その首魁こそが、スタッド管理官――を騙っていた、あの男だったのだ。
管理官の部下を名乗った制服の三人組も、もちろんその一味だった。
『演劇団』のターゲットは、比較的大きな予備クレジットを持つ中規模級の行政区か、大規模行政区中の、地理・情報的に孤立した地域なのだという。
それではどうして、今回、予備クレジットも少ない辺境の惑星ナピが、彼らに狙われたのか。
姉さんによれば、彼らが入手したばかりの通信妨害兵器――『白雪』の特性が影響していたようだ。
まずナピには、通信妨害を外から勘づかられる恐れのある、他の行政区が近隣宙域にない。そして中継基地からの距離も遠く、孤立工作の安定した効果が見込まれる。
更に今回の計画は、彼らが手にした通信妨害用マイクロ・マシン・システム――『白雪』の、試験運用を兼ねていた。ならば騙す相手の規模は、極力小さい方が好ましい。
すなわち、本来は宙賊犯罪からは縁遠いナピが今回狙われた理由は、『銀河系辺境の小規模惑星である事実』、そのものにあったのだ。
昨夜、『スタッド管理官』とその部下たちは、街の警邏隊支局によって逮捕された。
実はメロウディア姉さんは以前から、市長室、警邏隊、
ナピの田舎街の職員たちの仕事ぶりも、あながち悪いものでもない――この話を姉さんに聞かされてから、ぼくは感心した。
丘の頂上広場は、決して広いものではなかった。
プラチナ・ブロンドの長髪を風に晒しながら、足元に広がる平地を見やるメロウディア姉さんの姿は、すぐに見つかった。
歩み寄ったぼくは、姉さんの横顔に語りかける。
「警邏軍の検分、行かなくていいの?」
姉さんは、ぼくの来訪に対して、たったひとつの反応さえ見せなかった。
白く染まった大地の様子を前に、微動だにせず、そっけなく答えた。
「もう、あらかた情報は知らせてあるし」
「――どうして、最初から教えてくれなかったんだ。『管理官』が、犯人だって」
その質問には、姉さんは違う反応を見せた。
風を受けながら、こちらに振り向く。
口を、への字に曲げていた。
「あのねえ」
視線を、ちくりとぼくに刺して、言った。
「そんなこと教えたりしたら、ケイヴィ君なんて絶対に動揺して、バレる可能性大でしょ。オービスちゃんへの意思決定にも影響が及ぶだろうし」
……それに、と付け加えてから、姉さんは続けた。
少しだけ、声を低く抑えて。
「『白雪』が降ってからは、わたしがケイヴィ君への干渉を、なるべく避けてたってのもある」
その姉さんの、僅かな声音の変化で。
ぼくは、ようやく気がついた。
まさか。
「――それが、姉さんがずっと家に帰ってこなかった、理由?」
「いやあ、流石にそれだけじゃないわよ」
メロウ姉さんは小さく息を吐いて、頭を横に降った。
「色々やってたの。昨夜のヘカテー衛星の機能回復は、あの時に全部済ませたわけじゃない。昨夜は、最後の処理をアウトプットしただけ。そこまで本当に、沢山の準備が必要だった。まず、機能の大半が乗っ取られた衛星のシステムを一部でも取り戻すために、『白雪』の電磁波に干渉されずに、わたしが長時間居座れる空間ね。奴らの眼が届かない
ぼくは、口を閉じざるを得なかった。
まったく、知らなかった。
――メロウ姉さんは、この一週間で、そこまでのことを行っていたのか。
『白雪』が降ってから昨夜まで、メロウ姉さんの動向が、ぼくには掴めなかった。まるで街の人々から隠れるかのような態度に、疑念と怒りさえ覚えていた。
だがそれも、当然の話だったのだ。
本当に、『管理官』たちから、そしてぼくからも、身を隠していたのだから。
丘の下から一望できる、『白雪』の積もった大地の上で。
科学捜査官たちによって粛々と続けられる、妨害衛星の検分。
