第29話 神帝暦645年 8月24日 その18
さて、食べられる草。食べられる草っと……。おや? これはもしかして自生しているニン・ニックじゃね? こりゃ良いモノ視つけたなあ。
「おい。ヒデヨシ。この草って、ニン・ニックだよな? こりゃ、今夜の酒のつまみには最高じゃねえか?」
「ウキキッ。お酒はクエスト中はそれが完了した時だけにしてほしいのですよ。しかしながら、良いモノを視つけてくれたのですよ。非常食にはもってこいなのですよウキキッ!」
ちっ! ヒデヨシは真面目だなあ。少しくらい、クエスト中に酒を飲んでも、依頼主に嫌な顔をされても、怒られやしないっていうのにさあ。
「ウキキッ。ツキト殿? 今年でもう40歳になったのでしょう? 休日中とかならともかくとして、クエスト中だと、次の日に影響が出るのではないか? と、わたくしは言いたいのですよウキキッ!」
へいへい。わかりましたよ。おとなしく、非常食用として取っておきますよ。あーあー。もったいない。自生しているニン・ニックは独特のクセがあって、酒の肴には最高なのになあ!
俺は心の中で文句を言いつつ、小さめの手さげバックの中に地面から掘り起こしたニン・ニックを10本ほど突っ込むのである。取りすぎては野生の動物たちの餌が無くなっちまうからな。
「ヒデヨシは何か良いモノを視つけたか?」
「ウキキッ。うーーーん。キノコを視つけたのですが、魔力の色からすると安全そうなんですが、なにせキノコですからねえ? ウキキッ」
ヒデヨシがその辺りに生えてる木の根元を指さすのである。俺はヒデヨシが何に悩んでいるのだろうと、そのキノコを眼で確認する。
「形としてはシイ・タッケだけど、こんな紅い色をしたシイ・タッケなんかあったっけ?」
「ウキキッ。キノコ図鑑を持って来れば良かったですね。もしかしたら、シイ・タッケの仲間かもしれませんし。これ、どうします? ウキキッ」
「まあ、わからないモノに手を出すのはやめておこうぜ? キノコは魔力の色で安全かどうかは判別しにくいからさ」
「ウキキッ。わかったのですよ。では、こちらの茶色のシイ・タッケを採集しておくのですよ」
なんだよ。茶色のシイ・タッケがあるなら、最初からそれを採集しておけよ。
「いや、待てよ? こっちの紅いほうも採集しておくか? カツイエ殿に毒見をさせるって方向でさ?」
「ウキキッ。それこそやめておいたほうが無難なのですよ? カツイエ殿に毒の類が効きずらいのは周知ですけど、カツイエ殿に食べれるモノが、わたくしたちで無事かどうかなんて逆にわかりづらいんですからね? ウキキッ!」
「そうだった……。そこを失念していたわ。あのひと、賞味期限が2週間過ぎた食材でも平気で口の中に入れるもんな。食べ物を粗末にするのはいけないのでもうす。賞味期限と消費期限は違うのでもうすよ? ってな。賞味期限が2週間も過ぎてたら、消費期限も切れてるっつうの!」
「ウキキッ。カツイエ殿基準でモノを考えると痛い眼を視ることが多いのですよ。もちろん、団長基準でモノを考えても痛い眼を視ることが多いのですよ」
「あれっ!? じゃあ、A級冒険者って、やっぱり基準そのものがおかしいって結論になるよな?」
「ウキキッ。その通りなのですよ。ニンゲンをやめているだけあって、色々とおかしいですからね? A級冒険者は。ですが、冒険者稼業をしている以上は、A級冒険者にはあこがれを抱いてしまうものですよウキキッ!」
「俺も冒険者稼業に足を突っ込んだ若い時分ではいつかはA級冒険者になってやるぜ! って息巻いてたもんだったぜ。あの頃の俺は若かったなあ」
俺は他にも何か食べれる草が無いかの作業をしながらヒデヨシにそう言ってしまうのである。
