1-5 たたみかけ

「断ります。」





 三人は唖然とした。予想外の言葉に、信治は狼狽した。そして大声で怒鳴る。


 「なぜでございましょう。正室の地位も奪われ、大浦の血を伝えるのはただ一人。いまでこそ家来衆は為信に従っておりますが、正当な者が立つとなれば、こちらに付く者は多いはず。」


 信治はあろうことか仙桃院を睨んだ。対して仙桃院はやっとで動揺が落ち着いたようで、きつい目で信治と対面する。


「確かに……私はまだ主人のことを恨んでいると思われる方も多いとは思います。……しかし私は出家の身。もう子供をなそうとは思いませぬし……」


 ふと外を見ると、子供らが覗き見ようと陰に隠れているのが見えた。かといって咎めることをしない。


「こうして戦で父母を失った孤児を育てるのも、主人に恨みが向かうのを防ぐため。野良に陥れば日増しに悪しき心へと変わり、それはいつか牙をむく……。」




 信治は心の中で“もう主人ではないだろ”と思ったが、それはあえて言わない。顔だけ後ろを向き、板垣と子の信元に顎で指示を出した。


 信治は彼女へとわざと恭しく話し出す。



「そうですか。そのようですな……。わかりました。……次にお見せするのは、弟の鼎丸様と保丸様に関しての密書でございます。」

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