2-8 二の舞

多田は語る。


「先の浪岡での戦のこと……川原御所の一族が誅せられたことは存じておろう。」



 それはもちろん兼平も知っている。永禄五年(1562)なので、十五年も前の出来事。弟が兄の家を討ち、その混乱をおさめたのが浪岡北畠一門の長老、北畠顕範である。当時残された御子は今や成長し、御所の北畠顕村となった。


「実はの……長老は川原の子も拾っていたのだ。“反乱の首謀者の子ではあるが、同じ北畠の血を継ぐ者。育てて浪岡の忠臣とすべし”と。」


 兼平は問うた。

「……ということは、子の水谷利顕は北畠の血筋か。」


 多田は頷いた。そして恐る恐る口を開く。


「……滝本殿は言った。いずれ為信は北畠の血を根絶やしにするつもりだと。最初はいい顔をしているかもしれぬが、中央の様子を見てみよと。織田信長は浪岡の主家筋である伊勢北畠を滅ぼしたではないかと。」


「あれとは話が違うだろうが。確かに伊勢北畠はそのような道を歩んだかもしれぬが、浪岡はそうはならぬ。我ら主君はそのように考えてはおらぬし、そこは私兼平が保証する。」




多田は顔を下に向ける。


「……確かにあなたは、真人間だと思う。接してきて十分にわかる。」



 ……戻らぬ多田を探して、誰かがうろついている。これはまずいと兼平は後で話そうと無理やり約束し、すぐにその場より退散した。

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