それに見飽きてしまったかのように、隣のぼくにまた振り向いてから、メロウディア姉さんは語り始めた。
「あらためて、言うけどね。
今回の件で一番不確定で怖い存在だったのは、エアリィオービスちゃんと、彼女が属する集団だった。何者だったにせよ、あの
『スタッド管理官』率いる一味――『演劇団』の主目的は、ナピ全体を巻き込んだ『白雪』の実験と、市長室の持つクレジット権限の強奪だった。
しかし姉さんいわく、被検生体エアリィオービスという存在についても、曖昧な情報ではあるが事前に認知していたようだ。
そしてクレジットとともに、彼女についても『保護』という名の誘拐を試みていた。
オービスの体が保有する失われた技術たちは、端的に言えば、金になった。
「決定的だったのは、おととい。奴らのプライオリティがあそこで切り替わったのは、明らかだった。オービスちゃんの場所がついにわかったから、『総取り』に動いたわけ。……その原因って誰にあるか、わかってる?」
皮肉っぽい声を出した姉さんに、ぼくは小さく頷いた。
『管理官』に、エアリィオービスの居場所を知らせてしまった者。
ぼくだ。
今なら、完全に理解できる――おとといの対策本部で、『管理官』のもとに向かうぼくに、どうしてメロウ姉さんがしつこく付きまとってきたのか。
虚偽で塗り固められた宙族のもとに、ぼくをひとりで行かせられなかったのだ。
そもそも、あの朝にぼくを急かした原因の、一週間に一度の広帯域
メロウディア姉さんは、やがて雪原に視線を戻して、ぼやくように言った。
「実際のところ、市長室のキャッシュなんて、別に奪われてもよかった。けれど、オービスちゃんだけは、絶対に護らないといけなかった。だから……わたしも、ああいう手を考えたわけ」
――彼女を我々に、引き渡してほしい――
『スタッド管理官』が、あの落ち着きに満ちた声音で、ぼくに話しかけてきた様子を。
今でも、明瞭に思い出すことができた。
なにもかもが、虚偽だったのだ。
考えるだけで、恐怖が湧いてくる。
それを振り払おうと、ぼくは昨夜から抱いていた疑問を、姉さんに尋ねることにした。
「つまり、今回の一件は……」
正直に、言ってしまえば。
昨夜の姉さんの長い説明を聞いてさえも、ぼくは一連の事態の様相が、完全に把握できたとは思えなかった。
「……ふたつの『宙族』が、同時にこの星に来ていた、ということ?」
メロウディア姉さんは、ぼくをちらりと見てから。
それはなあ――と悩ましげに唸りつつ、首を横に傾げた。
「宙族の定義問題に関わるよねえ、その辺は。考え方次第なのよ。
見ようによっては、大宙域戸籍を与えられていない人は、全員宙賊ってことになりかねないからね」
「――ああいった人たちが、他にもいるの?」
「いるわよ、沢山」
雪原を見下ろして、「まあ少なくとも?」と前置きしてから、姉さんは続けた。
「わたしの辞書の中の『宙族』ってのは、人々を欺き、財産を奪い取るような、許しがたい犯罪者連中。
その定義には、オービスちゃんたちは当てはまらないんじゃない?」
どうだろう。
――
『宙賊』かどうか……ぼくに言わせれば、微妙なところだ。
もうひとつ、姉さんに尋ねたい質問があったことを、ぼくはそこで思い出した。
エアリィオービスに関するものだった。
「昨夜……姉さんは、自分が直接オービスに接触しなかった理由についても、言っていたよね。移動民族とか、あれが通過儀礼だったから……とか。
妨害衛星や『白雪』、そして『管理官』の企み。それらについては、ある程度は合点がいった、と思う。
――でも、あのオービスの話だけは、いまだに、よくわからないでいる」
ぼくの声音から、姉さんがなにを感じ取ったのかは、わからない。
隣のぼくに顔を向けて、不機嫌そうな眼で、こちらを睨んだ。
そして――深く、重い、ため息を吐いた。
「『通過儀礼』は、あくまでも、ただの昔の噂だからね」
そう前置きしてから、姉さんは、語り始めた。
――エアリィオービスという少女についての、姉さんの推論を。
「オービスちゃんについて、わたしはなにひとつ手掛かりが掴めずにいた。ただ、アストライオスの訓練生時代に、そういう噂を聞いたことがあった。本当にただの根も葉もないような話なんだけど、なにもないよりはマシに思えた。だから、わたしはその曖昧な話に頼ることにした。
……そういうことだから、実のところ、はっきりしたことはなにも言えない。その話の中に出てきた文化集団が、そのままオービスちゃんたちとは到底思えないし。
ケイヴィ君。それでも、聞きたい? ――あまり愉快な話とは、言えないかもしれないわよ」
姉さんの最後に告げた言葉が、ぼくの思考に重い反響を残した。
――愉快な話とは、言えない。
メロウディア姉さんは、中途半端な加減を好まない人だ。
だから、あえてぼくにそう言うということは、本当に不愉快な話である可能性を、暗に示唆していたのだ。
それでも、ぼくは知りたかった。
ぼくが頷いたのを見て、姉さんは低く喉を鳴らしてから。
まるであまり話したくないかのように、渋々と語りだした。
「かいつまんで言えば、その移動民族は、所属する若者に通過儀礼、あるいは義務を課するの。そこでは、ひとつのテンプレートが用意されているわけ。
ユニークなのは、なんて例えればいいのかな――そう、一種の『視聴者参加型企画』みたいな造りになってるところ。
『外部者』、つまり彼らのグループから完全に外にいる人物に、その展開の一端を委ねるってことよ」
エアリィオービスたちにとっての、まったくの外部の者。
つまり、それは。
ぼくのこと、なのか。
「わたしが耳に挟んだのは、彼らの成人の儀について。
まず、彼らは遥か以前から、伝統的で権威的な『物語』を持ってる。その話の対象に選ばれた若者は、そのストーリーとルールに徹底的に従属するかたちで、外の世界に放逐される。
そして、現地の『外部者』と一種の契約を結んで、自らを試すわけ――生存適応能力とか、判断力なんかをね」
……正直、ここまで細かく説明されても。
まだ、いまひとつ、わからない。
その部族とやらによって、『選ばれた若者』が、今回のエアリィオービスを指していることまでは、ぼくも理解できた。
しかし、『ストーリーとルールに従属』とは、いったいどういうことなんだろう?
きっと、ぼくの疑念が、そのまま顔に表れてしまっていたらしい。
メロウ姉さんは、ぼくをじろりと睨んでから。
一度、手で髪を掻き上げて、唸った。
「ああ、もう。まどろっこしいな。つまりはね、ケイヴィ君――」
珍しいことに。
――ここでメロウディア姉さんは、少しだけ発言を躊躇したように思えた。
視線を一度ぼくから逸らして、なにかを考えるような素振りを見せたのだ。
しかし、思案するのも、やめることにしたらしい。
姉さんは、正直に語ることを選んだ。
「あの、オービスちゃんとその仲間が、君の前でやっていたことは……」
そして、メロウディア姉さんは。
もっともわかりやすい、ひとつの言葉で、回答を示した。
「全部、台本だったのよ」
風が吹き荒む音が、遠い頭上から、聞こえた。
この丘の上からは、平地の様子が、よく見渡せる。
今、ふたりの捜査官が、中型の
――突風の音が、止んだ頃に。
メロウ姉さんは、ぼくに向けて、続けた。
『愉快とは、言えない話』を。
「……ケイヴィ君、不思議に思わなかった?
