トォイ 3
毒の射撃地点までは狙撃を受けた地点から直線距離で五キロ。正直なところ、これくらいの距離なら自分の足で走ったほうが有利だ。距離にもよるがレールガンへの回避確率も上がる。
だがそれでは静穏すぎる。おそらくイチマツさんはまだ毒に辿り着いていないだろう。彼のための囮になるにはこうして直線的で予測の容易なバイクに頼るほうがいいのだ。
「無免許運転、か……」
免許が無くてもバイクは走る。権利が無くても人は殺せる。
ぼくはイチマツさんが試したことをクリアできないまま毒へ迫ろうとしている。フロンはまだ生きているし、ぼくは毒への殺意を研いでいるわけでもない。
遭遇しなければいけないという義務感がぼくの背中を押していた。
どんな鋼人なのだろう。四十年、孤独に戦い続けた歴戦の古兵。両軍の侵攻を停止させるほどの凄腕スナイパー。鋼人の顔は少年少女のままだというのに、貫禄を醸す存在を期待してしまっていた。
センサに軽いノイズが走る。この感覚はすでに知っている。ステルス仕様のイチマツさんだ。
反応を感じたところを見あげれば、樹上に彼の姿を認められた。襲撃地点から二キロの地点で、イチマツさんは鞭を巧みに操り、木から木へと飛び移って移動していた。これなら狙い撃ちにされることはないだろう。
「よう。いいモン乗ってるじゃねえか」
彼に並走するようにバイクの速度を落として草の海を渡る。
「イチマツさんの弾避けですよ。バイクならレールガンのいい的ですからね」
「あの嬢ちゃんはどうした。殺したのか」
イチマツさんの視線が腰の手首に走る。
「フロンはぼくを庇ってレールガンを食らいました。まだ生きてますけど戦闘続行不能です」
「毒が憎くて追ってきやがったか」
「分かりません。会ってみなきゃ。もしかしたら、話し合いで解決できるかもしれないじゃないですか」
「てめぇと毒はそうかもしれねえが、組織や集団ってのはそれを許しゃしねえぜ」
「庇い立てするつもりもありませんよ。毒は人殺しなんですからね」
反射的にブレーキレバーを握り込む。急ブレーキを掛けたバイクの目前を砲弾が横切って過ぎた。角度からしてかなり近づいているようだ。
「スピード落とすと余計に狙われるぜ。先に行っとけ」
「いえ並走します。砲弾をよけられる限界点まではバイクにもってもらわないと困ります。デッドラインは、回避行動に〇・五秒を要すると仮定して毒から約五百メートル地点です」
「やっぱ、弾ァ見てからよけられるんじゃねえかよ」
「砲弾は大きいですし、発射時に赤いプラズマのマズルフラッシュが光りますから、光学センサで捉えやすいんですよ。人間の視覚が物体を認識する速度が〇・二秒といいますから、イチマツさんがぼくと同じ速度で回避できるなら、およそ七百メートルが限界地点ですね」
「馬鹿言うなよ。ギリギリかわしても、俺は次弾が飛んでくるまでに七百メートルも走りきれねえぜ」
そう言いながら、イチマツさんは両手に携えた銀の鞭を張り出した枝に引っ掛けて、猿が木々の隙間を軽々と伝うように宙を滑っていく。やっぱりこの人は人間じゃない気がする……。
「だからぼくのほうを囮にして、バイクを盾にするんです。鋼人の足なら五百メートルを三十秒で走破できます。ぼくが足止めしますから、イチマツさんはその間に接敵してください」
「分かった。俺にとって都合がいいなら断る理由はねえ。だがよ、連射されたらどうすんだ。今は露払いに散発してるだけかもしれねえぜ。デッドラインを超えた後の弾の処理だ」
「大丈夫。向こうは弾切れです。マッハ三という砲弾の弾速はライフル弾の初速程度ですが、これはレールガンという兵器にしては遅いんです。過去に製造されたレールガンは確かマッハ七くらいに達するものだと講習で見た資料に載ってたと思います。この速度差は個人兵装としての携行型レールガンのコンデンサ容量による出力不足かもしれませんが、ぼくは砲弾の仕様が原因ではないかと考えています」
