2-3 転がる先
為信は“もし子供らの母親が違う人物だったら”と思った時もある。……すでに無意味な問いだが。徳姫はよくやってくれている。心根が強く、その気丈さは為信の心の支えになる。……負い目もあるので為信が強く当たることもないし、傍から見たら和やかなよき夫婦である。
嫡男の平太郎、後に津軽信建となる人物だが、このときはまだ活発な小僧にすぎない。なにか疑問に思ったことはすぐに尋ねるし、なんでも興味をもつ。対して次男の総五郎、後の津軽信堅はあまり言葉を発しない。どうも静かな性格なようで、兄とは違いそんな活発ではないようだ。ただし不思議なことにこのように違っていても兄弟仲は良いようで、総五郎はいつも平太郎のあとをついて行こうとする。為信もかつては総五郎のように兄の後ろを追っていたのかもしれない。娘の富子はまだ生まれて間もないのでなんともいいにくいが、どちらかというと総五郎に似ている風はある。
子らの成長に目を見張る。夕餉の後、家族とともに一室で鞠など転がして遊ぶ。富子はその鮮やかな色合いのものを手に取り、じっと不思議そうに見つめている。やんちゃな平太郎は鞠を足でけり、わきの廊下へ転がして行く。総五郎は兄の相手をせんとばかりに追って行く。遊びにはルールはなく、もちろんルールが必要ならばルールを作るが、あくまでそれは子供ら自らが決めることだ。ただただ楽しさを求め、その中で新しきことを知る。
……廊下の角に光る一つの灯。そちらのほうへ鞠は転がる。その鞠を拾うは沼田祐光。子供二人は当然彼を見知っている。平太郎は上に手を伸ばして、笑顔で鞠を求めた。沼田は“夜は危ないですよ”とだけいい、やさしく平太郎へ返す。沼田はその足で為信のいる一室へと向かうのである。
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