例えば、あの……君がいつも通ってた、谷間の位置。
船の不具合に襲われたオービスちゃんが、ナピのランダムな地点に不時着した――にしては、いくらなんでも、この街に近すぎるでしょう?」
……ぼくは。
姉さんに向けて、なにかを、言おうとした。
反論として活用できるような、なにかを。
だが、どのような言葉も、思い浮かばなかった。
そうだ。
――あの崖下の空間の、ナピの街との、『適度な遠さ』。
考えてみれば、それは、驚くほどに不自然な要素だった。
しかし。
ふと疑問に思ったことさえも、なかった。
あるいは、無意識の内に。
ぼくはそれについて、考えたくなかったのかもしれなかった。
「偶然だ――そう言いたい気持ちはわかるわ」
メロウディア姉さんが告げる声は、優しげですらあった。
「でも、理屈で考えれば、この星の唯一の街から三十キロも離れていないあの谷間が、不時着先に抽選される確率は、極めて低い――そう言わざるを得ない。
あの
彼女の台本に巻き込むための、外部者――つまり、『崖下に来る最初の人』を。
そして、たまたまそれに合致したケイヴィ君が、オービスちゃんの契約対象に選ばれた。
……それからのことは、ケイヴィ君の方が、良く知ってると思う」
愕然としていたぼくの様子を見て、「だから言わんこっちゃない」といった様子で、ひとつ息をついて。
姉さんは、締めくくった。
「彼女については、自らのコミュニティへの帰還というかたちで、『物語』は決着した。
その結果に対して、あの娘にどういう判断が下されたのかは、わからない。
なにはともあれ……ケイヴィ君の身に起こったことについて、わたしが言えることがあるとすれば、そんなところね」
丘の麓。
眼下に広がる、雪原では。
捜査官の搭乗した中型作業ドローンが、妨害衛星の残骸へと、徐々に近づいていた。母船内のラボへと、残骸を運び出すためと思われた。
ぼくとメロウディア姉さんの、
しばらく無言で、その作業の様子を眺めていた。
――もうひとつだけ。
姉さんに対する、最後の質問が残っていたことを、ぼくは思い出していた。
「……昨日の昼の、ぼくたちの口喧嘩のことだけど」
ただ、訊いた。
「姉さん、あれはどこまで、本気だったの」
振り向いたメロウ姉さんの表情を、ぼくは見た。
この丘の上で、初めて見る顔だった。
眼を丸くして、驚いていた。
声音も、明らかに動揺しているようだった。
「ケイヴィ君。……本気で訊いてるの?」
ぼくは、黙りこんで、ただ姉さんを見上げた。
メロウ姉さんはそこに、ひとつの回答を――ぼくの心からの願いを、見出したようだった。
低く抑えられた声で、やがて姉さんは答えた。
「最後、『森の館』に言及したことについては、本当に悪かったと思ってる」
そう告げてから、姉さんは視線をぼくから逸らして、丘の下の雪原へと戻す。
なにかを、逡巡していた。
しかし、やがて再びぼくの眼を見据えた、姉さんは。
まだ、若干の躊躇いを語調に滲ませながらも、答えを続けた。
昨日の昼、ぼくたちがぶつけあった言葉について。
「でも、あの時にケイヴィ君に話したことについて、どこまで本気だったか……。本当に正直に言わせてもらえば。そうね、わたしは――」
ぼくをまっすぐに見やる灰色の瞳に、もう迷いなどはなかった。
姉さんは、姉さんのスタンスを、宣言した。
「嘘をつくのは、嫌い」
昨日の口喧嘩の時に、ぼくたちが繰り広げた、感情的な応酬。
その中で、ぼくが姉さんに告げられた発言。
ぼくのエアリィオービスへの姿勢に対する、姉さんの考え。
――ずいぶん、楽しかったでしょうね。あのか弱い小鳥ちゃんを囲って、護りつづけるのは。
――あなたがあの洞穴で行っていたのは、自分勝手で欺瞞的な、ただのエゴの押し付けよ。
――あの崖下の洞穴こそが、あの娘に対して、あなたが絶対的優位に立てる場所で、その自尊心を満たせる数少ない空間だった。
――自己憐憫の甘い蜜を吸いたいんだったら、自分ひとりでやってなさいよ!
――嘘をつくのは、嫌い。
つまり。
あれらは、ぼくを怒らせるための演技ではなく。
姉さんの真意からの言葉であったことを、その回答は、示していた。
一陣の風が、丘の麓の遠いどこかで、甲高く鳴いていた。
――正直に答えてくれて、ありがとう。
ぼくも、はっきりと、そう告げると。
メロウディア姉さんに背を向けて、『白雪』のまばらな丘の上から、立ち去った。
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