「砲弾?」
「音速の壁を超えた物体はソニックブームっていう衝撃波を発生させるんです。砲弾はそのあたりの石ころを形成加工しただけのものなので、発生した衝撃波に耐えられる限界点が低いんですよ。発射間隔からして、形成、給弾、照準、発射のワンセットで一分近く掛かってます」
「ハンドメイドかよ。まあ補給無しならそうなるか……」
「ぼくの左腕に装備されている空気銃にも同じ仕組みの小型加工装置が搭載されています。これは核になる物体に炭素材の粉末をまぶして熱と圧力で弾丸の形を作るんです。空気銃の弾丸は圧搾空気を受け止めるために、漏斗のようなすり鉢状の受け皿を後部にくっつけるんです。それも材質は炭素材でできています。砲弾の加工手順も多分これと同じものです。単純にサイズを大きくした加工装置があるんでしょう。炭素材は通電しますから、これを電極で挟み込んみ、大電流を流して発生させたローレンツ力で弾を撃ち出すわけです」
イチマツさんは眉間に皺を刻んだ難しそうな顔で尋ねる。
「その炭素材って何でできてるんだ……? 炭素繊維じゃねえんだろ」
「炭素材は炭素材ですよ。ごはんを食べたらプラントで生成される物質です。毒のレールガン砲弾が空気銃の弾丸を巨大にしただけのものなら、弾丸の後ろに炭素材の漏斗がくっついてるはずです。これが通電によってプラズマ化したとき、その膨張圧でさらに加速して、コンデンサの負担を減らしていると思われます。だから正確にはレールガンとサーマルガンの複合兵器でしょうね」
「なーんか、はぐらかされてる気がする……」
「そんなこと言われてもぼくにも分かりませんよ。イチマツさんだって、白血球が何でできてるかなんて聞かれて、答えられないんじゃないですか。それと同じですよ」
「言われてみりゃそうだな」
「あっと!」
光学センサが赤い瞬きを感知した。アクセルを開けて姿勢を下げる。また一発、砲弾が後輪の後ろを通過した。衝撃波が車体を煽る。
発射の瞬間は感知できても、まだ毒の全容は見えない。ただ過剰な殺傷力がぼくに牙を剥いていることが毒の存在を強く意識させた。
「あと少し。絶対に辿り着いてみせる……」
撃ち出されるたびに相対角度が小さくなっていく。そろそろ正面から砲弾が飛んできそうだ。
緑一色の森の中に何度プラズマの光が爆ぜただろう。目標との距離が一キロへと迫っていた。すでに木立の隙間に砲を構える人影がチラチラと垣間見えた。窪地といっても測量の結果に浮かんだ窪みであり、平地とほぼ変わらない地形だ。盆地では海上を狙撃するのに不都合だからこその位置取りだろう。
予備知識が無ければ、ぼくはあっという間に狙撃されて死んでいただろう。
ほぼ真横にいるはずなのに、目を逸らすとそれだけでイチマツさんの存在はおぼろげになってしまう。この距離でこれほどの微細な反応。毒はまだ彼を捉えていないはずだ。
このあたりが仕掛け時だ。
「先行します。ぼくが向かう方向の死角に回り込んで下さい」
一声掛けて、返事を待たずにハンドルを切る。
繁った葉叢の作る天然の屋根が森を薄暗く閉ざし、葉の隙間から細い光の筋が雨のように降り注いでいた。
藪を踏み潰してバイクで乗り越えると、直線状に毒の姿が見えた。
もたれ合うように伸びた幹の額縁に収まり、レールガンの砲弾を撃ち込んで枝葉を散らせた藪に囲まれて、白いヘルメットを被った頭が覗いている。砲口はぼくを睨んでいるはずだ。
さあ、撃ってこい。ぼくは簡単には死なないぞ。
回避不能の距離で放たれても、こっちにはイチマツさんという隠し玉がある。勝利は目前に見えている。ならば命をベットしない理由はない。
コンバットシステムが純化していく。幾多の感情が上限値を突き抜けて、ぐちゃぐちゃに混ざり合ってしまう。名前のつけられないそれがアクセルを開けた。
下草が起伏の複雑な地面を覆い隠している。各種対物センサが瞬時に凹凸を見切って運転に支障は出ない。だが思うようにスピードが乗らない。激しい縦揺れをマシンの馬力だけで押さえつけている。見よう見真似の運転じゃ、やっぱりこんなものか。
フロントホイールの跳ね上がりに注意していると毒への対応がおろそかになりそうだ。
最後に砲弾を発射してからすでに二分が経過した。すでにいつ射撃されてもおかしくない。
デッドラインの五百メートル地点に盛り上がった藪を力任せに突き破った。これでぼくは一撃を喰らうしかない。
小枝がバイクの塗装とズボンの裾を引っ掻いた。片手で安全ヘルメットを押さえて藪を抜けると、森の窪地にぽっかりと開けた空間が広がっていた。
毒は草の中にうずもれるように片膝を立てて座り込んでいた。右肩に白い筒を掲げている。あれがレールガンだ。筒の尻には直径五十センチ程度の同形同大の円盤が三枚、三角形に配置されている。横から見ればクローバーのように見えるだろうか。全長にして二メートルほどのひどくあっさりとした外観の兵器だ。あの形状で、どこにバッテリーや大容量コンデンサを積み込んでいるのだろうか。左手にクーラーボックスくらいの箱型の機械が据えられているが、あれはきっと砲弾の形成加工装置だ。鋼人の炭素材を供給するように左腕に接合されている。
毒は砲口をぼくに向けているが、レールガンを発射する気配がまるで感じられない。元来、発射音や反動の少ない兵器だが、それでも砲身に電流が流れば気持ちの悪い磁力線の束をセンサが認めるはずだ。
砲身の代わりに磁力線の渦が発生している箇所を見つけた。あの三つの円盤だ。
何かおかしい。どうしてそっちに磁力が生まれるるんだ。それも尋常じゃない磁力だ。
疑問を持つのが遅すぎた。次の瞬間には、ぼくの視界はプラズマの光に塗り潰されていた。
空気を引き千切る雷鳴のような雄叫びを上げ、下草に黒焦げの線を引きながら、光はバイクを直撃した。車輪が溶けながら割れ、エンジンとバッテリーが電解液をまき散らしながら四散した。フレームは飴細工みたいに曲がってぼくの身体を放り出した。
草の上を転がって止まると、一瞬遅れて吹っ飛んだ車体がぼくの目の前に落下した。危うく頭を潰されるところだった。
「あっちも隠し玉ってわけか……」
手元に転がっていた点火プラグの欠片を左腕の空気銃に装填し、臨戦態勢で立ち上がる。
毒へ向き直ってあの円盤に既視感を覚えた。一昨日、路地で同期の鋼人たちに囲まれたときの感覚だ。彼らの気配がレールガンの円盤パーツから漂っている。
そうだ。これはコアエンジンの共振する感覚だ。ぼくのコアエンジンは正常に運転している。あの円盤内で大量のコアエンジンが一斉に稼働しているのだ。
読めたぞ。バッテリーもコンデンサも無いわけだ。あの円盤はコアエンジンを直列に繋いだ発電機なんだ。たったあれだけで街を丸抱えして有り余るほどの電力保有している。
さっき発射されたものは、電力を砲弾に変換したプラズマ砲なのか。いや、違う。それじゃ空気中に拡散して的を絞ることなんて出来ない。落雷を自在に操るようなものだ。
「荷電粒子砲……だって、いうのか……」
あの円盤型発電機はそのまま超小型シンクロトロンとして機能しているのだ。発電機とモーターは同じ仕組みだ。理屈は通っている。ただしモーターが駆動させるのは荷電粒子だ。コアエンジンは電磁波を受けて各種の電磁気力を生み出す機関。それならば三つの円盤に発電と加速の役割を分担させ、発電の片手間に粒子を加速させればいい。荷電粒子は円盤内をトラック競技に参加する陸上選手のごとくグルグルと回り続ける。発電用の円盤では一定速度を保って回り、コアエンジンを撫でるたびに発電の手助けをする。シンクロトロン放射によるエネルギーロスも、周囲がコアエンジンなら電磁波を媒介する光子が粒子から飛び出したときエネルギーとして回収できる。無駄が無い。粒子加速用の円盤が荷電粒子に破壊エネルギーを蓄積させて、レールガンの砲身がそれを撃ち出すわけだ。
