1-5
俺のスマホに美鈴以外の同級生女子の番号が追加されたのは、悲しい事に高校に入って初めての事だった。SNSの友達が一人増える。
本来なら喜ぶべき事なんだろうけど、何故か軽く憂鬱になった。
「じゃあ、お姉さんによろしく」
「・・・・・・おう」
今日の夜に姉貴に神村の事を尋ね、その結果を知らせるという約束をさせられると、神村は嬉しそうに手を振って帰って行った。塾があるらしい。
廊下の先に消えていく神村を見送ったあと、俺はまた大きなため息をついた。
どうせ姉貴は承認する。
ならなんとか工作をしてエロゲ声優である事を隠さないといけない。帰ってから口裏を合わせよう。
そう思って鞄を持って立ち上がると、さっき神村が去って行った廊下に人影が見えた。
まだ何かあるのかと思ってよく見ると、そこに立っていたのは神村とは別の女子生徒だった。
少年の様な子供っぽい目。女子にしては高めの身長。髪も一瞬短く見えるが、よく見ると後ろで長い髪をアレンジしてくくっている。ポニーテールに見えるが、根元で二股に分かれ、それがまるでたすきみたいに揺れていた。
確かクラスメイトだ。
釘笠とかいう名前だった思う。
釘笠は両手を腰に当て、大きな声ではっきりと言った。
「話は聞いたぞ少年!」
誰が少年だ。同い年だろうが。
・・・・・・いや、それよりも・・・・・・。
「・・・・・・聞いた? 何の事だ?」
「とぼけても無駄だ! 見ろ! さっきまでの君と委員長の話はスマホのカメラで全て録画済みだ!」
釘笠は教室に入り、俺に近づきながらスマホの画面を見せてきた。画面には動画が流れ、声もはっきりと聞こえる。
『中杉君のお姉さんが声優やってるって本当?』
『・・・・・・・・・・・・はい。はい? はい』
・・・・・・最悪だ。
さっそくクラスメイトに知られてしまった。それもなんか面倒くさそうな奴にだ。
「・・・・・・お前、盗撮だぞ。こんな事して――――」
「正論はいい。それより君のお姉さんが安土桃花って本当なのか?」
正論って事は自分の非は認めてるわけだ。それでいてこれだけ図々しい。
この時点で非常に厄介な奴に聞かれてしまった事が分かる。
否定したいが、既に証拠が握られてしまってる。
ここで違うと言うと俺が神村に嘘を言ったと釘笠は告げ口しかねない。そうなれば益々面倒な事になるだろう。女の口ほど軽いものはない。
「・・・・・・まあ、一応」
俺がやんわり認めると釘笠はにまーと笑った。
すぐにしまったと思った。こいつが欲しかったのは言質だ。
釘笠はスマホを操作し、そして再び俺に見せた。
そこに書いてあった名前を見て、俺の顔は引きつった。
「安土桃花ってエロゲ声優、真澄みなもの表の名義だそうだな。このサイトに全て書いてあったよ」
バレた――――。
よりにもよってこんな奴に。
もう、殺すしかない。
俺は無意識に鞄に手を突っ込み、無意識にペンケースを開け、そして無意識にカッターを手に持った。
これは全て無意識だ。だから俺は悪くない。
しかしその行動は全ては釘笠に察知されてしまう。
「おっと、物騒な事は考えない事だ。私に何かしたら、この動画をネットに上げるぞ。エロゲ声優の弟がこの学校に通っていると知られたら、暇なオタニートが君を見に集まってくる事になる。そうなりたくなければ、その右手を開いて膝の上に置くんだ。そう。それでいい」
俺が渋々言われた通りにすると、釘笠はさっきまで神村が座っていた席にどかっと座って足を組んだ。そしてにやにやしながら俺を見つめた。
「・・・・・・何が目的だ?」
俺は目を合わせたくないから黒板の方に目を向けてそう聞いた。
不機嫌な俺の態度に釘笠はふっと笑った。
「場所を移そう。ここじゃあ盗撮される恐れがある」
いったいどの口で言ってるんだと俺は歯ぎしりをした。
これから卒業までこいつに弱みを握られたまま学校生活を送らなければならない。
・・・・・・やっぱり殺すしか・・・・・・。
「ついて来てくれ。我が部室に案内するよ」
そう言って釘笠は立ち上がり、不敵に笑った。
一難去らずに、また一難来やがった。
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