2-2 家族

 為信は夜が明けた後、福村館より引き上げる。道中では田植えを始めようと、農夫らが妻や子らもひきつれて総出で田んぼに入っている。苗を植える者はもちろん、脇をめぐる水路にたまる泥をかき取る者、牛馬をひきつれ植える前の土の地均しをする者など、それぞれの役割がある。皆々生き生きとしており、それはいずれ来るだろう秋の実りを期待させる。


 だがこれらの景色の大前提として、津軽の平和を守る我らの働きが必要だ。さらには為信の掲げる二大看板“防風”と“治水”を成し得ることができたならば、さらに田畑は広がり、飢える者はいなくなるだろう。


 大きな馬に乗る為信の横で、別の馬に乗る沼田祐光が話しかける。




「今年も順調ですな。」



 為信は頷く。

 そして今一番の課題が解決できればなおよろしいことか。できれば大きな戦は避けたいものだが……。




 ……快晴の大空の中、為信らは大浦城へ戻った。門では赤子を抱える正室の徳姫と、二人の小さな息子二人が出迎える。徳姫は笑顔で主人の苦労をねぎらうように軽く一礼をした。その様をみた三歳の平太郎と二歳の総五郎。母親のしぐさをまねて、頭を父親に向けて下げてみる。その様子がとてもかわいらしく、為信はこれまでの考えていたことなどどこかいってしまうくらいだ。

 為信は平太郎の頭をやさしくなで、総五郎は自らそばへ駆け寄って為信の脚をつかむ。……ただし為信には少しだけ戸惑いもあるのだが、いつも心の奥底へしまっており、他の者へ見せることはまずない。

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