5-5

 血を見ないで済むことに安心した俺は、次なる人材を思い浮かべた。

「あとは声優か・・・・・・。姉貴は論外として、そうなると・・・・・・」

 その時、部室のドアが開いた。

 美少女のおしりにハイライトを入れている石川を除く俺達三人は一斉にそちらを向いた。

 そこには神村がいた。

「あのー、釘笠さん? これ、返しに来たんだけど・・・・・・って、あれ? 中杉に美鈴じゃん。どうしたの?」

 神村は鞄からデカイエロゲの箱を取り出して止まった。

 それを見て釘笠が嬉しそうに近づいていく。。

 どうやら神村に懐いているらしい。尻尾が見える。

「神村さん! どうだった? 面白かった?」

「え? ああー・・・・・・うん。・・・・・・すごかった。特に最後とか気持ちよさそうだったね」

 しっかりやってんじゃねーか!

 それを聞いて釘笠の目が輝く。

「そうか! 他にもおすすめのゲームをたくさん持ってきてるんだ! 是非持ち帰ってほしい!」

「あはは・・・・・・。ありがと・・・・・・。でももっとソフトなのでお願いね。箱も小さいのがいいかな」

 神村は困った笑いを浮かべた。

 紙袋を釘笠に渡すと、神村は俺の方にやって来て尋ねた。

「・・・・・・で、中杉は何してるの? こんなとこで」

「・・・・・・なにをしてると思う?」

 神村は部屋を見回した。

 喜ぶ釘笠、ご機嫌な美鈴、黙々とお尻を塗る石川、そして俺。

「パーティー?」

「どんなパーティーだよ」

 俺の質問も悪かったが、神村も大概おかしい。

 どこの世界にパーティー中ロリキャラのお尻にハイライトを入れる奴がいるんだ。

 神村の質問に美鈴が代わりに答えた。

「みんなでゲームを作るんだって。涼ちゃんがお話を書くの」

「へー・・・・・・。ゲームねー・・・・・・」

 神村が俺へ向ける視線は明らかに侮蔑の感情が交じっていた。

 だから、エロは書かないって。

 じとっとして目の神村に美鈴は笑顔で提案した。

「そうなの。それでね。今ちょうど皆で声優さんがいたらなーって話してたの」

 声優。

 その単語を聞いて神村は魚を見つけた猫みたいに飛びついた。

「え? 声優? はいはい! あたしやりたい! ・・・・・・あ、でもエッチなのはNGで」

 挙手をしたと思ったら指でばってんを作る神村。

「まあ・・・・・・、その・・・・・・、中杉がどうしてもって言うなら考えるけど」

「うん。言いません」

 恥ずかしがる神村に俺は即答した。

 どうやら俺はクラスメイトに自分の書いたエロゲの声優を頼むような男に見えるらしい。

 どんな男だ。

 神村の返事を聞いた釘笠はこの上なく喜んだ。

「釘笠さんもやってくれるのかいっ!? すごい! 今日でライターとサウンドとボイスまで手に入れた! ああ、帰りにマイクとオーディオインタフェースも買ってこないと! 盆と正月とクリスマスが同時に来たみたいだよ! こんなにもらって大丈夫なんだろうか? ありがとう! エロゲの神様!」

 釘笠は目をキラキラと輝かせていた。

 まるでクリスマスに吊していた靴下の中に、欲しい物が全部買えるだけの札束と面倒だからこれで買えと書かれた手紙を放り込まれていたのようだ。

 大体エロゲの神なんて御利益どころか祟られそうな神様に礼を言うな。

 動き出すと案外こういうものなのか、事はとんとん拍子に進んでいった。

 しかしこうなると俺の責任は重大だ。

 イラストも場面に合わせた音楽も、もちろん台詞の収録も、脚本がなければ進まない。

 いきなり背負わされた重責に、さっそく俺の肩は凝ってきた。

 一方で焦りとは別にやる気が湧いてきたのも事実だ。

 俺は釘笠に頼んだ。

「あのさ、パソコンってもう一台あったりするか?」

「もちろんだ少年!」

「だから少年はやめろ」

「悪いがもう無理だ。口癖になってしまった」

 なにが無理なんだ?

 釘笠は嬉しそうに奥から見覚えのあるノートパソコンを持ってきた。

「あれからまた拾ってきたんだ。ここは二階なのに全くの無事だった。やはり昔のパソコンは丈夫にできてる。大丈夫、ノーコン先生入れといたから。って、ええ!? どうしてまた投げるんだあ!」

「なんで俺のはこんなボロなんだっ! MEとかふざけてんのか!」

 俺はまた窓からパソコンを放り投げた。

 しかし結局また釘笠は拾ってきて、またこいつは無事だった。

 もはや呪いのパソコンだ。

 俺は仕方なくこのパソコンで物語を書くことになった。

 悲しいことに俺の愛機は気を抜けばブルースクリーンになる代物だ。

 隣では釘笠に使い方を教えて貰っている美鈴が今年モデルのパソコンを操っている。

 俺が数メガバイトのテキストファイルを開くのに苦労している尻目に、美鈴達は数ギガバイトのソフトウェアを気持ちよく扱っていた。

 この格差はなんだ?

 しかし残念ながらこんなパソコンでもシナリオを書くくらいのことはできてしまう。

 自分のパソコンを持ってない俺にはこのボロでも貴重だった。

 その後、俺達には石川からそれぞれ課題が出た。

 まず俺はプロットを書くこと。

 プロットとは話の設計図みたいなものらしい。

 それと導入部分を書いて来いと言われた。キャラクターや舞台の指定だ。

 美鈴はテーマ曲を作るように言われ、台本が出来上がっていない神村は演技力の向上を命じられた。

 釘笠は俺と打ち合わせをしたあと、ヒロインのキャラクターデザインラフを一〇枚描けと言われ、言った石川は今月末に迫った同人ゲーの納期に間に合わせる為に作業を続けた。

 五人しかいないサークルで既に2ラインも動いている事になる。

 暗黙の内にリーダーは決まっていた。

 色々思うことはあるが、一つだけみんなが共有している気持ちがある。

 俺達は、タマさんについて行こうと心に決めた。

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