5-5
放課後まで学校にいるなんて俺にとっては初めての体験だ。
公認ではないけど部活動ってことになる。
これも俺の中では初めてだった。
中学の時も結局決めきれずに時間が経ち、今さら入るのもなと入部を諦めている。
学校帰り、俺達は並んで帰った。
女子四人に男子一人なので気恥ずかしさはある。だけどそのうち男子の部員も入ってくるだろう。
近くのコンビニで買い食いに入ると、アニメのキャンペーンポスターを見て釘笠が自慢げに語り出した。
「ふふん。この脚本をやっている男も実はエロゲのシナリオを書いていたんだ」
「公共の場でエロゲとか言ってんじゃねえよ」
俺は釘笠の頭をポカリでぽかりと叩いた。
しかし同時に感心していた。
このアニメは俺でも知ってる。
今映画をやってる青春アニメだ。
CMもよく見るし、ネットでも話題になっていた。
この作品を作ったのがエロゲのシナリオライターだって?
・・・・・・それなら、俺もいつかは・・・・・・・・・・・・。
「わたしもいつかは、この作品のようにたくさんの人の目にとまるものを作りたいと思ってる」
釘笠は楽しげにそう宣言した。
こいつ。
俺が言いたくても言えないことをさらっと言いやがる。
こういう時、バカは羨ましい。
俺はわくわくしながら語る釘笠と同じ方向を向いた。
「・・・・・・そうだな」
もし俺の作品を何十万、何百万の人が見てくれたら、どんな気持ちになるんだろうか。
きっとそれは、達成した人達にしか味わえない気分なんだろう。
釘笠はにんまりと笑って俺の肩を叩いた。
「その為にはエロゲに市民権を獲得させねばならない! まかせたぞ少年!」
「あ、それは無理です」
そんな話をしていると、石川がやって来て、俺からポカリを取り上げ、かごに入れた。
よく見ればかごの中にはお菓子やジュースがたくさん入ってる。
「これだけでいいの?」
顔を見上げる小さな石川に、俺は頷いた。
「うん。え? いや、自分の分は自分で払うよ」
「今日は新しくメンバーが入ったらから奢る」
「そ、そうか?」
「そう」
「まあ、それなら」
「経費で落ちる」
経費?
え?
高校生にそんなことができるのか?
疑問を抱く俺を無視して石川はレジにかごを置いた。
そしてやる気のないアルバイトの店員に淡々と告げる。
「領収書お願いします」
「宛名はどうしますかー?」
「株式会社アップルゲームズで」
「わっかりましたー」
領収書の発行が慣れてる女子校生ってどうなんだ?
石川は猫の財布から一万円札を出して会計した。
俺が見る限り、小銭は見えなかった。
「はい」
店を出ると石川は小さな手で俺にポカリを渡した。
後ろの女子共はたくさんのお菓子をビニール袋に蓄え、分け合っていた。
なんだか奢って貰ったのにすごく損した気持ちになった。
ポカリを見つめる俺に、石川はほんの数ミリだけ口角を上げた。
「がんばって」
「・・・・・・がんばります」
その微笑はみんなが来るとすぐに消えてしまった。
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