「ウキキッ。それは若い冒険者なら誰もが考えるモノではないですか? 例え、生活のために冒険者となったとしても、やはり、目指す先はA級冒険者なのですからウキキッ」
だよな。俺だけじゃないよな。そんなおとぎ話のような存在になれるかもって、皆、思っちまうよな。
「ウキキッ。ところで、少しだけ話は変わるのですが、ユーリ殿は現時点ではどの辺りまで登りつめようと思っているのですか? ウキキッ」
「さっきもそうだけど、俺には将来A級冒険者になって、俺を養ってあげるよーっては言っているな。でも、実際のところ、どうなんだろうな? 口には出さないけれど、B級冒険者辺りで落ち着こうかなとか? って思ってたりするのかなあ?」
「ウキキッ。一度、機会があったら、詳しく聞いてみたらどうなんですか? 今はともかくとして、A級冒険者に登りつめようと考えるなら、師を変えざるをえない時がやってくるはずですからねウキキッ」
ふむ。それは俺としては少し寂しい気持ちになってしまう。手塩にかけて育てたユーリを他のモノに取られてしまう。そんなセンチメンタルな気持ちが俺に去来するのだ。
「俺にユーリをA級冒険者まで育てあげることが出来る才能があればなあ……。そしたら、そんな寂しいことも起きないんだろうけどさ」
「ウキキッ。子供はいつか親元を離れていくものですよ。もし、ユーリ殿がB級冒険者よりさらに先を目指すようであれば、ツキト殿はおろか、アマノ殿でも手に余ることになるのですよウキキッ」
ニンゲンをやめた存在であるA級冒険者。そこに辿り着くにはその本人の才能だけでは足りないのだ。ニンゲンをやめた境地に立っている指導者が必要になってくるのはわかるんだ。だが、それでもだ。俺はユーリの師匠であり続けたいと思ってしまう。これはわがままなのだろうか?
「なあ、ヒデヨシ。俺ってわがままだったっけ?」
「ウキキッ。余り長い付き合いであったとは言えないですが、ツキト殿は充分、わがままだと思っていますよ? あと甘やかしすぎですね。普通、冒険者なんてD級まで
「えええ!? 俺はユーリに対して甘々だって言いたいのか? ユーリには才能があるんだ。それを団長が見込んだからこそ、俺に指導を一任してんだぜ? それを甘いと断言されたら、俺でも気を悪くしちまうぜ?」
「ウキキッ。少し言い過ぎたのですよ。自分のことを重ねてしまったのですよ。申し訳ないのですよ。ですが、やはりどこかで巣立ちをさせるべきなのですよ。この点に関しては譲る気はありませんよ? ウキキッ!」
ユーリが俺から巣立っていく日かあ。頼り甲斐のある男と結婚をして、家から出ていくことに関しては常々、悶々とはしているが、師匠と弟子の間柄で考えれば、どうなのだろうか?
ユーリは冬を越え、春になれば【
「いや。あいつはまだまだ視ていて危なっかしい。俺がしっかり人並みの冒険者に育てあげてやらないとな!」
「ウキキッ。さすがはわがままなツキト殿ですよ。でも、わたくしはそんなわがままなツキト殿が好きですよ? ウキキッ!」
「おいおい。アマノが居ないからって、こんなところで愛の告白はやめてくれないか? 俺には美人でおっぱいのでかい嫁とアホだけど可愛いひとり娘がいるんだからさ? お前の期待には応えられないぜ?」
「ウキキッ。それだけ軽口が言えれば、充分ですね。なんだか、少ししょげているように視えたので、愛の告白をしてみたのですよ。嬉しかったですか? ウキキッ!」
「けっ。言ってやがれってんだ。まあ、現実問題、ユーリが本当にどこまでを目指しているのかは聞いておかないとな。今はまだおぼろげかもしれないが、【
【
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