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 この出会いに神村からブーイングが出た。

「何それ? 女の子が寝てる顔を見るのも最低だし、その後一緒に寝るっておかしくない? お礼したいってのはいい人だなって思ったけど。あ、だけどなぎささんの声は凄く可愛くて素敵です」

「ありがと♪」

 褒められた姉貴はご機嫌だ。

 一方俺は感情のスイッチを必死に切ろうとしていた。

「エロゲにリアリティーを求めるなよ・・・・・・。そんな事言ったら美少女が次々と現われる話なんて全部おかしいだろ。制服も髪の色もそうだ。それより主人公の名前が読めないんだけど」

 至流と書いてどう読むのか俺はそっちの方が気になった。

 姉貴は「もうっ、ちゃんと見て」と注意する。

「最初に出たでしょ。シリュウ君って」

 リュウ・・・・・・。リョウ・・・・・・。

 かなり似てるな。

 美鈴はエロゲの箱を見ながら質問した。

「あの~、このゲーム幼馴染みは出ないんですか? 幼馴染み。一途で主人公の為ならなんでもできる可愛い幼馴染みはどこですか?」

 俺達は色々言いながらも流れるテキストを読み、女の子と友達の男だけについた声を聞いた。

 ヒカルの他にも次々と美少女が出てきた。

 優しいけどどこか幼馴染み。夢見るツンデレ少女。言動のイタいオタク少女。小さな声で話すS系女子。のんびり屋で頑張り屋のお姉さん。

 どれもこれも美少女だらけ。選り取り見取りだ。

 こんなの現実じゃあり得ない。あったら是非変わって欲しいもんだ。

 ヒカルという少女は転校生で、あの日は先に学校を見て回っている途中で屋上に迷い込み、眠ってしまったらしい。

 至流とヒカリは仲良くなり、次第に仲間も増えていく。

 至流は彼らと共に秘密結社『屋上解放部』を設立し、生徒に向ってゴミ共と暴言を吐く前時代的な教師や、豪華絢爛な部屋で権力を思うがままに掌握する生徒会と敵対していく。

 そして色々あって夏休みになった。

 男二人と女五人でお金持ちの先輩が持っている別荘に泊まりに行くイベントが始まった。

 プライベートビーチに三泊四日。

 この男女比で大丈夫かと思うが、キャラクター達の倫理観は髪の色と同様にぶっとんでいるらしい。

 そして問題のシーンに突入した。

 これから起きることを考えると死にたくなる。

 神様。いるならこの家に雷を落としてテレビとノートパソコンを焼き切ってくれ。

     *

――見渡す限りの砂浜が月夜に照らされている。満月は海と空を青く、砂浜を青白く色づけた。この景色も明日の朝で見納めだ。

 ――そこで俺はこの三日間で持った覚悟をぶつける事にした。

 ――俺はスマホを取り出し、電話帳を開いた。

     *

 ここで四つの選択肢が出てきた。

 ヒカル。幼馴染み。親友の男。やっぱり誰も呼ばない。

 この分岐での選択次第で、後々の攻略対象が変わってくる。

 それを見て姉貴が言った。

「ここはメインストーリーのヒカルちゃんでいいよね!」

 しかし美鈴は反対する。

「ええ~。やっぱり王道の幼馴染みですよ。ね? 涼君もそう思うでしょ?」

 思いません。

 神村は割と真剣に考えているみたいだ。

「まだ早いと思います。親友の男に相談してから選びましょう。もしくは親友の男を選びましょう。イケメンですし、優しいですしね」

「うん、もうさ。ゲーム自体やめない?」

 俺の選択肢は当然の如く無視され、三人は喧々諤々の議論をした。

 ちなみにここで誰も呼ばないを選ぶと次のイベントで別のヒロインへの選択肢が選べる。

 だけど、問題はそこじゃない。問題は・・・・・・この次のシーンだ。

 しばらくして議論が終わった。

「じゃあ、今日はメインストーリーで決まりね」

 やはり姉貴がメインキャラをやっているのでそうなってしまう。

 神村と美鈴は一応の納得を見せた。

「そうですね。ヒカルちゃんも可愛いし。他の子は次にしましょう」

「けど、次は絶対幼馴染みですよ?」

 次?

 お前ら次ってなんだ? まだ他にもする気かよ?

 いや、それよりもだ。この展開は非常にまずい。

 大人しく首を縦に振る二人を見て、俺は慌てた。

「ちょ、ちょっと待たないか? ほら、やっぱりエロゲだし、俺達はやっちゃダメだったんだよ」

「今更何言ってるの? ここまで来たら最後までやらないと意味ないでしょ。中杉さ。さっきから男らしくないよ」

 ついさっきまでエロゲ自体を否定していた神村が俺を非難の目で見てくる。

 この理不尽さよ。女が力を持つとろくなことにならない。

 そもそもこれはエロゲなんだ。ヒロインを選択したら――――

「じゃあ、決定ね~。・・・・・・・・・・・・ちょっと恥ずかしいけど、クリック♪」

 姉貴がヒカルの欄をクリックする。

 ・・・・・・・・・・・・終わった。もう死にたい・・・・・・。 

 俺はどうやったら一時的に聴力を失えるかだけを考えていた。

     *

[至流](俺の心は最初から決まってる)

 ――俺はヒカルを呼び出した。しばらくするとヒカルがやってきた。

[ヒカル]「あの、話ってなんですか?」

 ――顔をほんのり赤くしてもじもじと落ち着かないヒカル。白いワンピースを月の光が照らして輝いている。

[至流](うう・・・・・・、本人を目の前にすると緊張する。でも、もう今日しかないんだ。覚悟を決めろ。俺!)

[至流]「今日までさ。凄く楽しかったよな」

[ヒカル]「そうですね。海も綺麗だし、みんなも元気で。わたしも楽しかったです。こんな夏休みは初めて」

 ――ヒカルは本当に嬉しそうに笑った。そう言えば海に来るのも初めてと言っていた。

[至流]「俺もこんなに楽しかったのは初めてなんだ。幸せだった。それで、何でだろうって考えてみると、ヒカルと居たからだって分かったんだ」

[ヒカル]「リュウ君・・・・・・」

 ――ヒカルの大きな目が俺の目を見つめた。ヒカルの目を見ると、俺は自然と勇気が貰えた。何でもできると思えた。

[至流]「俺には何もなかった。夢も希望も。でも、ヒカルと会ってから変わった。今の俺が幸せなのはヒカルのお陰だ。・・・・・・だから」

 ――俺は、ヒカルに手を伸ばした。

[至流]「会った時からずっと好きだった! これからも一緒にいてほしい」

[ヒカル]「リュウ君・・・・・・」

 ――ヒカルは目に涙を浮かべていた。

 ――俺の心臓は信じられないくらい音を立てている。時間がゆっくりと流れていた。俺は神様に祈った。

 ――そして、その祈りは実った。俺の手に、ヒカルの小さい手が触れた。

[ヒカル]「うん。これからもずっと一緒だよ」

 ――その笑顔は、今まで見てきた笑顔の中で一番綺麗で可愛かった。

 ――その言葉は、今まで聞いてきたどんな音より美しかった。

 ――これだけは言える。俺は、今、世界のどんな人よりも幸せだ。

[至流]「ヒカル! 好きだ!」

[ヒカル]「きゃっ!?」

 ――ヒカルをぎゅっと抱きしめた。ふわっとヒカルの体が浮き、可愛く驚く声が砂浜に響いた。俺はそのままヒカルを押し倒してしまった。

 ――すぐ近くにヒカルの顔がある。俺達はしばらく見つめ合う。そして、ヒカルは目を瞑った。

 ――二つの唇が、そっと触れ合った。全身を幸せが包んでいく。唇が離れると、ヒカルの目が薄く開く。

[ヒカル]「リュウ君・・・・・・。優しく、してね・・・・・・?」

 ――俺はぎこちなく頷いた。

      *

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