5-6

 しばらく歩くと十字路に差し掛かった。

 ちょうどここでお別れになるらしい。

「少年! ちゃんと書いてくるんだぞ!」

「声がでかいよ。分かってるって」

「じゃあね、美鈴」

「うん♪ バイバ~イ」

「また明日」

 適当に手を振って挨拶すると、すぐにみんな見えなくなった。

 俺は美鈴と一緒に家に帰る。

 いつも通ってる道なのに、普段とは違う景色に見えた。

 どこか世界が華やいでいる気がする。

 すると美鈴が笑顔で俺の腕に抱き付いた。

「いっぱい買って貰っちゃった。涼ちゃん分けっこしよ」

「助かる。正直腹ぺこなんだ。普段はこの時間に帰らないからな」

「はい、あ~ん♪」

「・・・・・・さすがに食パン丸ごとはきついよ」

 しかも切られてない一斤丸々だ。

 美鈴は恥ずかしそうに唇をとがらす。

「もうっ。照れなくていいから♪」

「いや、照れてもがっ」

 うん。味がない。

 結局俺は晩ご飯が腹に入るかの心配をしながら食パンを食べて帰った。

 夕焼けに照らされ、俺も美鈴も食パンも包丁も赤く染まる。

「ゲーム、楽しみだね~」

 笑いかける美鈴に俺は頷いた。

「そうだな。けど、正直怖いよ」

「怖い? どうして?」

「・・・・・・だって、失敗したら俺の責任だろ? そのせいでみんなの労力が水の泡になると思うと、さ」

「あはは。そんなことまで考えないでいいと思うよ」

 入れ込みすぎている俺を見て美鈴は苦笑いした。

 美鈴の反応は正しい。

 実際、たかが部活だ。

「まあ、そうだろうけど」

 俺は夕空を見上げる。

 たかが部活でも、俺は今まで責任ってものを追ったことがない。

 いや、追うことから避けていたんだ。

 でも、もう逃げられない。

 ここで逃げたらこれから先、どんな時でも逃げると思う。

 だけど、やりたいことと正面から向き合うのはやっぱり怖かった。

 ・・・・・・そうか。姉貴もこんな気持ちだったんだな。

 色々偉そうに言っておいて、俺はこんなことも分かってなかったんだ。

「やるからには真剣にやらないとだめなんだと思う。作品の為にも、仲間の為にも」

 そして、俺自身の為にもだ。

 俺が決意の目で夕日を見ると、美鈴は優しく微笑んだ。

「うん。がんばって。誰がなんて言っても、わたしだけは涼ちゃんの味方だから」

「おう。心強いよ」

 そこから10分程、俺達は子供の頃みたいに手を繋いで帰った。

 家に着くと美鈴が俺に手を振った。

「じゃあがんばってね。涼ちゃん♪」

「なるべく早く書くよ。美鈴もいいのができたら聞かせてくれ」

「うん。まかせて。じゃあね」

 美鈴が帰宅するのを見届けると、俺は走って家に戻った。

 時間がない。

 もったいない。

 こんな気持ちになるのは初めてだった。

 俺は勢いよく玄関のドアを開けた。

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