第30話 神帝暦645年 8月24日 その19
食べれる草を採集し始めて、早30分が過ぎようとしていた。俺とヒデヨシの収穫はニン・ニックとシイ・タッケ、それにテング・ダッケである。
「って、待てや! なんでテング・ダッケを取ってんだよ! これはズブの素人でも知っているくらいの猛毒を持っているだろうが!」
「ウキキッ。味は最高なのですが、やはりダメでしたか。仕方ありません。ここは大人しくシッソで我慢しておきますウキキッ!」
まったく、これだから、ヒデヨシは油断ならねえ。味の良さよりも安全を第一に考えろっての。しっかし、近くに畑がなかったのが残念でならん。畑があればニン・ジン、ゴボ・オウ、ハックサイ、サッツマ・イモなどが手に入る季節だって言うのになあ?
「ウキキッ。農家の畑に忍び込むのはやめておいたほうが良いのですよ? 野菜泥棒は磔刑に処すなどの土地それぞれの処罰を科しているいる地方もあるのですからウキキッ!」
「ああ。なんか、ヒノモトノ国の
「ウキキッ。念には念を入れておいて損は無いのですよ。さて、そろそろお腹が空いてきたのですよ。アマノ殿たちと合流するのですよウキキッ!」
そうだな。大収穫だ! って喜べるほどの種類も量も採集できなかったが、館の中で何かあった時の非常食としてはこれで充分だろう。
「おう。んじゃ、集合場所に戻っておこうか。あいつら2人は、何を手に入れてくるかな?」
などと、ちょっとピクニック気分になっている俺である。そして、集合場所に戻った俺とヒデヨシが待つこと10分後、アマノとユーリも食べれる草採集から戻ってくる。
「お父さんーーー! 視て視てー! アマノさんに花かんむりを作ってもらったよーーー!」
「おお。これは見事な花かんむりじゃねえか。アマノは手先が器用だなあ。って、そうじゃない!」
「うふふっ。さすがツッコミを入れずには呼吸困難を起こしてしまうツキトなのですわ? 私も頑張って、花かんむりを作った甲斐があるというモノですわ?」
あかん。アマノとユーリを組ませたこと自体が失敗だったと俺は今更ながら思ってしまうわけだ。
「ウキキッ。食べれる草で花かんむりを作るとは、これは手が込んでいるのですよ。そのアホな方向で頑張るのはやめたほうが良いのではないですか? ウキキッ!」
「実益とお遊びを兼ね備えているのですわ? 一概にアホ呼ばわりされると、困りますわ?」
まったく。アマノの遊び心には参ったもんだぜ。そんな手の込んだ仕掛をされているとは、さすがに初見では見破れなかったわ……。
「ちなみに、
「えええーーー!? せっかくキレイに出来上がっているのに、
「そりゃそうだ。元はと言えば、館内に閉じ込められた時用の非常食として、食べれる草を採集してたんだからな。ユーリは残念無念と思うだろうが、そこは我慢してもらうぞ?」
「うーーーん。わかったーーー。渋々だけど、了承させてもらうよー。
「
そりゃ、ネズミはニンゲンから視たら、害獣に視えちまうもんな。神さまはニンゲンをこよなく愛していているって言われているし、そのニンゲンにとっての害獣に
「お父さんー。人前で鼻毛をむしるのは感心しないよー? いくら、あたしでもその行為にはドン引きするよー?」
「ん? いや、なんか、鼻がむずむずしちまってよ。そしたら案の定、鼻毛が2本ほど飛び出ててさ? 鼻毛がでぱっなしのほうが、ユーリたちも気になってしょうがないだろ?」
「うふふっ。なかなかに難しい選択を突き付けてきますわ? ツキトの言う通り、鼻毛が飛び出ているのを本人に教えるのはなかなかの心労ですし、目の前で鼻毛を抜かれるのも、それはそれで困ってしまうのですわ?」
「ウキキッ。男として産まれてきたからには、鼻毛が飛び出ているのはプライドに関わる大問題なのですよ。生え際が大きく後退しているヒトの場合は、自然と眼をそむけることが出来ますが、鼻毛は何故か気になってしょうがないですよねウキキッ!」
「あれって不思議だよねー。生え際が大きく後退しているヒトには気遣うことが出来ても、鼻毛が飛び出しているヒトにはすっごく指摘したくなっちゃうもんねー」
「ぼくは身体の大きさ的に、皆を下から見上げることになるのでッチュウけど、ツキトさんの鼻気はすっごくもっさりとしているので、いつ飛び出てくるのかと
ああ。そうか。ネズミのこっしろー視点では、俺たちの顔を視るときは、どうしても見上げてしまう角度になっちまうもんな。そりゃ、鼻の穴の中がどうなってるかなんて一目瞭然だわ。
「なんだか夢も希望もない、こっしろーくんの言い草だよねー。あたしは生まれ変わったら、犬とか猫になりたいなーって思ったことがあるけれど、飼い主の鼻毛を気にする生活は送りたくないなー」
「ぼくだって、視たくて視ているわけではないんでッチュウ。でも、どうしてもそうならざるをえないだけでッチュウ。ぼくの身体が皆さんと同じくらいの大きさだったら、そんなことはないはずなんでッチュウけど」
「それはそれで怖いよな。ネズミの背丈がニンゲンサイズだったらさ。俺、こっしろーに丸飲みされそうだわ!」
こっしろーが後ろの二本足で立ちあがり、俺の背と並ぶ姿を想像すると、薄ら寒さしか感じないのである。
「うふふっ。そう言えば、ヒノモトノ国の南の地方ではリザード・マンが生息していると聞いたことがあるのですわ? なんでも、トカゲがヒトのように2本足で立って、生活しているとかなんとか」
「冒険者稼業に20年以上携わっている俺でもリザード・マンはこの眼で実際に視たことは無いなー。ヒデヨシはどうなんだ?」
「ウキキッ。わたくしも噂でしか聞いたことは無いですよ? 彼らは湿気が多く暑い気候を好むので、北には移住したがらないみたいですしウキキッ」
まあ、ヒノモトノ国の南のほうなんて、
しかしながら、若いカップルが新婚旅行で行くには人気の土地なんだけどなあ。本土と違って、冬でも暖かいし、南ならではの果実や食べ物があるし。
「お父さんー。クエストでがっぽりお金を稼いだら、一度、
「んー。それも悪くはないんだけど、問題もあってな? 気温が高いと言うことは、それだけモンスターも活発化してんだよ。高温多湿なのは行き過ぎたら、ニンゲンにとっては害だけど、それを好むモンスターも数多く居るんだ。
「そうなんだー。でも、一度で良いからお父さんと南国に旅行してみたいなー。
「んー?俺はお前の水着姿なんて嬉しくもなんとも無いけどな? でも、アマノが1年中、水着姿ってのは良いな?」
「うふふっ? 年頃の娘にそんなことを言ったら、へそを曲げますわよ? ツキト?」
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