2-9 二子殺し
「……水谷殿にとってはわが子同然。少しでも危険にさらされる可能性があるならば、身を挺して戦う覚悟らしい。」
夜……多田は兼平の滞在する町はずれの八幡宮へ密かに赴いた。かつては堂々と行けたのであろうが、状況だけに“密かに”である。
兼平は多田に問いかけた。
「急にそこまで……何がそこまでさせたのだ。」
「大変申しにくいが……滝本殿の持っていた密書だ。為信が大浦の血筋を根絶やしにした証拠だと……。」
兼平は嘲笑った。
「ほう、我が主君がそのように見えると。」
多田は慌てて首を横に振る。
「申したではないか。少しでも可能性があるのならば、水谷殿は為信につかぬ。それを上回るような、大きな確証がない限り。」
…………
見様によっては、結果として為信が大浦家に入ってから起きた出来事。戌姫は出家し、先代の残された子供らは死に絶えた。為信が内側から大浦を食い散らかし、それでいて己は勝手に選んだ女と子をなした。そこに大浦の血は一滴たりとも入っていないし、いまや大浦の家名自体、“津軽家”に変わっている。
同じような目に浪岡北畠も遭うのではないか。現に起きていたではないか。いずれ為信の子を養子として入れられ、家名を盗る。その時ほかの一族は用済み。殺される運命。このように疑心暗鬼にさせられたところで偽の密書でもみせれば、ころりと落ちる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます