4-12

 姉貴の部屋は泣き声で占拠されていた。

 さっきまで大人しかった女子勢が鼻をすんすんさせて、ハンカチ片手に泣いている。

「わーん・・・・・・、ヒカルちゃーん・・・・・・。ありがとうぉ・・・・・・。ありがとうぉねぇ・・・・・・。わたしの元に来てくれてえ・・・・・・」

 姉貴はまるで自分の娘を思うようだ。さっきから俺の腕を、手と腕と胸を使って抱きしめているので鬱陶しい。

「よかったですっ! すっごくよかったですっ! あたし感動しました!」

 神村は涙目ながらテンションが高い。

 美鈴も似たような表情だ。

「うんうん。途中、幼馴染みが嫉妬するとこがよかったよ~。だって分かるも~ん。よく思いとどまったよ~。さすがに寝込みをグサっとはやらないよね~。やるなら通りすがりだよぉ~」

 美鈴は主人公にフラれた幼馴染みの子が気に入ったらしい。

 俺は泣きながら感想を言う三人を呆れと驚きの目で見ていた。

 話はまあ、よかったと思うけど、泣くほどではないかな。

 その証拠に俺の中にはあの虚しさがあった。

 小説を読み終わった時や、ゲームをクリアした時、卒業式に感じたあの虚しさだ。

 もうこれで終わりなんだって気持ちに近い。

 それでも俺としてはあのシーンをこうしたらいいとか、もっと二人の仲を書いた方がよかったとか、そもそも屋上解放部って何だとか色々引っかかりはあった。

 俺ならああするのに。

 俺だったら、こんな話を書くのにと想像を膨らませる。

 そんな気持ちを抱きながらストーリーを眺めていた。

 ゲームが終わったのは夜の7時。

 途中休憩を挟んだのも影響があるが、やっぱりシナリオ自体が長かった。

 だからこそ、こうやって時間をかけたからこそ感じられる気分を味わったんだろうけど。

「今日はわたしの奢りよ!」

 昼食に続き、俺達は夕飯も姉貴の部屋で食べた。

 興奮した姉貴が寿司を頼んでいる。

 俺はそれを見て、後々欲しかったアニメグッズが買えなくて弟に金を借りる姉貴の姿をありありと想像できた。

 寿司とジュースで俺達の感想会が始まった。姉貴だけ酒を飲んでいる。

「やっぱりキャラが可愛いよね~。新月は~。ヒカルも可愛いけど、ゆいゆいも可愛いし、なんて言ったって新井先輩が可愛いよ~」

 姉貴はでれでれした顔で語っていた。

「あたしはなぎささんの演技が凄くよかったです。同じ台詞でも、違う意味があるってちゃんと分かったし、泣くのを我慢しているシーンなんて最高でした!」

 神村は足を崩して床に手をついていた。

 褒められた姉貴は酒が入っているのもあって顔がとろけてる。

「えへへ~。ありがとー。他のキャラもみんないいよー。貸してあげるからやってみてね」

「いいんですか? ありがとうございます! 参考にします!」

 神村は姉貴からやけに大きいゲームパッケージを渡され会釈した。

 おい、委員長。流石にエロゲを借りるのはどうなんだ?

 姉貴も未成年にエロゲを貸してるんじゃねよ。 

 一方美鈴は俺の隣で寿司を取り分けてくれた。

 俺の皿だけやけにたまごが多い。

「はい。いっぱい食べて精を付けてね♪」

「・・・・・・ありがと。悪いな。巻き込んで。長かっただろ?」

 俺は割り箸を割りながら気遣った。

 美鈴は首を横に振る。

「ううん。お話も面白かったし、絵も綺麗だったから楽しめたよ。でも一番は音楽だねー。聞いててピアノ弾きたくなっちゃった。あれって楽譜とかあるの?」

「ネットで探せば見つかるんじゃないか? あとで見とくよ」

 美鈴は嬉しそうに笑顔になる。

「ほんと? ありがと。ほら、もっと食べて。刺激的なシーンもあって我慢するのが大変だったでしょ? 今夜は忙しいもんねぇ。あ、いつも通り部屋のカーテンは開けておいてね」

 カーテン?

 そう言えば俺の部屋のカーテンは開けっ放しがデフォだ。

「まあそうだな。今夜はちょっと忙しいかな。結局一日潰れたわけだし。収穫もあったからいいけど」

 俺はたまごをぱくんと食べた。  

 しかしこうやって見ると女子はよく食べるな。下手すれば俺より食べてる。

 まあ美鈴と神村はいい。若いし、細い。

 問題は姉貴だ。

 もし次にリビングで寝ても、俺は担ぎ上げないからな。

 でも一応、筋トレくらいはやっておくか。一応な。

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