第7話 神帝暦645年 8月23日 その7
俺たちを乗せた箱馬車が
「よおおおし! ついに到着だ! おい、皆。さっそく荷物をそこの一軒家に運び込むぞ。30分後には、
俺の掛け声にアマノ、ユーリ、ヒデヨシが各々、左手を腰に、右腕を斜め上に突きあげて、おおお! っと雄たけびをあげる。
俺たちは箱馬車から飛び出し、一度、うううん! と背伸びをし、身体の筋を伸ばす。その後、箱馬車の後ろに括りつけてあった、それぞれの荷物を外し、寝泊まりする一軒家へと運んでいくのである。
「んっとー。ヒノキの棒と、呪符を30枚ほど持ってー。あと、水筒も忘れちゃダメだよねー」
一軒家に荷物を運んだあと、ユーリが自分の荷物をごそごそと漁り出している。今回のクエストでは、館とその周辺の見取り図は、依頼主側のタマさんが準備してくれたおかげで、
「おい、ユーリ。タマさんからもらった見取り図の写しを作ってくれないか? 出来れば、2人分作ってほしいんだけど?」
「うーーーん。ちょっと、時間的に厳しいねー。アマノさん、手伝ってもらえるー?」
「うふふっ。もちろんですわ? 観賞用、保存用、配布用の3セットをと3人分、作っておきたいところなのですわ?」
アマノさん? いったい、何を言っているのですか? 実際に使う観賞用と、もしもの場合のスペアと言う意味での保存用ってのはわかるんだけど、配布用って何?
「うふふっ。ユーリの初クエスト達成をご近所の皆さんに自慢するための配布用なのですわ? ユーリがどこでどうやって活躍したのかを、世間に広めるためのモノですわ?」
あかん。子煩悩すぎるぞ、アマノ。俺もユーリが今回のクエストを上手く達成できたら、団長あたりにその活躍ぶりを口頭で自慢するつもりだけど、さすがにユーリ活躍マップを作成してまで、ユーリの武勇伝を近所の皆さまに流布するつもりは毛頭なかったな……。
「ちょっと、やめてよー、アマノさんー。あたし、恥ずかしくて、ご近所を気軽に歩けなくなっちゃうよー」
「うふふっ。これもユーリに良い男性が言い寄ってきてくれるようにとの、私なりの配慮なのですわ?」
「言っておくけど、あたしの審査は死にかけの
「おい、ユーリ。俺が加齢臭で臭いかのような言い方はやめなさい。お父さん、年頃の娘にそんな言い方されたら、凹むからな!?」
「お父さんのは加齢臭だけじゃなくて、タバコの匂いもあって、ダブルで臭いんだよー。少しは禁煙する気はないのー?」
そんなこと言われてもなー? タマさんの説明じゃ、借りているこの一軒家で禁煙してクダサイなんて一言も言われてないわけだし? あと、俺からタバコを取ったら、ヤニ切れで、パニック症状を起こしてしまうじゃないですか?
「うふふっ。ユーリ? 言うだけ無駄なのですわ? ツキト? モンスターと対峙する可能性があるのですから、今の内に一服してくると良いのですわ? 私とユーリで見取り図の写しを作成しておきますわ」
おっ。アマノ、悪いね。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわ。台所かベランダで吸ってくるか。さすがに、タバコを嫌がるユーリの前で吸うのは、はばかれるってもんだしな。
「ウキキッ。本当にわたくしだけ馬小屋ってひどくないですか?ウキキッ!」
あっ。馬小屋に追い出されたヒデヨシが一軒家のほうにやってきたぜ。
「ヒデヨシ。どこかでタバコを吸いたいんだけど、近くに良い場所がなかったか?」
「ウキキッ? それなら、馬小屋の近くに小川が流れているので、そこで、わたくしと一緒に吸いに行くのはどうですか? ウキキッ」
「へえええ。小川が流れてんのか。それならタバコの火の後始末も楽だな。じゃあ、そこで吸ってくるか」
「お父さんー。タバコの吸い殻を小川に投げ捨てるのは感心しないよー?」
「別に環境破壊になるわけじゃないから、大丈夫だって。それに、タバコの葉は小魚たちの餌であるミミズとかの栄養になるんだぞ? 俺は小魚たちが立派な大魚になるようにと、配慮してんだよ」
「うふふっ。ユーリ? タバコを吸うヒトは脳みそが少しイカレているのですわ? まともに相手をするだけ、無駄なのですわ?」
なんかひどい言われようだが、聞き流しておこう。実際にタバコを吸っている俺でも、言っていることのおかしさは重々承知なわけだしな?
というわけで、俺はタバコ仲間のヒデヨシを連れて、馬小屋の裏手にある小川にやってくるわけである。ってか、本当に小川だな。川幅50センチメートルしかないじゃねえか。
「ウキキッ。ここは街から少し離れた田園地帯で、見晴らしが最高なのですウキキッ!」
「まあ、そうだなあ。でも、
「ウキキッ。そこは金持ちの道楽なのでしょうよ。そもそもとして、仕事場の館への移動には馬車を使うのでしょう? それなら、領主さまとしては何の苦労も感じないはずなのですよウキキッ!」
ヒデヨシが皮肉たっぷりに俺にそう言うのである。
「
「ウキキッ。
「まあ、
「ウキキッ。
ヒデヨシの言う通りなんだよなあ。
「【
「ウキキッ。ヒトが多ければ、それだけトラブルの種も増えるモノですから、そこは考えようですねウキキッ!」
と、こんな無駄話をしながら、俺とヒデヨシはタバコの煙をふかしつつ、ぼんやりと小川の向こうの景色を眺めるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます