揺れる笹と竜胆
2-6 狂い
為信の命を受け、兼平綱則は浪岡で一年に渡り交渉を続けていた。そのなかでも浪岡北畠氏の両管領と言われる二氏……多田氏と水谷氏であるが、為信に与することに傾いていた。浪岡の旧来伝統的な家臣であったが、あくまで浪岡とは違うそれぞれの土地を治める領主であり、為信の躍進に怯えていたのが原因だ。故に南部のこの二氏は御所である北畠顕村を説得。他の家来衆……補佐氏を筆頭に石堂氏・菊池氏・朝日氏などは、御所そうなさるならばそれに従うと表明。尾崎氏などは率先して為信に付くべしと訴えていた。
為信の唱える大義名分……。岩木川水系の一元管理。田畑を広げるには治水が必要。治水のためには川沿いに位置する諸勢力が一つの意志を持って動く必要があり、そのための“津軽統一”である。
これまで南部氏しが実効支配してきた時代に、はたしてこのようなことをしてくれただろうか。であれば民の為にもなるし、多くの者の領地に大いなるプラスだ。収穫も上がれば懐に入る富も増える。
だが、一人だけ異を唱える者もいた。浪岡北畠氏一門で長老の北畠顕範である。南部氏の力が弱まった今こそ独立独歩で行くべきで、誰かに助けてもらう道を選ぶのではなく、自らのみで強くなる道を歩もうと主張。
……一方で彼を煙たく思う他の家臣ら……為信に従ってしまった方が楽なのにと思う者らは顕範の追放を画策。そこで沼田はその手引きを主導。こうして表では兼平が、裏では沼田が、二面から浪岡を手中におさめようと奮闘していた。
ただし、策動に狂いが生じる。兼平の封書にはとんでもないことが書かれていた。
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