2-4 殺さずにて

 沼田は、廊下より光る障子戸の前で座す。手元を少しだけ開き、“もし”と為信を呼ぶ。為信は徳姫と赤子を愛でていたが、急に違う方から声が聞こえたので、驚くのはもちろんだがそれとは別に現実に戻されたような気がした。


 為信はその平和な空間より退き、沼田と共に奥の書斎へと向かった。……二つの揺れ動く灯は、徳姫と赤子のいる一室より離れていく。次第に小さくなり、しまいには消えた。……ただただ赤子は目をつむり、徳姫も娘を抱きながらいつしか眠りにつく。



   …………







 さて、沼田は為信にいう。

「亡き森岡殿、死して当人にとってもよきことでございました。」



 為信は少しだけ顔をしかめつつも、その言葉に頷いた。


「天寿を全うできたことは喜ばしいこと。」



 為信は沼田の顔を見た。沼田は笑みとも違う、ある意味で一種の軽蔑に似た表情。……いや、軽蔑とも違う。よくわからない感じ。……人はなぜ意味のない行動をするのか。信念にとらわれ、全体とみることのできない男。そういう思いで死んだ森岡信治をみている。

 ……それでも沼田はかつて面松斎という名で占いもやっていたので、そのような行動をする人間が一定数いることはわかっている。だが考えが固まりつくとなかなか曲げられないことも熟知していた。



 ……結果的に、非情な決断をせずに済んだ。取り決め通り信治の跡継ぎである信元には遺領をこれまで通り治めることを認め、福村より和徳へ入ってもらう。

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