3-6

 家に着いた頃にはすっかり日が落ちていた。

 古いバンは家の前に停まり、俺と美鈴は降りて挨拶した。

「今日はありがとうございました。楽しかったです」

 美鈴が俺の言いたい事を代わりに言ってくれたので、「俺もです」と簡単に付け加える。

 運転席の恭一さんが笑った。

「またいつでも来てよ。祐二に言ってくれたら迎えに来るからさ」

 その隣、助手席に座っている千紗子さんが美鈴に手を振った。

「お料理で分からない事があったら電話してね」

「はい♪」と美鈴は答えた。

 重い後部席のドアを閉める前に、日宮が手を挙げた。いつも通り飄々としていた。

「じゃあ、また月曜に会おう」

「おう。じゃあな」

 俺がドアを閉めると、軽バンは動きだした。千紗子さんは手を振り、美鈴もそれに応えて手を振った。車はすぐに角を曲がり見えなくなった。

「湯飲みできるの楽しみだねー」

 美鈴はまだ楽しそうだ。それは俺も同じだった。

「そうだな。でも今日は疲れたよ。帰ったらすぐに寝るか。明日は日曜だし。別に予定はないけど」

 俺はぐーっとのびをした。

 すると美鈴が楽しそうに俺を見上げる。

「暇ならどっか行く? それなら見たい映画があるんだ。泣けるラブストーリーでね。カップルで見ると安くなるんだぁ」

 せっかくの誘いだったが、俺はやんわり断った。

 少し一人でいたい気分だった。

「いや、今週は色々あったから明日は家でゆっくりするよ。考えないといけない事もあるしな。映画はまた今度行こう。じゃ、おやすみ」

「ええーまだはやいよー」

 美鈴が笑うのも無理がない。まだ午後七時前だ。

 それでも俺は付かれていた。頭を一度クールダウンさせる必要がある。

 それから行動だ。

 俺が家に入ろうとドアノブに手を掛けた時、美鈴が後ろから声をかけた。

「涼ちゃん」

 手を後ろで組み、優しく微笑む美鈴。振り返えると、美鈴はニコニコ笑っていた。

 この姿を見ると俺はどこか安心できてしまう。

「ん? なに?」

「今日はよかったね」

 それを聞いて俺は笑ってしまった。

 やっぱり美鈴は俺が悩んでいることを知っていたらしい。

 俺は少し恥ずかしくなったが、言うべきことを言った。

「・・・・・・うん。ありがとな」

 美鈴がいなかったら、今日陶芸なんてしなかっただろう。気付けばいつも背中を押してもらっている。

 俺は心からの感謝を簡単な言葉に詰めこんで伝えた。

 少し不安だったが、美鈴にはきちんと伝わったらしい。

 嬉しそうに微笑むと、美鈴は手を振った。

「またね、涼ちゃん」

「おう」

 俺は美鈴の小さな背中に手を振った。

 そしてどこから出てきたやる気を持ったまま、家に帰った。

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