この電力不足の時代に、なんとも贅沢な兵器じゃないか。もしも砲身が四つ目の円盤なら完全に無駄を省いた発電所の完成だ。
あれを鹵獲して四つ葉のクローバーに改造すれば、祖国の貧困も多少は持ち直すかもしれない。毒が一転して劇薬になる可能性を持ち始めた。元々うちの国が作った兵器なのに、鹵獲っていうのも変な感じだけれど……。
手柄を立てよう。毒を制して、フロンと帰ろう。
壊れたバイクの荷台から革鞄を取り外して握った。荷電粒子の生成と加速にはまだ時間が掛かるだろう。今のうちに間合いを詰めなければ。
そう思っているうちにまた円盤の磁力が強まる。第二射の準備が始まっている。
荷電粒子砲自体は欠点だらけの兵器だ。加速器に大量の電力を必要とし、撃ち出した荷電粒子も工夫が無ければ直進すらしない。電力に関してはコアエンジンの大量投入で永久機関じみた発電設備を有するためクリアされている。だがどうやって荷電粒子を直進させているのかが分からない。
レールガンの砲身を利用して電磁誘導で発射していることは見抜けるが、問題は発射してからだ。電荷を持った粒子たちは互いに反発して拡散するし、電磁気力の影響を受けて軌道を曲げる。加速器の力だけで五百メートルも真っ直ぐ飛ばすなんて出来っこない。
何かカラクリがあるはずだ。それが分からなければ、毒までの五百メートルをゲインすることは難しい。
複数の加速器でプラスの電荷の粒子とマイナスの電荷の粒子を別々に加速させて射出時に混ぜ合わせ、中性粒子ビームとして発射しているのだろうか。しかしそれだと電磁気力の影響を受けないことが仇となり、レールガンの砲身で射出方向を合わせられない。左右の加速器で十分な加速を得てから、残った発電用の円盤を最終加速用に切り替えて発射するのか……。
違う。そうじゃない。荷電粒子砲はレールガンのように反動の少ない兵器じゃないんだ。鋼人の支えられる限界の射程がさっきの五百メートル地点だったんだ。中和なんてしたら、ただでさえ大きい反動を倍化させることになる。やっぱり荷電粒子を撃ち出しているに違いない。
理屈が分からなくても、ぼくには駆け出すしか選択肢が残されていなかった。
高機動戦闘用の瞬発重視の加速。フロンの得意な跳ねるような突進で荷電粒子を加速する毒へと走る。遭遇戦において短距離を詰めるこの走法は少なからず脚部へ負担を掛ける。何キロも走れるものじゃないけど、一直線でなくランダムに飛び跳ねれば狙い撃ちも避けられる。
立ち上がるのにもたついていたせいで二百メートルも進まないうちに円盤の磁力が発射寸前に高まっていた。第二射が来る。
砲身が再び咆哮を轟かせた。ぼくの歩幅を見計らったように発射された光の奔流は、勢いを殺さずにもう一歩踏み込んで加速をつけたぼくの背中をかすめて通り過ぎた。
なんて奴だ。こっちの動きに簡単に追いついてきた。
負けていられない。まだ走れる。跳びすぎてずれた進行方向を修正してまた疾駆する。
荷電粒子を加速させる毒には焦りの色を感じない。本当に鋼でできた人みたいだ。
第三射にも間に合わないのか、と感じ始めたときだった。
不意に毒の背後からぬるりと黒いジャケットの人影が飛び出した。
「イチマツさん!」
何をしたんだ。どうして回り込んだ彼がぼくを追い越して毒の背後に飛び出すんだ。
ぼくのバイクも大した速度は出ていなかったが、それにしたって早すぎる。
イチマツさんのことだ。回り込む、という言葉の意味を都合よく解釈して、鞭を操って樹上を最短距離で飛んできたんだろう。やっぱりこの人はとんでもない。とんでもなく頼もしい!
