背徳感

平たいお皿にのせられた

ガラガラした焦茶色の表面を

パリンと割る

やわらかな薄黄色の

とろりとしたクリームと

きりっとした黒の

バニラの粉が顔を見せる


ということを

初めて体験した

つまり

初めてクリームブリュレを食べた


まず思ったのは

私はこの光景を

何かの本で読んだことがあった

ということ


食べる時には

本を読みながら想像していたよりも強い力を

スプーンにこめる必要があった


次に思ったのは

おいしい

というシンプルな感想


ほろ苦いカラメルと

その下のクリームの甘さが絶妙

バニラも柔らかな風味で好き


そしてその次に思ったのは

私はこれを家で食べたい

ということ


あのこと一緒に

あのひとも一緒に

揃いのスプーンを、せーの、と持ち上げて

お行儀のことなど知るもんか

誰の目も憚ることなく


「割れたー」と、

ケラケラ笑い合いながら食べたい


そういうことを、

雀色の紅茶と一緒に飲み干した


クリームブリュレ

私に作れるのだろうか

あのこも一緒に作れるのだろうか

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る