3-5

 食後、みんなで皿を洗ったりして帰る準備をしている時、日宮が俺の隣にやって来た。

 何も言わず俺が皿を洗い、日宮が布巾で拭く。

 その作業をしばらく続けた。

 二人共黙っていたが、嫌な沈黙じゃなかった。

 日宮が前を向きつつ、皿を布巾で拭きながら言った。

「あんまり谷田を心配させてやるな」

「・・・・・・分かってるよ。今まで流されて生きてきたツケを払ってるだけだ」

 その後、また少し沈黙した。皿を一枚洗い終わる。それを無言で日宮に渡した。目は合わせない。合わせる必要がなかった。

「・・・・・・その、すまなかったな」

 日宮はきまりが悪そうに謝った。俺はなんで謝られたのか分からなかった。

 互いに顔を合わせず、蛇口から流れる水を挟んで作業を続けた。

「・・・・・・何が?」

「俺の下で働けみたいな事を言っただろ。半分冗談だったけど、混乱させた。だから悪かった。お前はお前のしたいことをしたらいい」

 相変わらず真面目で物事にまっすぐな奴だ。

 俺はどこか面白かった。

「あれはお前なりの気遣いだろ? 謝らなくていいよ。むしろ考えるきっかけをもらえたと思ってる。お前の言う通り、時間はあっという間に過ぎてくからな。今があっという間に過去になってる。前に進むんなら、少しでも早く進む方向を決めた方がいいんだよ。特に俺みたいな奴は」

「大学に行ってから考えるって手もある。大学生なんて大体はそんな奴ばっかりだ。兄貴もそうだった」

「どうせ何も決まらないまま時間だけが過ぎていくのがオチだよ。流されるだけ流されて、何も持たないまま社会に放り出されたら、野垂れ死ぬ自信があるな。だから今から考えてちょうどいいぐらいなんだ」

 まだ何か決まったわけじゃない。

 でもその予感はしていた。あとは少し勇気を出して選ぶだけだ。

 日宮は小さく苦笑した。

「楽観的なのか、悲観的なのか。よく分からない所がお前らしい」

「・・・・・・まあ、いよいよとなったら頼むよ」

 本音まじりの冗談に、日宮は笑って答えた。

「まかせておけ。お前らに何人子供が出来ようと、俺が全員食わしてやるさ」

 自然と笑い声が出た。その後もしばらく、俺と日宮は洗い物を続けた。

 久しぶりにほっとした気分になった。

 ただ、お前って誰だ?

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