毒との相対距離が三百メートルを切ったところで、その毒の背後に現れたイチマツさんは銀の棍棒を鞭へと変じさせる。
が、そこまでだった。
イチマツさんはぐらりと身体を揺らすと、自慢のまっすぐな背筋を崩し、糸の切れた操り人形のように全身を地面に投げ出した。
「なっ、なんで!」
毒が何かやったようには見えなかった。まるで急に意識を失ったような倒れ方だ。
毒はいきなり現れ、いきなり倒れたイチマツさんに一瞥もくれず、ぼくに砲口を向ける。
ぼくは足を止めた。射線に射竦められたように動きを止め――理解した。
「イチマツさん! 聞こえてたら耳塞いでくださーい!」
救急キットや水を詰めた革鞄の蓋を剥がすようにして開けて、中から細長いボトルを取り出す。バイクから抜き取った水素ボンベだ。
第三射の予兆を感じ、ぼくはボンベを射線上に投擲した。緩い弧を描き、金属のボンベが宙を走る。
左手を構え、タイミングを計って空気銃を発射。同時に荷電粒子砲が放たれる。
水素ボンベを空気銃の弾がぶち抜いた。水素ガスが噴き出し、着弾時に散った火花が爆発を誘った。そこに荷電粒子砲の奔流。さらなる爆炎が空に吹き上げた。
空気銃の発射と共に横合いに飛び退いたが、第三射は爆発の影響で弾道を曲げて木立を薙ぎ払って黒焦げにしていた。
ボンベは毒から五十メートルほどの場所で爆発した。十分な距離だと思う。『二酸化炭素』を振り払うには。
イチマツさんが卒倒して勘付いた。毒は二酸化炭素を生成して荷電粒子のガイドレールにしていたんだと。他の分子が空間に密集していれば、粒子はその層の薄い場所を選んで進むしかなくなる。これで粒子の拡散を防いで何十メートルかの直進距離を稼いでいたのだろう。
イチマツさんは生成される二酸化炭素の海に溺れ、急激な酸欠によって倒れてしまったのだ。
でも荷電粒子砲の高温下で水素が爆発したんだ。これで二酸化炭素は酸素と炭素に分解される。ついでに二酸化炭素のガイドレールも取っ払える。
「追い詰めたぞ。毒……」
相対距離、二百メートル。荷電粒子砲は撃ててあと一発。この距離ならガイドレールなんて有っても無くても無意味。
追い詰められたのはぼくも同じだ。もう走り切るしか無い。全力で。
跳ね起きて強く大地を蹴る。もうもうと白煙の昇る空間を駆けた。
毒は淡々と荷電粒子を加速させている。ぼくを近距離で仕留めるつもりだ。
ボンベの爆発した地点を過ぎたときだった。発射の予兆を感じて、ぼくは腰に手をやった。
「フロン。君の力を借りるよ」
腰にぶら下げたフロンの右手を投げつけた。同時に最後の荷電粒子砲が発射される。
プラズマの光が千切れた右手に仕込まれたコアエンジンを揺さぶった。
中空に生まれる電磁気力の渦。そこに荷電粒子が殺到する。露出したコアエンジンが聖なる宝玉のように凶悪な熱量を土砂降りの光の粒に散らせた。
流星雨さながらに火花が爆ぜ、荷電粒子の奔流が過ぎ去った後には、外皮が融解して青い血がバラバラのパーツに癒着してしまった残骸が地面に転がった。
毒が吹き飛ばしたフロンの手が、毒自身の最後の砲撃を防いでみせたのだ。
手の残骸から欠片を拾い上げ、空気銃に装填。一気に毒との間合いを詰める。
毒は白いヘルメットを外して、担いでいたレールガン・ユニットを地面に下ろした。麦穂色の髪が外気に晒され、琥珀色の瞳が細く射し込む陽の光を受けて輝いた。左腕の砲弾加工装置が外れ、黒い鱗が剥がれ落ちるように炭素材のカスが零れ落ちた。
毒が重い腰を上げて立ち上がったとき、ぼくはもう彼の目の前に立っていた。
立って――立ち尽くしていた。
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